2018年8月29日水曜日

失速する自転車シェア

 中国で2016年頃から急速に広まったシェア自転車ビジネス。いつでも街中で手軽にモバイル決済の低料金で自転車を使うことができ、どこにでも乗り捨てることができるから便利だと賞賛する記事が日本でも多かった。その、もてはやされた新しいビジネスが急速に色あせ始めた。

 都市の中のあちこちに自転車を置いた後は、利用者が勝手に自転車を利用し、料金はモバイル決済で確実に入金されるのだから儲かると次々に企業が参入した。街中には各社が設置した自転車が溢れ、あちらこちらに、乗り捨てられた自転車も溢れた。

 2017年の後半から中国の多くの都市で新規参入の規制が始まり、中央政府も規制を始めたが、シェア自転車ビジネスが禁止されたわけではない。街中の放置自転車を事業者が回収して、所定の貸し出し場所に移動させているそうだが、自転車の状態は悪化する一方。

 北京市だけでシェア自転車は200万台以上になるというが、自転車をばらまいて置いておけば儲かると次々に参入した業者が、自転車の状態の管理に気を使うはずもなく、汚れ放題で、傷ついたり、どこかに不具合がある自転車も珍しくなくなったとか。

 シェア自転車ビジネスに続くのがEVによるシェア自動車ビジネスだと注目する記事も珍しくないが、利用者が乱暴に扱うことは自転車も自動車も変わらないらしい。仏で行われていたEVによる自動車シェア事業が中止に追い込まれた。

 こちらは、どこでも乗り捨て自由とはいかず、決められた場所(ステーション)で貸し出し・返却を行うのだが、ステーションの設置コストを賄うほどの利用はなく、採算が取れなかった。使われていたシェア自動車は内外ともに汚れていて、ステーションの内部も汚れ放題だったとか。

 自転車や自動車の他にもシェアというビジネスが、大量消費や使い捨てを否定し、人間関係を重視する経済として注目されている。だが、自転車や自動車のように、シェアした人が雑に扱うなら、シェアする対象を管理することが重要となる。ここに新しいビジネスチャンスがある?

2018年8月25日土曜日

犬を喰らう

 朝鮮半島には犬肉食の文化があり、夏バテ対策の料理として受け継がれている。犬肉を煮込んだスープのほか、様々な部位の犬肉を使った多くの料理があり、北朝鮮の平壌にも犬肉専門レストランがあるなど、「犬肉は体にいいい」と信じられているという。

 韓国では、食用犬を飼育する犬牧場が約1万7000カ所あり、年に約200万頭が食用に供されていると報じられた。国際的な批判に取り合わず高齢者は犬肉食を愛好するが、若者は犬肉食を敬遠し始めているといい、ペットとして犬を飼う人が増えているためか、犬肉食を法律で禁止する運動が起きた。

 中国でも犬肉食の文化は受け継がれており、食用に年1000万頭が処理され、犬肉の生産量は年間9万7000トンという。広西チワン族自治区の玉林市で開催される「犬肉祭り」は世界的に知られている。国際的な批判に地元当局は、飲食店に「犬肉」の看板を出さないよう指導したそうだ。

 犬肉は中国でも夏バテ対策に効果があると信じられている。犬肉を食べると体内の熱が放出され、汗が出て暑さにもバテにくくなるとか、スタミナがつくそうだ。一方で、北京や上海など中国北部の犬肉食の習慣がない人たちや動物愛護運動の活動家などからの批判が国内で高まっている。

 日本でもかつては犬肉食があったと伝えられ、敗戦後の食糧難の頃には犬も食べられたというが、現在では一般的ではない。夏バテ対策には鰻がいいと信じられ、猛暑にも犬肉の出番はない。ペットの人気NO1の座は猫に譲ったが、犬はペットとして大人気だ。

 犬の体温は人間よりやや高く、体毛が密集しているので、暑さには強くない。犬には汗腺がなく、汗を出して体温を調節できないので、口を開けてベロを出して荒く息を続けることで、体温を下げようとする。

 犬は暑さに弱い。その肉が夏バテに効果があると韓国や中国などで信じられるようになったのは不思議だ。犬肉に特別な成分は含まれていないそうで、暑い夏に熱い犬肉スープなどを盛大に汗をかきながら食すると、体に刺激が与えられるということだろう。

