2020年4月29日水曜日

バンダナとマスク争奪戦

 かつて米ハリウッドでは西部劇が量産された。その西部劇で銀行や平穏に暮らす住人を襲う悪漢は、鼻と口をバンダナで隠す扮装で銃を構えるのが定番のスタイルだった。正義の主人公は、顔を隠すことはしない(映画では人気役者が正義の主人公を演じるので、顔を隠す演出は御法度)。

 バンダナとは大型のハンカチで、頭を覆ったり首に巻いたりするファッション小道具でもある(女性が使うスカーフと似ている)。そのバンダナで顔の下半分を隠すスタイルが米国で復活したという。CDC(米疾病予防管理センター)が、外出時に医療用ではない布製マスクの着用を推奨し、バンダナやスカーフなどで口を覆うことも認めた。

 これまでも感染者にはマスク着用を促していたが、非感染者はマスク着用の必要はないとしていた。だが、感染者が増えた地域などに無症状の感染者が多数存在し、他人にうつして感染を拡大することが懸念され、外出時には幼児以外の誰もが鼻と口を覆うようにと変更した(布製マスクとしたのは、サージカルマスクなどを医療機関用に確保するため)。

 感染が世界的に拡大し、日本全国でも感染者が急増しているのだから、無症状の感染者はおそらく膨大な人数になり、そこここに存在して、無症状の誰もが(あなたも私も)感染者である可能性がある。感染拡大の抑制には人々のさらなる協力が必要となり、外出時のマスク着用はマナーから防疫対策に格上げされた。

 だが日本ではマスクは店頭から姿を消したままで、争奪戦が続き、ネットなどでは価格が高騰しているという。マスクの需要が高まったのは着用者が大幅に増えたからで、外出する人々の大半がマスクをするようになり、白色が多いものの手作りなのか様々な色彩も増えた。一方で、バンダナやスカーフで鼻と口を覆っている人を日本で見かけることは少ない。

 マスクを着用する目的は飛沫感染を防ぐことだ(ウイルス侵入を防ぐことができる医療用マスクは医療機関でも不足しているので、一般人が使うべきではない)。飛沫感染を防ぐためには、鼻と口を覆う何かを着用すればいい。それで着用者が感染者であっても周囲の人が感染者であっても、飛沫感染を抑制することができるので、マスクに限定する必要はない。

 目的と手段を混同している好例がマスク争奪戦だ。マスクを着用する目的を理解しているなら、マスクを懸命に探し回るよりは、まだ入手しやすいバンダナやスカーフなどで外出時には鼻と口を隠せば飛沫感染抑止という目的を果たすことができる。マスク争奪戦に懸命になる人々と、マスク争奪戦をネタとして報じるだけのマスコミは、マスク着用の目的を理解していないか失念している。

2020年4月25日土曜日

戦時体制と国家権力

 米トランプ大統領は3月18日、「まず戦争に勝たなければいけない。私は戦時下の大統領」だと言い、朝鮮戦争下の1950年に成立した米国防生産法に基づき医療品メーカーに増産を求めた。同法は、国家安全保障に必要な製品の増産を民間企業に指示する権限を大統領に与える。

 同じ日、独メルケル首相は感染対策として人混みを避けるなど予防規則を守ることが重要だとし、国民に「戦時体制の結束」を呼び掛け、「第二次大戦以降で最大の困難に直面しており、結束した対応が非常に重要」だと協力を訴えた。同首相がテレビで国民に直接演説したことは初めてだという。

 自由行動の制限などは「民主主義社会で容易に発動されてはならず、暫定的でないといけないが、今は多くの命を救うために欠かせない」とした同首相は、感染拡大の抑制が急務だと強調した。フランスやイタリア、スペインなどと比べて厳格な規制ができないから、外出自粛などの協力を得るためには言葉を尽くして国民を説得しなければならない。

 仏マクロン大統領は3月16日、「戦争状態にある」とし、仏全土で人々の外出を制限し、違反者は処罰すると発表した。友人や親族らと集まることも禁止し、年金改革など全ての改革を棚上げ、統一地方選の2回目投票を延期した。また、シェンゲン協定を停止して国境を封鎖することも宣言した。

