2025年7月30日水曜日

平和賞と関税

 ノーベル賞の各賞はスウェーデンが受賞者を決めるが、平和賞だけはノルウェーのノーベル委員会が選考し、受賞者を決め、オスロの市庁舎で授賞式が行われる。2010年に平和賞を受賞した中国の劉暁波氏は民主運動家で、当時服役中だった。劉暁波氏への平和賞授与に中国政府は猛反発し、ノルウェー産サーモンの輸入規制や政治交流の停止などを行い、両国関係が正常化したのは2016年だった。

 ノルウェーは日本とほぼ同じ面積だが人口は525万人(2022年)。EU加盟を1994年の国民投票で否決しており、「EU加盟により得られる利益に懐疑的な国民世論、EU加盟による自国農業及び漁業への影響に対する懸念等が理由。最近の世論調査でも依然として加盟反対派が過半数」だが「EUとの協力関係は緊密で広範囲に及び、大部分のEU指令を国内に適用」(外務省)。NATOの原加盟国。

 EEAには加盟しているノルウェーはEU単一市場にアクセスする権利を持ち、石油や天然ガスなど輸出の3分の2がEU向けとされる。ノルウェーの名目GDPは4837億ドルで世界32位だが1人当たりGDPは8万6611ドルで世界6位だ(7位が米国で8万5812ドル。2024年、IMF)。主な輸出品は原油・天然ガス、水産物、非鉄金属で輸出先はEU諸国が上位を占め、輸入先はスウェーデン、中国、ドイツ、米国などとなる。

 ノーベル賞の科学3賞は評価が定まった業績を挙げた人に対して授与されるが、平和賞は国際紛争など進行中の事象に関係する人や団体が受賞者になることがあり、疑問や反発が生じたことは度々あり、立場が異なる側から批判が出やすい。平和とは「戦いや紛争が発生していない状態」だから平和は政治によって維持されたり破壊されたりし、また、戦いや紛争が発生していなくても鋭い緊張状態にある地域も多いので、平和賞の受賞者の選定は政治的に解釈される。

 平和賞は「国家間の友愛、常備軍の廃止あるいは削減、和平会議の開催と促進に最大あるいは最善の貢献を行った」人々に授与すべきとのアルフレッド・ノーベルの遺言に基づく。各国が推薦した候補の中からノルウェーのノーベル委員会が選考して受賞者を決める。

 米トランプ大統領はノーベル平和賞を欲しがっていると見られていたが、報道によると6月にトランプ大統領は、米国の仲介によるDRCとルワンダの和平協定など世界各地の紛争を仲介してきたとし、「4、5回はノーベル平和賞をもらうべきだった」と述べ、「私は受賞できない。なぜなら、彼らはリベラルにしか授与しないからだ」と主張した。

 パキスタンやイスラエルはトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦すると表明した。トランプ氏に「恩を売る」絶好の機会だ。だが、各地の紛争を仲介する一方でイラン爆撃なども行うトランプ大統領に平和賞が授与されるか不明だ。今年のノーベル平和賞が授与されなかった時、トランプ大統領は「選考が公平ではなかった」としてノルウェーに高い関税を課すかもしれないな。ノルウェーの水産物の大消費国は米国だから。

2025年7月26日土曜日

猛暑にも負けて

 夏の猛暑は本州以西では毎年のことだが、今年は北海道でも連日、最高気温が30度台後半という猛暑日が続いた。この猛暑は、偏西風が北へ蛇行し、北海道を含め日本列島が太平洋高気圧に覆われ続けたことと、太平洋高気圧の上層には大陸のチベット高気圧が張り出し、二重の高気圧がそれぞれ暖かい空気を吹き下ろしたため、晴天が続き、猛暑が続いたとされる。

 欧州でも猛暑となり、スペイン南部では最高気温が46度となり、フランスやポルトガルでは最高気温が40度を超えた地域があり、欧州の12都市で約2300人が6月23日〜7月2日の10日間に熱波が原因で死亡したとの推計が出ている。ジェット気流が弱まり、強い高気圧に覆われ続けたことに加え、平均水温が最大9度上昇した地中海から供給される熱があり、猛暑が続いたとされる。