 刺激は精神的なリフレッシュ効果をもたらし、犬肉が夏バテ対策にいいなどと信じ、それが文化的な伝統として受け継がれた。これは、コンドロイチンを食すると痛む膝に効果があるとか、コラーゲンを食すると肌にいいなどの健康食品会社の宣伝文と同類だ。「◯◯は効果がある」との信仰が広まり、市場が生まれる。

2018年8月22日水曜日

崩落する橋

 200年以上前の1807年8月19日の江戸で、老朽化していた永代橋が密集する人々の重みに耐えられずに崩れ落ち、死者400人以上、行方不明は数百人という大惨事がおきた。11年ぶりに催された富岡八幡宮の大祭に大勢の人々が押し寄せて、永代橋が崩れ始めても、橋を渡ろうとする人々が気づかずに押し続けたと伝えられている。

 橋の崩壊といえば英国の童謡「ロンドン橋落ちた」。何かの大惨事のことを歌い伝えているようだが、具体的な出来事を歌ったものではないという。ロンドン橋は何度も焼け落ちては、再建され、木造から石造になって存続し続けている。歌詞が何を指しているのか様々な解釈があるそうだ。

 河川をまたいで両岸をつないだり、山間部や都市内で自動車の利便性を高めるため建設される高架橋など、橋は人間が活動する空間を拡張する。歩行を含めて交通の活発化は、古代の物々交換から現代の大量消費社会まで経済活動を支え、拡大させてきた。

 河川をまたぐ橋を2次元的とするなら、高架橋は3次元的といえる。建物を高層化させることで、人間が密集する都市における利用空間を拡大させてきた人類は高架橋によって、地表における交通を3次元空間に拡張した。だが、重力を人間は制御できない。

 イタリア北部のジェノバで崩落した橋は、河川に掛けられたものではなく、鉄道などをまたいで街の中央を横切る高さ約50メートルのコンクリート製の高架橋で高速道路となっている。1967年に開通したというから、築51年になる。

 通行中の乗用車や大型トラックなど約30台が高架橋の200メートル以上にわたる崩落とともに落下し、下には鉄道の線路や川、倉庫、駐車場、商店などがあったので買い物客らも被害にあった。住宅もあり、崩壊せずに残った高架橋があるため住民は避難している。

 改修工事が適切に行われていなかったとか、構造に問題があった、腐食が深刻だったなど崩落原因について様々な指摘がある。高架橋を使っていたイタリア人は「通過する時には振動が激しかった」と語っているそうで、異変を知らせるシグナルはあったのだろう。寿命だったとの見方もあり、人間活動の3次元的な拡張を支える構築物には重力とともに時間の制約もある。

2018年8月18日土曜日

サマータイム・ブルース

 「サマータイム・ブルース」といえば、RCサクセションのバージョンが日本では知られている。原発批判の歌詞のため当時所属していたレコード会社は発売中止にし、他社から発売されて、チャート1位になった。福島第一原発の事故後にも注目された。

 この曲のオリジナルはエディ・コクランだが、歌詞は、夏になって彼女と遊びに行きたいのに、仕事を休めず、親から車を貸してもらえないティーンの不満を歌ったもの。世界でもザ・フーなど多くのバンドやミュージシャンにカバーされている。ロックのスタンダードの一つだ。

 この夏、日本でサマータイムが議論になっているが、こちらは正確にはサマー・タイム(summer time)で、夏時間のこと。summertimeやsummer-timeは、夏季とか夏の意味。どちらもブルース(blues)をつければ似合いそうで、皮肉ったり、からかったりできそう。

 日本でもサマータイム(サマー・タイムのこと。以下同)を導入しようという議論は、これまで何回も提起されては、反対が多くて立ち消えになってきた。導入を促す経済界や官僚からはメリットだけが強調され、先進の欧州諸国が導入していると付け加えられる。

 何回も提起されたのに、反対が多くて導入できなかったのだから、サマータイムについての検証は終わっているということだ。日本では、サマータイム導入のメリットよりデメリットのほうが多く、日本の風土にそぐわないというのが大方の理解。

 サマータイムを導入している欧州は緯度的に日本より遥かに高い(北に位置する)。欧州南部のローマでも北緯は約42度、マドリードは約40度、欧州中央部のパリは約48度、ロンドンやベルリンは約52度、欧州北部のストックホルムは約59度、オスロやヘルシンキは約60度。