 同大統領は12日に、新型コロナの感染拡大は「衛生上の最重大事態」だとして外出を控えるよう呼びかけ、教育機関の閉鎖など人々の協力を求めたが、日曜日に公園で多数の人々が日光浴を楽しむなど外出自粛要請の効果は限定的だった。人々の協力が得られなければ感染拡大抑制は困難と、強制力の行使に踏み切った。

 戦時体制とは国家権力が強制力を露わにする体制で、人々や民間企業などの行動を統制し、一定の方向に向けさせる。日本やドイツなどは過去の歴史に伴う社会的制約から、非常時においても国家権力の強制力行使には制限が設けられているので、非常時には国民を説得して協力を得るしかない。

 国家権力が強制力を行使することが許される国における戦時体制はまた、民主主義がフリーズする体制であるが、民主主義が放棄されたわけではない。選挙で示された民意に基づく国家権力は、強制力を行使することの必要性を国民に納得させなければならない。やはり、言葉を尽くして国民を説得しなければならないことは同じだ。

2020年4月22日水曜日

都会生活とウイルス

 集団感染の防止のために「3蜜」(換気の悪い密閉空間・多数の人が集まる密集場所・間近で会話や発声をする密接場面)を避けることが奨励されている。換気が悪い建物や交通機関内で、不特定多数の人が集まっていたり、人々が飲酒やライブなどで楽しんでいたりすると集団感染のリスクが高まるとの警鐘がマスコミでも繰り返されている。

 3蜜の状況は都会での日常である。朝夕の通勤通学時には駅も車内も不特定多数の人々による密集空間になり、就業時の社内や営業時の店舗内、各種の学校なども密集空間だ。繁華街には飲食店が多数あって、映画館や劇場、大規模書店、ライブハウス、遊興施設、風俗店などにも人が集まる。歩道には人があふれている。

  JRや地下鉄、バスなどの交通網が張り巡らされ、大半の場所に誰でも行くことが容易で人は活発に移動し、就業や就学の機会が非常に多く、また、様々な趣味や歓楽を満たす場所があって、行き来する人々が多い都会。人との出会いの機会が豊富で、流行や情報の発信地でもあり、人々を惹きつけるので地方から人が集まる。

 3蜜を避けることを徹底することは、都会で生活することの否定となる。人が集まる場所を避け、人が集まることを断念し、街中では他の人との距離を開けて行動し、仕事や受講は自宅で行い、気軽に飲みに行くことを断念し、劇場や映画館などは閉鎖されて、交流や情報収集はもっぱらインターネットに頼る生活。

 そんな生活なら、都会に住む必要はない。人に会わないのなら過疎の田舎に住むことと同じだ。田舎暮らしなら、気軽に外出したって3蜜にはならず、空気のいい自然の中で気分を一新することは簡単だ。広い原っぱや海岸で風を受けて小憩し、山の木々の新緑を愛でることを楽しみと受け取ることができるなら、都会暮らしは色褪せよう。

 密閉・密集・密接の3蜜を避ける生活を強いられるなら、都会に住む必要はない。インターネット網は地方にも張り巡らされているので、田舎暮らしでも時流に遅れることはない。大きな企業や学校、歓楽街や劇場、映画館など田舎にはないが、そうした場所に行くことがない(できない)なら、自然環境がいい田舎に住んだほうがいい。欲しいものは田舎でもネット通販で手に入る。

 さらに、人々が過密な都会は大地震に脆弱だ。今回のコロナ禍を契機に、密集して生きる都会のマイナス面を人々が意識し、都会への人口集中が是正されるなら災害に「強い」日本へと変身する契機になるかもしれない。新型コロナウイルス騒動は感染症にほとんど抵抗できない都会の姿を見せつけた。

2020年4月18日土曜日

ウイルスと祈り

 新型コロナウイルスの感染が韓国で大規模なのは、新興宗教団体で集団感染が発生し、信徒が各地を移動して感染を拡大させたためだという。その団体の教祖は信者に「今回の病魔事件は(自分たちが)急成長しているのを悪魔が阻止しようと起こした仕業だ」などのメッセージを送ったとも報じられた。