 温まりやすく冷めやすい陸地より海のほうが熱を蓄える。「1971年〜2018年の48年間で気温の上昇や氷の融解などを含む地球上のエネルギー増加量の約56%が海洋の表層(海面から深さ700mまで)に、約35%は海洋の700mより深いところに蓄えられた」「海洋貯熱量の増加は海水温の上昇を意味」する(気象庁)。

 日本近海でも海水温が上昇し、漁獲量の減少や魚種の変化をもたらしているとされる。日本近海の「2024年までの海域平均海面水温(年平均)上昇率は100年あたり+1.33℃の割合。 この上昇率は、世界全体で平均した海面水温の上昇率(100年あたり+0.62℃)よりも大きく」、海域別では「オホーツク海南部、日本海、北海道南東方で引き続き海面水温が平年よりかなり高く」「本州東方、東シナ海北部、四国・東海沖で海面水温が平年よりかなり高い海域が縮小したが、引き続き広い範囲で平年より高い」(2025年、同)。

 かつて「日本は周囲を海に囲まれている。海は陸地より温まりにくいから、温暖化を過剰に恐れる必要はない」旨の主張があった。実際に日本近海で海水温の顕著な上昇が観測されている現在、周辺の海洋から供給される熱により、日本において夏の猛暑などが今後も続く可能性がある。さらに、猛暑の熱が広大な海洋に毎年蓄熱されることにより猛暑の程度が増すだろう。

 関東の内陸県に住む友人は、「猛暑にはクーラーだけが頼りだ。クーラー使用の増加による排熱量の増加が猛暑に拍車をかけている気がするが、猛暑には勝てない」と猛暑に抗することを諦め、増加する電気代のことは考えないことにし、「生き延びる」ことを最優先にせざるを得ないと言う。そんな友人が、宮沢賢治の詩をアレンジしたという次のような自作を披露した(一部省略)。

 雨にも負けて/風にも負けて/雪にも夏の猛暑にも負けて/自然には抗えない脆弱な体を持ち/欲はなくならず/いつもSNSの話題に振り回される/あらゆる事で自分の利害を勘定し/関心を持つ情報だけを見聞きし/批判されたら忘れない/東に投資話があれば一口加わり/西にスキャンダルで消えたタレントがあれば面白がり/北に戦争があれば勝てそうな側につく/日照りの時は天を恨み/猛暑の夏はオロオロ歩き/皆にデクノボーと呼ばれ/誉められもせず苦にもされず/そういう者に私はなりたい、か?

2025年7月23日水曜日

クマとクレーマー

  北海道南部の福島町で新聞配達員の男性を殺害したヒグマが駆除された。駆除されたヒグマは体重218kg、体長2m8cmで、年齢は推定8~9歳。このヒグマは男性を約100m離れた草むらの中まで引きずっていたが、4年前に同町内で女性を殺害したクマのDNAとも一致した。人間を襲うことを学習したクマは、麻酔銃で眠らせて山奥に放したとしても人里に戻ってくる可能性が高いだろう。

 クマが駆除される前、町民は怯えて外出を控え、子供の徒歩での通学は止め、店舗の営業終了時間が繰り上げられ、昆布干しなど屋外での作業にも影響が出て、民宿にはキャンセルが相次いだと報じられた。人を殺害するクマが町内に出没するという現実に町民は無力だった一方、同町役場に「クマを殺すな」などの抗議電話が相次ぎ、その大半が町外からのものと見られるという。

 クマの出没情報は全国で相次ぎ、負傷する人が増えている。2023年には秋田県美郷町の店舗にクマが侵入し、捕獲されて駆除されたが、「駆除するな」などの抗議電話が町役場に増え、電話に出た担当者に「クマを殺すならお前も死んでしまえ」などの感情的な言葉があったという。秋田県知事は「これは業務妨害だ」とした。その多くが県外からの電話だったという。

 北海道ではヒグマ、本州ではツキノワグマの出没が珍しくなくなったが、おそらく都会に住む人にはクマに対する恐怖は現実的なものではなく、「クマちゃん、可哀想だよ」程度の気持ちと、動物愛護が無条件で最優先するとの思い込みなどから義憤を感じて電話したのかもしれない。中には「もともとクマが生息する土地だろう」などの言葉があったというが、そうした言葉は地方に対する歪んだ優越感を示す。