 東京は約36度なので、欧州では伊シチリア島の南側、地中海の中央部に相当する。例えば、パリの7月の日の出は朝6時頃、日の入りは夜の10時前と日の入りが遅く、日照時間は約16時間になるが、東京の7月は日の出が朝5時前、日の入りが夜の7時前で日照時間は約14時間。日の入りがパリは東京より3時間も遅い。

 夜10時頃まで明るい地域ではサマータイムで早く帰宅することに意味があろうが、夜7時に暗くなる地域ではサマータイムのメリットは乏しい。サマータイム導入を何度も試みる経済界や官僚を皮肉った歌詞のサマータイム・ブルーズを作ることができそうだ。

2018年8月15日水曜日

ブレグジッドと婚前契約

 米女優アンジェリーナ・ジョリーが最近、2年前から離婚申請中の夫ブラッド・ピットに子供達の養育費の支払いを要求したと報じられた。両人とも高額ギャラの人気俳優で、ずっとジョリーは金銭的な要求をしていなかったという。態度を変えた理由が憶測されている。

 報道によると、両人は離婚時の財産分けなどを明確化した婚前契約を交わしていなかったが、ビット側の弁護士は「ピットはジョリーの新居の購入資金として800万ドルを貸し、別居してから2年間、子供たちのために総額130万ドルを支払った」。この話が本当なら、さらに金銭が必要な何らかの事情が女優の側で生じたということになる。

 一緒になるよりも、別れるのが難しいというのは男女の仲に限らない。例えば、ブレグジッド(Brexit)。EU条約第50条により英国がEUに脱退の意思を一方的に示すことで脱退できるが、詳細は脱退交渉で決める(脱退通知から2年以内に脱退のための協定が締結されないとき、自動的に脱退が成立するとともにEU諸条約が適用されなくなる)。

 英国は2017年3月29日、EUに離脱を通知したので、2年後の2019年3月29日にEUから離脱する。離脱交渉が始まったが、英国内では完全離脱派と部分離脱派に意見が分かれ、EU側は英国の「いいとこ取り」を許さない姿勢で、先行きは混沌としている。

 英国はこの7月、離脱に関する白書を公表した。内容は、①EU単一市場・関税同盟から抜けるが、農産品や工業製品の規格・基準でEUと共通ルールの採用を続ける、②自由貿易圏を創設し、自動車など製造業に影響が出ないよう配慮、③金融サービスや司法分野では独自の政策、④短期の観光やビジネスではEU市民にビザなしでの渡航を認める、⑤北アイルランドとアイルランドの国境では英国がEU向け輸出品の関税徴収を代行し、税関手続きは不要、⑥FTA拡大を目指す、など。

 離脱による経済的・社会的な激変を避けた案だが、英国内の完全離脱派は批判を強める。EUは今年10月を事実上の合意期限とし、それまでに詳細な離脱条件を定めた協定を結ぶ必要があるとするが、時間的な余裕はない。この英国の案でEUと合意できなければ、時間切れによる協定なしの自動的な離脱の可能性も出てきた。

 交渉期間の延長はEUの全加盟国の同意が必要なので、まず不可能だ。EU条約に脱退の詳細な規定があれば英国の離脱はもっとスムーズにいったのだろうが、脱退の規約は大雑把なものでしかない。婚前契約のようなものをEUに参加する前に締結しておけばよかったと英国は実感しているだろうな。

2018年8月11日土曜日

欧州では熱波

 欧州でも今年は猛暑だという。アフリカからの熱波がまず到達するスペインとポルトガルで最高気温が46度を超え、欧州での過去の最高気温48度に迫った。北欧でも気温が高く、北極圏でも30度を超えたという。森林火災も各国で相次ぎ、干ばつなど作物への影響が心配されている。

 英国では6月以来、平年より気温が高い日が続き、水不足が深刻化している。フランスでは川の水温が、原子炉の冷却水の基準値を大きく上回るほど上昇したため原子炉を一時停止させた。ドイツでは河川の水位が低下し、水中に投棄されていた第二次大戦の手榴弾や地雷などが川底から発見された。

 欧州では日本ほどクーラーが普及していないので、排熱によるヒートアイランド現象は限定的だと見られる。猛暑が続くのは、偏西風が北側に蛇行し、高気圧が居座り、アフリカから熱波が吹き込んでいるからだとされる。アフリカでは最高気温が50度を超える場所もあるというから、この熱波は強力だ。