 悪魔が自分らの宗教活動を阻止しようとしていると判断するなら、より堅固な信仰心で立ち向かわなければならないと宗教集団は信者を引き締め、集まって熱心に祈ることを正当化できるだろう。新型のウイルスの感染が広がっていると認識するより、 悪魔を持ち出すほうに現実感を感じるのが信仰者の感覚なのかもしれない。

 イランは中国に続いて感染が拡大した国で、感染者・死者ともに相当数になると見られている(中国同様に当局の発表数字は政治的に修正されている気配)。シーア派の聖地コムでの毎週金曜日の集団礼拝などに集まった人々から全土に感染が広がったといわれ、さらに中東の各国にも広がったという。宗教的な価値観を科学などより優先させる国情もあって感染拡大を抑え込むことに失敗した。

 世界には多くの宗教があるが、信徒が集団で礼拝することは共通する。数十人から数百人、数千人まで集団礼拝の規模は様々だが、集団礼拝の場はいわゆる3密になる。各国で宗教団体は感染拡大を恐れて集団礼拝を取りやめ、聖職者のみで儀式を行ってインターネットで中継するといった対応をとるが、信仰のパワーを信じて集団礼拝を強行する集団もあるという。

 新型のウイルスは人々の生命を脅かす現実的な脅威だ。いくら熱心に祈ったところで、信者が感染することを阻止することはできないだろう。だが、ウイルスによる健康や生存、生活などに対する現実的な不安が大きく、具体的な対処方法が乏しい中で人々の無力感は増すだろうから、祈ることの重要性が信徒にとって増すのかもしれない。

 世界をつくったのは神ではなく、物質は原子でできており、人間は哺乳類に属し、意識は脳内の電気信号の働きによることなど現実世界の構造が明らかになったが、人はなお宗教にすがる。現実世界に対して、祈ることしかできない宗教は無力だが、来世を設定することで宗教は生き延びている。

 来世の存在は検証不可能だが、来世が存在すると信じれば現世で信徒は祈るしかない。現実世界に無力な宗教は来世に対しても無力だろうが、それぞれに救済などのストーリーを持ち、来世に対して宗教は無力ではないとする。それを信じて信徒は祈る。

 日本の各地で神社や寺院が疫病退散などを祈る行事を行っているという。日本で宗教は此岸性が強いから現実世界の出来事に反応するのは珍しくないが、皮肉を言えば彼らの祈りよりも、例えば、丁寧な手洗いのほうがウイルスの感染拡大防止には効果があるだろう。

2020年4月15日水曜日

国家による経済活動

 人々の外出禁止や店舗の営業禁止などで経済活動がほとんど停止した各国は、資金繰りに窮する企業や生活不安に怯える人々を救おうと、相次いで大規模な財政出動による経済対策を発表している。日本も事業規模108兆円の緊急経済対策を決定した。

 2008年のリーマン・ショックでは米金融機関の破綻から世界的な経済危機となったが、今回は各国で小売りや飲食業など実体経済の川下から危機的状況が広がり、家計へも影響が急速に及ぶ可能性が高い。今回の各国の経済対策は、金融機関を救うことや景気対策は後回しで、企業や家計を支援することが最優先だ。家計への現金給付も各国で現実化している。

 今回は金融経済ではなく実体経済に大きなダメージが急速に広がっているのだから、企業や家計の存続に経済対策の重点が置かれるのは当然だ。店舗や中小企業がバタバタとつぶれ、失業した人々が溢れたなら、金融システムの健全性が当面は保たれたとしても、そんな社会に意味はない。社会は崩壊していくだろう。

 実体経済が川下から機能停止すると、大企業も危うくなる。ほとんど運航を停止したので各国の航空会社の経営不安は現実化し、生産停止が長引き、販売が回復しないなら各国の自動車会社や家電会社なども経営難までに長くはかからないだろう。自動車会社などの経営が揺らぐと、その波及する影響は大きい。需要が大幅に抑制された市場経済は持続困難な経済である。