 都会のある地区に、無差別に人を殺傷した容疑者が凶器を持ったまま逃げ込んだとなると、そこの住民は怯えるだろう。「クマちゃん、可哀想だよ」などと抗議電話をかけた人は凶悪犯がどこに潜んでいるのか分からないという状況に直面して、やっと日常に潜む恐怖を現実に感じることができるだろう。都会に住む人も想像力を働かせれば、クマ出没に怯える地方の人々のことを理解できるはずだが、抗議電話をかける人にはそんな想像力もなくなっているようだ。

 こうした電話をかける人はクレーマーの一種だ。総務省は4月に、「行政相談においても、業務の範囲を超える要求や、社会通念上明らかに程度を越える手段・態様による要求への応対が看過できない問題となって」いるとした。電話による「業務の範囲や程度を明らかに超える苦情相談」が継続した場合、「不当な要求や著しい迷惑行為を伴う要求には対応できないことを伝えた上で、応対を打ち切る(電話を切る)」と明確化した。また、電話及び来訪による相談については「相談内容の正確な把握・記録のため、原則として録音をする」ことを明記した。

 行政機関は商業施設とは異なり、住民サービスは責務であり、「客」を選別することはできず、丁寧な応対が求められる。だが、限度を超えた要求・主張に限ってカスハラとしての対応が許容されるようになったのだから、「クマちゃん、可哀想だよ」などの抗議電話はクレーマー扱いしておけばいい。ただし、相手の姓名、電話番号などは記録して今後の対策の資料にすることは必要だ。

2025年7月19日土曜日

タレントにタメ口

  名を知られて有名人になると、自分は特別な人間だとの意識を持つ人がいる。名を知られたのが不祥事に関わることだったりすると、世間から隠れようとして、外出時には自分の存在を周囲に知られないようにする。一方、顕著な功績によって名を知られた人は、有名人になったことを意識しながら、それまでと同じ生活を続ける。

 タレントが名を知られるのはテレビ出演などによるが、テレビに出演することが顕著な功績だとは一般には見なされないだろう。だが、タレントの中にはテレビ出演が多くなると、テレビ出演が多いのは自分の才能によると自負し、さらには自分が選ばれた人間であるとの自意識を育み、一般人とは違う人間だと思い始める人々もいるようだ。

 歌手や俳優らの芸能人はスターと呼ばれることもある。スターとは「人気がある花形」で、スターだとメディアなどから扱われ、ファンに囲まれたりするうちに本人もスター意識を持ったりする。歌唱や演技が人々から称賛される歌手や俳優がスターとなるが、スターになれない歌手や俳優は多い。一握りの歌手や俳優がスターになり、本人もスターだとの自覚を持つだろう。

 テレビのバラエティー番組だけで露出の多いタレントも、人々に注目されたりし、名が知られていると満足してスター意識を持つ人もいるだろう。その場合のスター意識を支えるのは、自分の存在で人々が騒ぐことやテレビ出演を続けていることだったりする。そうしたタレントの「芸」が何かは不明だが、人々はテレビ出演しているタレントを有名人扱いする。

 テレビ出演で名を知られているタレントは人気はあるが、スターとは違う雰囲気だ。仰ぎ見る存在というより、面白いことを言ったり、はしゃいで見せたり、親しみやすさなどをテレビで披露して人々を楽しませる道化師のような存在だ。人々を楽しませることでは寄席芸人と同類なのだが、テレビの影響力は大きいのでタレントというテレビ芸人は有名人扱いされる。

 そうしたタレントがスター意識を持つと、自分は特別だと思ったりし、自分は一般の人々の上位に位置すると勘違いする人も出てきて、スター扱いされることを当然とする。そうしたタレントがテレビの街歩き番組などで、出会った一般の人の中にタメ口で話しかける人がいたりすると、苦笑したり、戸惑った表情を見せる。自分は特別だと勘違いしているタレントを見分けるには、タレントを人々が特別扱いせずに接することが有効だな。