 緯度で見ると欧州南部は北海道とほぼ同じだ。函館はバルセロナやローマ、札幌はマルセイユ、旭川はモナコ、稚内はトリノやミラノなどとほぼ同緯度。パリやロンドン、ベルリンの緯度はサハリン(樺太)と同じで、北海道より北になる。

 緯度が高く寒い気候のはずの欧州だが、北海道とほぼ同緯度の欧州南部は北海道より温暖で、パリやベルリンがある欧州大陸も北海道並みの気候だ。これは中米カリブ海から大西洋を横断して流れてくる暖流(メキシコ湾流)に温められる影響だとされる。

 気候区分では、英国や仏独を含む欧州の大半は西岸海洋性気候で、スペインやイタリアなどは地中海性気候となる。西岸海洋性気候は、偏西風による海洋の影響で、夏は涼しく冬は温暖で、年間を通じて適度の降水がある。地中海性気候は、冬は温暖で雨が多く、夏は高温で乾燥する。

 欧州の夏は涼しいとされてきたが、猛暑に見舞われることが珍しくなくなった。2003年には欧州で2万人以上の死者が出たとされ、2007年、2010年、2015年、2017年などの夏も暑かった。

 偏西風の蛇行が欧州でも日本でも気候を左右し、時には夏に猛暑、冬に極寒をもたらす。猛暑などが珍しくなくなったのは、偏西風の蛇行が珍しくなくなったということだろう。CO2排出の削減を行えば、偏西風の蛇行が減少するのか、まだ確かなことは分かっていない。

2018年8月8日水曜日

電車にもクーラーがなかった

 クーラーが普及していなかった頃、真夏の通勤電車の車内は悲惨だった。時差通勤や在宅勤務などがほぼ皆無の当時、路線によっては定員の3倍以上の混みようで身動きもままならず、窓を全開にしても風を受けることができる人は少なかった(人がぎっしり詰め込まれているので風の通る空間がない)。

 家から駅に着いた時に既に汗をかいていた大半の乗客は、混雑した車内で汗だくになる。汗まみれの他の客と体を接触させたくないと誰もが思うが、満員の通勤電車の中では、自分だけの快適スペースを確保することは不可能。乗客の不快指数は朝から急上昇する。

 修行を重ねて無念無想の境地に達すれば、「心頭滅却すれば火もまた涼し」と感じるようになるとされる。感じ方(受け止め方)を変えることで外部要因に精神状態を左右されなくなるとの主張だ。そうした境地の人は今年のような猛暑にも何も感じないのか、猛暑を無視するだけなのか定かではない。

 そうした境地の人が真夏の冷房がない満員電車に乗ったとしたなら、やはり「心頭滅却すれば火もまた涼し」と感じるのだろうか。真夏の冷房がない満員電車に毎日乗ることを過酷な修行体験とみなしても、そうした境地には達するのは簡単ではなさそうだ。精神論を試すには、猛暑はいい機会か。
 
 通勤電車へのクーラー設置は1970年代に始まり、1980年代になって当時の国鉄の冷房化率は80%を超えたという。東京の地下鉄ではクーラー設置が遅れ、1990年代になってから全車両の冷房化が実現した。冷房がない地下鉄車両では窓を全開にするので、騒音が凄まじかった。

 冷房車両が普及した現在だが、クーラーがない車両は、北海道を走る各駅停車など全国にまだ残っている。そうした車両の天井には扇風機が取り付けられていて、近くの壁にスイッチがあって乗客が押して作動させる。

 猛暑の中、乗客が少ないローカル線でボックス席を独占して足を投げ出し、窓を全開にして生ぬるい風を受けながら、流れ去る風景を見ているというのは、例えばJR只見線などでの真夏の楽しみだった。猛暑を受け入れて楽しむという境地こそ上等な夏の過ごし方だ。

2018年8月4日土曜日

クーラーがなかった頃

 2018年の夏の猛暑について気象庁は「太平洋高気圧の勢力が日本付近で強かったため」とした。7月の平均気温は東日本が平年より2.8度高く、西日本も1.6度高かった。全国の都市の観測地点153カ所中47カか所で平均気温が過去最高を更新したという。

 この猛暑で熱中症により体調を崩す人も続出、救急搬送される人は各地で過去最多となり、死亡する人も増えている。過去には熱中症で年1千人以上が死んだこともある(2010年1731人、2013年1077人)から、猛暑の危険性は明らかだ。7月下旬から北海道各地でも30度超えの日が続き、熱中症による死者が出ている。