 需要の“蒸発”は、市場経済の終焉だ。感染拡大が終わるか、免疫を持つ人が多数になって新型コロナウイルス感染が他のインフルエンザと同様の疾病に落ち着いたなら、経済活動が再開して急速に世界で経済は持ち直すだろうが、先行きの見通しは誰にもわからない。明確なのは、現在は市場経済が機能しなくなっていることだ。

 民間による経済活動が機能しなくなり、収入が絶たれたとしても人々は生きている。民間による経済が機能しないなら、人々の生存や生活を支えるためには国家による経済活動しか残っていない。国家による経済は民間経済とは異なる原理で動く。利潤や効率などではなく、人々の生存や生活を維持することが目的。不況時には公共事業で需要を創出し、今回のように民間経済が停止したなら、国家経済が企業と家計を支えなければならなくなる。

 国家による経済活動を中心にすることは共産主義の国では日常だが、資本主義の国では非常事態だ。さらに、国家による大規模な経済活動で市場経済が再起動したとしても、巨額の財政支出で巨額の財政赤字が後に残され、紙幣の大量流通によりインフレとなる懸念がある。インフレとなって金利が上がれば巨額の財政赤字がさらに重くのしかかる。

 現在を戦時体制にたとえる各国の首脳が多く、非常事態であるから国家による経済活動しか人々が生き延びる方策はないだろう。だが、世界で感染拡大が終焉し、人々が日常へと復帰し、民間による経済活動が活性化したとしても各国の経済は大きなダメージを引きずる。

2020年4月11日土曜日

ウイルスと検査

 ウイルスとは何か。研究者や研究所、製薬会社のサイトから調べてみた。

 ウイルスの大きさは数十nm〜数百nm(1nmは1メートルの10億分の1)で、電子顕微鏡でやっと見ることができるサイズだ。ウイルスには中心にある核酸にDNAを持つものとRNAを持つものの2タイプあり、核酸を蛋白質が囲み、それをインフルエンザウイルスなどでは脂質の膜(エンベローブ)が囲む。ウイルスは自力では増殖できず、他の生きた細胞に寄生して増殖する。

 ウイルスは感染した相手の細胞の中に入り込み、細胞の核の中でDNAまたはRNAを複製させるとともに蛋白質もつくらせ、増殖し、細胞から放出される(感染できる細胞はウイルスの種類によって異なる)。細胞に影響を与えずに細胞の中に入ったウイルスだけを無害化することは難しく、抗ウイルス薬の開発は簡単ではない(ワクチンは予防に効果があるもので、治療に使うものではない)。

 ウイルスの検出方法には、①電子顕微鏡で直接観察、②抗原抗体反応を利用、③遺伝子の増幅、④ウイルス感染細胞を観察などがある。PCR検査は、ウイルスの遺伝子を増幅して、増幅した遺伝子を検出するもの。検体の中に目的の遺伝子があって増えて確認できれば「陽性」と判定し、検体の中に目的の遺伝子がなければ増えないので確認できず、「陰性」と判定される。

 検体は新型コロナウイルスでは対象者の鼻や喉から採取するが、たまたま採取した個所にウイルスが存在しなかったり、採取が正しく行われなかったり、検査機関までの検体の運搬に支障があったり、検査前の処理に問題があったりすると、検体にはウイルスが存在しないことがある。その検体でPCR検査すると陰性になるだろうが、その検体にウイルスが存在しない=対象者の体内のどこにもウイルスが存在しない、とはいえない。

 PCR検査の感度とは、感染している人を検査で陽性と判定する確率。感度70%とすると、感染している人1万人を検査して陽性7千人、陰性3千人となるが、この3千人は実際にはウイルス保有の感染者だ(偽陰性)。ウイルスに感染しているのに陰性と判定され、この3千人が「自分は大丈夫だ」と出歩くとウイルス感染を広めかねない。

 検査機器の感度が30%だったとすると、感染している人1万人を検査して陽性3千人、陰性7千人となる(偽陰性)。これでは検査の意味がない。スペインは中国企業から購入したPCR法ではない簡易検査キット約5万8000個を不良品だとして返品した。感度80%のはずだったというが、実際には30%だった。偽陰性の感染者が野放しになり、感染拡大を促進しただろう。