 名を知られて有名人になっても「自分は市井の一人の人間です」と振る舞うことができる人は、自分を律することができている。だが、テレビに出ることで人気も金も得ることができると過大な期待にとらわれた人が、うっかりテレビ芸人として名が売れたりすると、スター意識やセレブ意識が膨れ上がり、その意識に見合った扱いを周囲や人々に要求したりする。タレントが特権意識を持っているのかを試すには、街頭ロケなどで出会った人々がタメ口で話してやることだ。

2025年7月16日水曜日

4文字の略語

 大統領選でトランプ陣営が使ったスローガンのMAGA(Make America Great Again=アメリカを再び偉大にしよう)は支持者を中心に共有されて広まり、世界でも知られるようになった。一方、いろいろな4文字の略語が作られるようになり、面白がられたのはTACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも腰砕け)だった。

 外報によると他にも、MEGA(Make Europe Great Again=欧州を再び偉大にしよう)やMAGA(Make America Go Away=米国は出ていけ)、FAFO(Fuck Around and Find Out=好き勝手にやれば痛い目を見る)、YOLO(You Only Live Once=人生は一度きり)などの4文字略語が現れたという。

 英語の4文字略語は多く、AIDS(Acquired Immune Deficiency Syndrome)、ASAP(as soon as possible)、HTML(Hypertext Markup Language)、http(hypertext transfer protocol)、ICBM(Intercontinental Ballistic Missile)、JPEG(Joint Photographic Experts Group)、LGBT(lesbian, gay, bisexual, transgender)、Wi-Fi (wireless fidelity)、PTSD(post-traumatic stress disorder)、SOHO(small office 、home office)など日本でも使われているものも多く、NASAやSWAT、GAFAなど固有名詞扱いとなった略語も多い。

 誰にでも4文字略語を作ることはできるから様々な4文字略語が今後も現れるだろう。思いつくまま作ってみると、MAFA(Make America Funky Again=アメリカをまたファンキーにしようぜ)。Greatは政治家が言うと解釈の範囲が狭まるが、ファンキーは「個性的で魅力がある」で、個性や魅力の解釈は個人に委ねられ、多様な人々が自由に生きることを認め合う社会にふさわしい。

 最近のジャズにうんざりした往年のジャズを好む人なら、MABA(Make America Bebop Again=アメリカでビバップをまた演ろうぜ)か。少ないコードの曲で細かい音を連ねて演奏しまくるモード奏法が増殖して、どれもこれも似たように聞こえ、「どうしてジャズはこんなふうになってしまったんだろう」と違和感ばかりが募るファンは、CDなどでビバップを聴いて楽しみ、「これでいいいんだよ」と思う。

 自国第一主義を掲げるのは米国だけではなく、中国はMCGA(Make China Great Again=中国の偉大な復興)だ。中国の自国第一主義が危ういのは、軍事力で領土を拡張することを想定しているらしいことで、周辺諸国は迷惑している。「Great Again」政策を掲げる国家は、国内的には愛国的な求心力を高めるが、国際的には他国との摩擦を繰り返す。MCFA(Make China Friendly Again=親しみやすい中国に戻る)には時間が相当かかりそうだ。

 日本でMJGA(Make Japan Great Again=日本を再び偉大にしよう)を掲げた場合、いつの時代を偉大とするかで議論が出そうだ。バブル華やかな頃か、高度成長期か、日本軍が外国で戦勝を続けていた時代か。どの時代にも負の側面があり、庶民か富裕層か権力者かーなど視点次第で評価は変わるだろう。MNGA(Make Nissan Great Again=日産をまた偉大にしよう)なら、社内派閥には興味がなく、有能で実行力があり、報酬に執着がない経営陣が必要だな。

2025年7月12日土曜日

被害者とカモ

 SNSの投資話につられて、高齢者が数百万円から1千万円以上などの大金を奪われたとのニュースを見聞きすることが多い。警察などが注意を呼びかけているが、同様のニュースは一向に減らない。投資詐欺に関する相談件数は2023年に8398件(うち7157件が被害後の相談)で、相談者は60代以上が約39%、40代以下が約36%と高齢者が多い。10年前は2060件だったので4倍以上に増加した(金融庁)。