 熱中症とは、気温が高いことなどで身体の調整機能が正常に働かなくなり、体内に熱がこもり、体温が異常に上昇することで発症する。環境省サイトでは、めまいや立ちくらみ、こむら返りなどを軽症とし、頭痛や吐き気・嘔吐、倦怠感などは病院への搬送を必要とする中等症、意識喪失や痙攣などを重症と分けている。

 熱中症になった人に対して、▽涼しい場所へ避難させる▽服を脱がせて、とにかく体を冷やす(重症者の命を救うには、早く体温を下げる)▽水分・塩分の補給(意識障害がある人に水を飲ませることは危険)▽重症者は医療機関へ運ぶ、などが必要となる。

 クーラーを積極的に使用することも呼びかけられている。クーラ一の家庭での普及率が10%を超えたのは1970年代に入ってからで、50%を超えたのは1980年代に入ってからという。だが家庭にクーラーがなかった頃の熱中症の死者数は最近より少なかったとされる。熱中症の死者には高齢者が多く、高齢化の進展が熱中症の影響を大きくしているという。

 1970年代に都内の木造アパートで暮らしていた友人は、クーラーがないので夜は窓を開けて寝たという。でも、風は全く入っては来ず、やっと寝入っても体温で寝具が熱くなり、何度も目覚め、昼は猛暑、夜は寝不足で体力は確実に低下していたという。

 当時の暑さ対策家電の主力は扇風機だが、扇風機の風を直接受けたまま寝ると、風邪をひくとか時には死んでしまうとか言われ、低体温症への注意が呼びかけられていた。クーラーが普及していない頃、熱中症への注意喚起はほとんどなかった印象だ。

 厳しい暑さを耐えて東京暮らしを続けた友人は定年退職して、親の面倒をみるため郷里に戻った。昼間の暑さは東京と変わらないそうだが、窓を開けて寝るとクーラーは要らないという。周囲に民家がなく、よそのクーラーの排熱がないので、自然な夜風が入ってくる。

2018年8月1日水曜日

ユダヤ人は民族?

 民族とは、言語や習俗、文化、生活様式などを共有する集団のこととされる。部族は民族の中の地域的な集団とされるが、その部族が民族の部分要素であるとの意識を持たない場合もあり、民族と部族の厳密な区分けは簡単ではない。

 民族は、自然発生的かつ歴史的に形成された集団であることが多いが、集団内で「我々」という帰属意識を共有することで形成されてもきた。国民国家の登場が民族意識を強化させたが、強権国家が統治のために民族意識を利用することもある。例えば、中国で進行中の「中華民族」意識の形成。

 民族は宗教を共有することもある。キリスト教やイスラム教などの世界宗教ではなく、神道など特定の民族にだけ共有されている宗教が民族意識と結びつく。ユダヤ教は民族宗教とみなされているが、キリスト教やイスラム教の「母体」でもあり、民族宗教に止まらない広がりを持つ。

 ユダヤ教を信仰する人をユダヤ人とするが、ユダヤ民族という言葉もある。ユダヤ教を共有する人々(ユダヤ教徒)を指す言葉だが、民族概念が包括的だとはいえ、ユダヤ教を共有することだけを基準にユダヤ民族を認めるならば、民族の定義はますます曖昧になっていく。

 ユダヤ民族という概念は人為的に形成されたものである。イスラエルという国家もパレスチナの土地に人為的に形成された国家であるから、イスラエルという国家にはユダヤ民族が似合っている?……どちらも不安定であることは共通するが。

 イスラエル国会が国民国家法を可決した。同法はイスラエルを「ユダヤ人のための民族的郷土」と規定、①エルサレムは首都、②ヘブライ語は国語、③亡命ユダヤ人を集めイスラエル領内においてユダヤ人の入植地(の建設)を推進、④ディアスポラ(イスラエル、パレスチナ外に住むユダヤ人の集団)におけるイスラエルとユダヤ人との関係強化に取り組む、⑤ユダヤ人はユダヤ人の特別の権利として祖国に関する自決権を持つ、などとする(中東調査会による)。

 ユダヤ教を信仰する「我々」という帰属意識の共有がユダヤ民族という概念を生じさせる。ユダヤ人は世界に散らばるが、イスラエルがその「民族的郷土」と同法で明記したのは、人為的な設定でも、やがて既成事実化することを狙うのだろう。“やがて”の時間軸は、数十年か数百年か数千年か、ユダヤ人の時間軸を共有することは簡単ではない。