 PCR検査の特異度とは、感染していない人を検査で陰性と判定する確率。非常に高いとされるが、特異度99%の場合、感染していない人1万人を検査して陰性9900人、陽性100人となる(偽陽性)。この100人は感染していないのに感染者として扱われる。

 PCR検査の数を増やすことは感染の実態を、より正確に把握するために効果があるだろう。だが、PCR検査の数が増えることで同時に、偽陰性と偽陽性の人が増える。偽陽性の人が増えても社会的に実害はないが、偽陰性の人が増えて、それらの人が出歩くことで感染を広める可能性がある。

2020年4月8日水曜日

米国の惨状

 日本では、居住する全員が国民健康保険など何らかの公的な医療保険に加入する国民皆保険制度が実現している。加入している日本人らはどこででも医療機関で診察や治療を受け、会計で保険証を提示すれば自己負担は医療費の一部だけで済む。

 日本が採用している国民皆保険制度は社会保険モデルで、ドイツやフランスなども導入している。「国民の多くが医療保険に加入し、その保険料を医療費の財源」とし、「医療機関は開業が自由で、国民による医療機関の選択も自由なのが一般的」だ(厚労省サイト)。

 英国や北欧諸国などが採用しているのは国営医療モデル。税金で国が国民など居住者に無料で医療を提供する。人々は近隣の診療所に登録して診断や治療を受け、診療所の医師が必要と判断した場合にのみ大規模な病院で受診できる。病院は全て国営。ただ英国では予算カットで病院の設備の充実などが遅れ、人件費カットで医師が減り、病院での受診は時には数カ月も待たされるという。

 米国は、民間保険が主の市場モデル。公的な医療制度は、高齢者と障害者と生活保護受給者を対象とするものはあるが、多くの人々は、企業が保険料を負担する民間保険か自己負担で民間保険に加入する。無保険者は人口の1割、数千万人いるとされ、問題視されている。民間病院が中心で、医療費は高額。一般の初診料は150~300ドル、入院すると室料は1日あたり数千ドル、上腕骨骨折で入院手術(入院は1日)は1万5千ドルなどという。

 そんな米国で新型コロナウイルス感染が拡大し、感染者数は世界最多となった。3月に成立した法により新型コロナウイルスの検査は無償となったが、検査で感染が判明し、症状が悪化して入院して治療した場合、高額な治療費がかかる(実際の例として、無事に退院できた人への請求額は3万4000ドルを超え、保険に入っていた人でも保険外分として2万ドル請求されたことが報じられた)。

 高額な治療費を恐れて症状があっても病院を訪れない人が多いと危惧されているが、米国の医療制度から除外されている不法移民が数百万人いて、失業保険の申請数が1千万件を超すなど企業の健康保険から出された人々が激増し、市場競争・自由競争に委ねた米国の医療制度が社会的に脆弱であることが浮き彫りになっている。

 おそらく症状があっても病院に行かない、または、行けない人が多いであろう米国。米国で感染者や死者が急激に大幅に増加したのは、すでに感染が広がっていたのが可視化されただけかもしれない。人々の健康や生命さえも市場の自由競争に任せ、感染症に圧倒されている米国の現状は惨状としか言いようがない。