 高齢者は投資詐欺に狙われているとの自覚を持って警戒するべきだが、相手は「プロ」の詐欺集団だ。手口は巧妙で日々変化しているが、最初の投資で儲けさせ、徐々に投資金額を上げさせる手法が多いようだ。投資詐欺の手口は、「未公開株・新規公開株」関連、「外国通貨や暗号通貨」関連、「権利」関連(風力発電や太陽光発電、新技術などに関係する権利や知的財産権などへの投資)などがあり、複数の会社を装った複数の人間が1人の消費者を騙しにかかる「劇場型」の手口や「プロ向けファンド」を装う手口もある(金融庁)。

 投資詐欺を見破るポイントは、▽聞いたことのない(金融庁への登録も確認できない)業者からの勧誘▽「上場確実」「必ず儲かります」「元本は保証」「後から買い取ります」などの言葉▽未公開株や私募債の取引の勧誘▽同じ株式・社債などを複数の業者が勧誘▽公的機関の委託などを装う勧誘▽公的機関を連想させる名称を使っている勧誘-などだ(金融庁)。SNSで親しくなってから投資話に引き込む例も多いとされ、詐欺業者は警戒心を弱めるテクニックを磨いている。

 こうしたニュースでは、騙されて大金を奪われた人々は詐欺の被害者とされる。大金を奪われた人々は、おそらく生活費ではなく、溜め込んだ資金を増やすことができると欲に駆られて投資話に乗ったのだろう。投資は自己責任であるが、儲け話の詐欺に騙されて大金を奪われるのも自己責任だ。何度も送金している事例が多いのは、すっかり騙されていたことを示すとともに、いかに欲に駆られていたかをも示している。

 欲につられて、まんまと大金を騙し取られた人々は、同情すべき対象か、冷ややかにカモだと見ておけばいい対象か。生活費を巻き上げられた人なら同情の対象になるだろうが、生活に余裕のない人が数百万円も投資できるものだろうか。詐欺の被害者であっても、欲に駆られて溜め込んだ資金を投じた人に対しては自己責任をもっと問うべきではないか。

 投資詐欺に引っかかって溜め込んだ資金を奪われた人々に対して、間抜けなカモだと笑ってす済ます社会なら、「騙されるほうにも責任がある」ことが常識となる。そうした社会では、人々の警戒心は高まるだろう。警察などがしきりに投資詐欺に対する注意を呼びかけても、騙される人が次々と現れる日本社会は人々の警戒心がゆるく、詐欺師集団にとって魅力的な「市場」だろう。

 詐欺話に乗って大金を取られた人々を批判的に扱うことは大衆相手の商売である報道機関にはできず、被害者として扱う。報道機関は同情心を煽ることを好むから、騙された人々の責任を問うことはしない。そうして、いつまで経っても騙される人々が減らず、警察などが注意を呼びかけることが続く。金を溜め込んだ人々は欲深で、おいしい儲け話に弱いとすると、投資詐欺はなくならない。

2025年7月9日水曜日

軍事力の時代

 イスラエル軍がイエメンのフーシ派が支配するホデイダ港など3カ所の港と発電所を空爆した。フーシ派によるイスラエルへの度重なる攻撃に対する反撃とされ、イスラエルの国防相は、フーシ派は「自分らの行動に対して重い代償を払い続ける」とし、「イエメンの運命はテヘランと同じだ。イスラエルに危害を加えようとする者は誰でも危害を受ける。イスラエルに対して手を上げる者は、その手を切り落とされる」と表明したそうだ。

 2015年の内戦勃発以来、3勢力を中心に諸勢力が争うイエメンで、シーア派系のフーシ派は親イラン武装組織とされ、イランの支援を受けているとされる。「イエメン全土で、イエメン政府と反政府勢力との衝突やイスラム過激派組織などによるテロ・誘拐事件が発生している。在イエメン大使館は治安悪化のため2015年2月をもって一時閉館中」(外務省)。

 ガザのハマスやレバノンのヒズボラというイランが支援するシーア派武装組織は、イスラエルによる軍事行動や幹部らの暗殺で弱体化し、残っているのはイエメンのフーシ派とイラクの親イラン民兵組織だ。中距離弾道ミサイルを保持するフーシ派はイスラエルに対するミサイル攻撃を繰り返していた。イスラエルは、ホデイダ港がイラン製の武器や軍事装備品などの輸送に使われ、フーシ派が拿捕した自動車輸送船のレーダーシステムが、紅海などでの活動に使用されている-などと今回の攻撃を正当化した。