2020年4月4日土曜日

ドキュメント「パンデミック3月」

 新型コロナウイルスは欧米での感染拡大が顕著になり、感染者数・死者数ともに中国の発表数を上回り、なお増加を続けている。

 <3月>1日=イタリアで感染者が1千人超す。横浜港でクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員全員の下船が完了。
 2日=中国で感染者が8万人超す(感染者の9割は湖北省に集中)。米国で初の感染者を確認。ドイツの感染者が150人超す(3日間で3倍増)。
 3日=米国の感染者が100人超す。
 4日=イタリアは国内すべての学校を休校。米カ州ロサンゼルス郡が非常事態宣言。東京都は花見の宴会を自粛するように呼びかけ。
 5日=中国で死者が3千人超す。日本は中韓からの入国を大幅に制限。
 6日=韓国は日本へのビザ免除措置を停止。
 7日=世界の感染者数が10万人超す。米ニューヨーク州が非常事態宣言。
 8日=感染国・地域数が100を超す(感染者は世界全体で10万5586人、死者3584人)。イタリアはロンバルディア州など北部地域を大規模に封鎖。米国の感染者数は511人で、8州が非常事態宣言。
 9日=イタリアの感染者が9172人になり韓国を上回る。ドイツの感染者が1千人超す。NYダウが2013ドル安で下げ幅は過去最大。
 10日=オーストリアはイタリアからの入国禁止。イタリアは全土で個人の移動を制限。中国の習近平国家主席は初めて湖北省武漢市を視察。
 11日=WHOは新型コロナウイルスの感染拡大はパンデミックと表明。米国が欧州からの入国禁止。米国の感染者は1110人、死者30人。イタリアは全土で飲食店などの店舗を閉鎖。
 12日=アルゼンチンは米国や欧州などからの航空便の受け入れ停止。米ダウは2352ドル安で下げ幅は過去最大。中国は新たな感染者が減り続けていることから「中国での流行のピークは過ぎた」と主張。
 13日=世界の死者が5千人超す。スペインが非常事態を宣言。トルコは欧州9カ国からの旅客便受け入れを停止。日本で改正特措法が成立。
 14日=スペインが市民の外出を制限。フランスは全国のレストラン、バー、映画館などの営業を禁止。ポーランドは外国人を対象に国境を封鎖。
 15日=全米の感染者は3000人を超す。南アフリカが国家的災害事態を宣言。ケニアは外国人の渡航を原則禁止。ドイツは隣接する5カ国との国境を事実上封鎖。
 16日=中国以外の感染者と死者の総数が中国を上回る。米サンフランシスコ市が市民の外出禁止。中南米諸国が国境閉鎖。エジプトは国内の全空港を閉鎖。ドイツは食料品店や薬局などを除く店舗を閉鎖。
 17日=米国の感染者数が5000人を超す。EUは外国人のEU域内への入国を原則禁止。フランスは全土で外出を制限。
 18日=感染者が世界で20万人を超す。全米の感染者が7323人。米国は全世界のほとんどの国でビザの発給業務を停止。NY原油が20ドルまで急落。マレーシアは国境を事実上封鎖し、外国人の入国を全面的に禁止。ロシアは外国人の入国を原則禁止。日本は欧州など38カ国を入国制限の対象に追加。
 19日=米国の感染者が1万人超す。イタリア当の死者が3405人となり、中国を上回って世界最多。米カリフォルニア州が外出禁止命令。
 20日=世界で死者が1万人超す。イタリアの死者が前日比627人増え4032人。スペインの死者が1千人超す。英政府は休業に追い込まれている全ての労働者に月給の80%を支援。オーストラリアは外国人の入国を原則禁止。フィリピンは外国人の入国を禁止。米ニューヨーク州は同州の事業者の全従業員に対在宅勤務をするよう要請。インドネシアの首都ジャカルタは非常事態宣言。
 21日=全世界の感染者が30万人を超す。米国の感染者が2万人超す。スペインの感染者が前日比5千人急増の約2万5千人 。日本で国内の感染者が1千人超す。
 22日=米国で感染者が3万人超す。イタリアで死者が5千人超す。英政府は150万人に自宅待機をするよう要請。シンガポールは外国人旅行者の入国を禁止。
 23日=中国の武漢市は地下鉄など公共交通機関の大半を約2カ月ぶりに再開へ。中国は無症状の感染者4万3千人を統計から除外したと香港紙報道。
 24日=シンガポールは娯楽施設の営業を停止。
 25日=IOCは東京五輪の1年程度の延期を承認。死者は世界で2万人超す。スペインの死者は3434人で中国(3285人)を上回る。インドは全土で外出禁止。ニュージーランドは国家非常事態を宣言。東京都は感染者の大幅増化で不要不急の外出自粛を都民に要請。
 26日=世界で感染者が50万人超す。米国の感染者は8万3507人で世界最多。米国の失業保険申請件数が328万件と急増し、過去最多。メキシコが連邦政府の不要不急の業務を停止。タイは商業施設の閉鎖などを盛り込んだ非常事態宣言(外国人の入国は原則禁止)。インドは貧困層を中心に1兆7000億ルピー(約2.5兆円)の経済対策(約8億人を対象に5kgのコメか小麦を無料で支給)。
 27日=米国で2兆ドル(約220兆円)の大型経済対策法案が成立。ロシアが全ての国際線の運航を停止。
 28日=イタリアで死者が1万人を超す。スペインで死者が5千人超す。米国の感染者が12万人超し、死者2千人超す。英国で死者が1千人超す。ブラジルとインドネシアで死者が100人超す。中国は外国人の入国を停止。
 29日=世界の死者が3万人超す。米国は市民の行動制限を4月末まで継続。オーストラリアは公共の場所での集まりを家族を除き2人までに限定。
 30日=世界の感染者が70万人超す。米国で感染者が16万人超し、死者が3千人超す。イタリアで感染者が10万人超す。スペインで感染者が8万5千人を超え、中国を上回る(経済活動を必須の一部を除き全て停止)。フランスで死者が3千人超す。ブラジルが外国人の入国を禁止。ロシアは国境を閉鎖。タイが非常事態宣言。メキシコが非常事態宣言。
 31日=世界で感染者が80万人超し、死者は4万人超す。米国とフランスの死者数が中国を上回る。中国は無症状の感染者数のデータを公表。インドネシアは外国人の入国を原則禁止。ベトナムは全土で人の移動を制限。日本で国内の感染者が2千人超す。