 今回のイスラエル軍の攻撃でフーシ派がどのような打撃を受けたのかは詳らかではないが、中東各国に張り巡らしたイスラエルの情報網により狙いを定めた攻撃であったとすると、相応の効果はあったものと推察される。イスラエルはガザを制圧し、ヒズボラを弱体化させてレバノンも制圧、防空能力を低下させて空爆をいつでも可能にしてイランも軍事的に事実上、制圧した。

 エジプトとヨルダンに加え、UAE、バーレーン、スーダン、モロッコと国交正常化して関係改善したイスラエルは、軍事力で周辺諸国の「無力化」を進める。ヨーロッパなどから移住したユダヤ人がパレスチナの土地にイスラエルを建国したのは1948年5月。それから77年、周辺諸国との4度の戦争を戦い抜き、各地の武装勢力との戦闘も戦い抜いたイスラエルは、人工的に建国された国ではあるものの、確固とした存在となった。

 それを支えるのは圧倒的な軍事力と、中東を追い出されたなら再び、放浪の民となるので、戦い抜く強い決意を共有する人々の存在だ(さらに中東各国に張り巡らした情報網の効果も大きい)。イスラエルは国家の存続を圧倒的な軍事力で確保した。ウクライナ侵攻を続けて停戦に応じないロシアも、軍事力で周辺諸国への介入を繰り返し、既成秩序の変更を進めている。

 米国は空爆でイランに譲歩させ、中国は太平洋での海軍や空軍の行動能力を誇示するなど、軍事力で国際関係が変化する「軍事力の時代」になった様相だ。軍事力に対抗できるのは軍事力だけだから、世界は軍拡競争に向かうだろう。イスラエルやロシア、米国が示したのは、軍事力で既成秩序を変更し、世界を動かすことができるという現実だった。平和や共存などを求める言葉が無力であるのは「軍事力の時代」の特徴だ。

2025年7月5日土曜日

記憶か記録か

  WHOによると世界の新型コロナウイルスの累計感染者数は7億6366万5202人、累計死者数は691万2080人だ(2023年4月16日時点)。地域別に見ると(累計感染者数・累計死者数の順)、欧州は2億7554万人・222万人、南北アメリカは1億9199万人・294万人、西太平洋は2億233万人・40万人、南東アジアは6092万人・80万人、東地中海は2333万人・35万人、アフリカは952万人・17万人。

 日本の累計感染者数は3380万3572人、累計死者数は7万4694人だ(2023年5月9日時点。全数把握による感染者数の発表は2023年5月8日が最後。米ジョンズ・ホプキンス大は2023年3月10日にデータの更新を終了)。日本を含め世界で大惨事をもたらした新型コロナウイルスだが、発生源は不明だ。中国武漢市の卸売市場から広がったとか武漢ウイルス研究所から流出したとか推測されている。

 25年6月に公表した報告書でWHOは、必要な情報・データの不足で「結論は出ていない」とした。その上でコウモリなどの動物から人への感染が「最も裏付けのある仮説」とし、武漢市の研究所からのウイルス流出説について信憑性を「評価できない」と判断を保留した。米下院特別小委員会は24年12月に公表した報告書で、武漢の研究所での事故がパンデミックを引き起こしたウイルスの起源だとした。

 都合が悪いデータは隠す中国が、WHOが必要とする情報・データを提供する可能性は低く、新型コロナウイルスの起源は不明のままに終わりそうだ。7.6億人以上が感染し、約700万人が死亡したパンデミックの記憶を世界の人々は語り継ぐだろうが、起源や発生源が隠されたままでは正確な記録を作成することはできない。次のパンデミックに備えるためには記憶よりも正確な記録が必要だ

 新型コロナウイルスは感染拡大を繰り返した。日本では2020年4月頃に感染拡大の第1波があり、23年2月頃に第8波があって同年5月に5類移行となったが、その後も感染拡大はあり、2024年8月頃の感染拡大は第11波だと厚労省。これまでの感染拡大は冬と夏に繰り返していたが、変異株の出現・人流の増加・接触機会の増加など様々な仮説はあるものの、感染拡大を促した要因は特定されていない。

 同様に感染拡大が収束した要因もはっきりしていない。ワクチン接種と自然感染による免疫獲得・警戒心が高まり接触機会が減少(自粛の効果?)・長期休暇や連休の終了などが指摘されるが、それぞれの要因は「定性的には検討できるが、どの程度、収束に寄与したかという定量的な解を得ることは困難」(厚労省)。

 感染が拡大し、収束しては感染が拡大することを繰り返した新型コロナウイルス。何回も感染拡大の波があったとの記憶よりも、何が感染拡大を促し、何が収束させたのかを突き止めて記録に残すことが必要で、ワクチンや自粛要請などにどれだけの効果があったのかを明らかにすることが「次のパンデミック」対策に役立つ。感染拡大と収束の要因を曖昧なまま放置することは、今後の対策も情緒に流される可能性を残す。

2025年7月2日水曜日

勝者としての戦争

 中国は9月に北京で抗日戦争勝利80年記念式典を開催し、軍事パレードを実施する。習国家主席が重要演説を行うと報じられ、9月3日を抗日戦争勝利記念日と定めている中国は終戦80年を勝利から80年として大々的に内外にアピールする予定だ。ロシアは5月にモスクワで対独戦勝記念日を祝う式典を開催、軍事パレードを行った。ウクライナ侵攻中なので厳戒態勢が敷かれたそうだ。

 中国やロシアが開催する式典は、勝者として戦争の記憶を伝承する行為・試みである。同時に、現在の政権の正統性を強調するために戦争の勝者であることを利用し、強調するとともに、勝利した戦争を賛美している。そこでは死者は敵味方に峻別され、自国の戦死者が愛国者として称賛される。敵味方にかかわらず、戦争における死者を追悼するといった姿勢は希薄だ。

 一方、日本で毎年行われている第二次大戦に関する式典は、敗者として戦争の記憶を伝承する行為・試みである。報道では悲惨さが強調され、肉親らを失ったり、焼け出されたり、厳しい統制に従わざるを得なかったことなど人々がどれだけ苦しんだかが中心となる。死者が愛国者として称賛される雰囲気は社会の一部にとどまり、戦争を否定することに重点が置かれる。

 勝者が記憶する戦争は肯定的に扱われ、敗者が記憶する戦争は否定的に扱われる。戦争を遂行した政権が敗戦後に人々により糾弾されて倒されることがあるように、敗者になると国家は揺らぐ。イスラエルとイランがともに「歴史的な勝利」を宣言し、戦果を強調して人心の離反を防ごうとするのは、そうしなければ政権維持がおぼつかないからだ。

 日本では戦争を語り継ぐことは、苦しみや悲しみを語り継ぐことに限られる。南京陥落を祝う提灯行列など当時の人々の高揚感を語り継ぐことはなく、敗者としての戦争の記憶を毎年、新たにしようとする。敗者としての記憶を伝承する作業は、戦争に対する否定的な感情を伝承することでもある。敗者としての戦争の記憶を伝承することは、戦争放棄の「平和憲法」を支持することにつながるだろう。

 敗者としての戦争を語り継ぐことだけを続けてきた日本の戦争観には歪みが生じている。日本が参加する戦争はこの80年間になかったが、世界各地で戦争は何回も起きている。それらの戦争に対し、「戦争は嫌だ」との感情的反応に終始し、戦争弱者に対する同情が現れても、休戦交渉などに日本が積極的に関与して、戦争のない世界の実現に日本が貢献するべきだ-などの世論は現れない。

 語り継ぐべきものが敗者としての戦争の記憶である限り、日本では戦争に対する忌避感が蔓延するだけだ。だが忌避感は情緒によるものであるから、日本が戦争に巻き込まれた途端に世論は一変し、戦う理由がある時には戦わなくてはならないと好戦的になる可能性がある。敗者としての戦争の記憶が、次の戦争を抑止することに日本は成功してきたが、世論は一変するものであり、情緒に頼りすぎる脆さを抱えている。