2020年4月1日水曜日

需要が消えた

 2人乗りのマツダのロードスターは1989年に初代が発売され、世界的なヒット商品になった。大型のスポーツカーは各社が販売していたが、小型のオープンスポーツカーは欧州で小規模メーカーが細々とつくり続けていただけだった。そこにマツダがロードスターを投入、世界で需要を掘り起こした。

 小型のオープンスポーツカーに乗りたいとの需要は、世界に存在していたのかマツダのロードスターが作り出したのか定かではないが、供給が需要を喚起した典型だ。2016年4月に累計生産台数が100万台を突破し、「2人乗り小型オープンスポーツカー」として生産累計が世界1とのギネス記録を更新し続けている。

 大量の需要が存在することが明確なのに、供給が少ないのが、鼻と口を覆うマスクだ。一気に人々が買いに動いたため市場からマスクが消え、政府の指示もあってメーカーはフル生産体制だというが、店頭からは消えたままだ。需要が存在することが明確なのに、供給が行われない。急に過大になった需要は市場から商品を“蒸発”させた。

 供給に見合った需要があり、需要に見合った供給が行われるのは、経済が安定して回っている状態だ。だが、需要は商品が売れることで見えてくるものなので、どんな需要が存在するのかを前もって知ることは簡単ではなく、今回のマスクのように需要は変化するから、需要と供給はアンバランスになる。

 供給が需要より過剰になると安売り競争に陥るが、需要か消えると経済の回転は止まる。それが現実となった。各国で人々の外出が厳しく制限され、飲食店や小売店の大半が休業を命じられ、国境は閉鎖された。繁華街から人影が消え、航空会社は大幅な減便で経営不安が現実化し、各地のホテルは格安価格を提示するがガラガラだという。

 需要は人々の消費活動として現れるが、人々が自宅待機をする中で各種のオンラインサービス以外は停滞を余儀なくされた。需要が消えた世界では、供給がいくらあっても、それは在庫でしかなく、売り上げが立たない。経済活動がほとんど停止した世界で人々は、どう生き延びればいいのだろうか。

 世界で進行中の需要の“蒸発”は、経済史に大書される事件だ。あと数カ月で新型コロナウイルス感染の広がりが終息し、経済活動が活発化して景気が急回復するならともかく、終息の見通しが立たず、人々の外出制限=需要の抑制が続くなら、市場経済は“窒息常態”になり、世界では国家主導の統制経済が広がるかもしれない。統制経済になれば、オープンスポーツカーなどは排除されるだろう。