2025年1月29日水曜日

法の支配の実態

 トランプ氏は、過去の不倫相手への口止め料支払いについて事業記録を改ざんした罪状34件について有罪評決を受けていたが、ニューヨーク州地裁は1月10日、禁錮や罰金などの刑罰を科さない「無条件の放免」という異例の量刑を言い渡した。判事は「大統領職が広範な法的保護を受けるため」と説明したという。

 トランプ氏はほかにも裁判を抱えていた。▽20年の大統領選挙の結果を覆そうと手続きを妨害(起訴棄却。24年11月)、▽20年のジョージア州での大統領選の結果を覆そうと州政府に圧力、▽1期目の大統領退任時に大量の機密文書を持ち出し、自宅で保管(起訴棄却。24年7月)だ。ジョージア州での裁判は州の管轄のため、トランプ氏の大統領の任期中に法的責任を問われる公算は小さいと見られている。

 起訴棄却になった2件は連邦法違反の裁判だ。結局、トランプ氏は大統領に当選したことで法の裁きの対象から脱したことになる。大統領や首相など国家の最高権力者といえども、法の支配を受ける国は珍しくないが、米国の連邦最高裁は24年7月に、大統領は「公的な行為」に関しては免責され、「公的ではない行為」に関しては免責されないと判断、トランプ氏の刑事責任を免責した。

 大統領には法の支配が及ばないという特権を連邦最高裁は与えた(9人の判事のうち6人の保守派判事が支持した)。大統領としての「公的な行為」であれば違法行為も可能になる。当時のバイデン大統領は「今回の判断は大統領ができることに事実上、制限がないことを確実に意味するもので危険だ。大統領の権限が法律で制約されなくなる」と批判したという。

 米国の大統領には恩赦の権限があり、バイデン大統領は息子に恩赦、親族らに予防的な恩赦を与え、トランプ大統領は21年の連邦議会襲撃に関与した罪で有罪となった約1500人に恩赦を与えた。テレビ中継などで世界に知れ渡った連邦議会襲撃事件では約140人の警察官が負傷し、警察官1人を含む5人が死亡したのだが、その「罪」が恩赦で許された。恩赦は使い方次第で法の支配に風穴を開ける。

 選挙結果に不満を持つ群衆による議会襲撃は各国で起きてはいたが、それが米国でも起きたことは衝撃を持って受け止められた。そして、恩赦により襲撃が不問にされたことは襲撃が許容されたことを意味する。今後、米国は他国に対して法の支配を要求することは難しくなるだろう。そんな要求をしようものなら、「お前の国はどうなの?」と言い返されるだけだ。

 「 America First」は、法の支配や民主主義など米国が従来から掲げていた理念よりも、時の政権の政策や米国の利益が優先するということでもあるらしい。過去のアメリカも民主主義などの理念を外交で都合よく使い分けていたので実態は変わっていないが、トランプ政権は「本音」を隠さず、理念を軽んじる。法の支配や民主主義などの理念が「本当に普遍的なのか」試される時代になった。

2025年1月25日土曜日

タレントと女遊び

 タレントの中居正広さんと女性とのトラブルにフジテレビの社員が関与していたと週刊誌が報じ、フジテレビは「記事中にある食事会に関して、当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません」と否定した。だが、具体的な説明が不十分なこともあって世間の納得は得られず、杜撰な記者会見への批判も加わり、同社の主張に賛同は少ない。

 週刊誌によると、▽中居正広と芸能関係の女性とのトラブルにフジテレビの編成部長が関与した、▽フジテレビの編成幹部が中居正広と芸能界で仕事をしている女性を誘って3人で飲み会を予定していたが、幹部欠席で中居正広と女性の2人だけになり、そこで性的トラブルが発生した、▽中居正広は9000万円の解決金を払い示談に至った-という。この女性は事件当時、フジテレビに所属していたともされる。

 他のTV局でも同様に、社員が会食などの場を設けて人気タレントに女性を取り持っていたのではないか、そうした行為が慣習化していたのではないか、女子アナなどをタレントや「セレブ」相手の接待の場に参加させていたのではないか-などの疑惑が広がり、TV各局は社内でヒアリングや調査に動き始めた。

 芸人や芸能人は、ファンから仰ぎ見られる存在であると同時に、興味本位で見られる存在だ。だからプライバシーがマスメディアなどによって暴かれる。芸人や芸能人のプライバシーは一般人と同様に尊重されるべきだとの主張は昔からあるが、一方で、話題になって注目を集めるために芸人や芸能人はプライバシーの切り売りを都合よく行ってきた。

 芸人や芸能人は、都合が悪いことはプライバシーの侵害だとして隠そうとするが、ヘソ下のことは格好のネタとなるので、やがて露見することになる。その昔、映画俳優がスターと仰ぎ見られていた頃、スターや歌舞伎役者らが遊ぶのは料亭などで、相手は芸者など「プロ」の女性らで、素人を相手にすると後腐れがあると用心していたという。

 現代はテレビ全盛で、人気タレントが次々と速成されるので、タレントのヘソ下を管理することは簡単ではないようだ。そこへ、人気タレントの歓心を得るためにテレビ局が女性を取り持っていたとすると、テレビ局は女衒として女性を用意し、ポン引きとして人気タレントを呼び込んで女性をあてがっていたことになる。

 芸人や芸能人やタレントは性欲が強いのか、人気に慢心して誰もが自分と寝たがると勘違いしているのか判断は困難だが、一般女性相手に女漁りをして、やがて露見する。1971年に週刊誌が「芸能界“相愛”図」を掲載したが、芸能プロなどが一丸となって出版社に圧力をかけて謝罪させた。現在は、隠蔽したり圧力をかけたりすることがSNSなどで批判される時代となり、うやむやに誤魔化そうとすることが強く批判される。

2025年1月22日水曜日

以心伝心の限界

 北島三郎の「兄弟仁義」の歌詞に「俺の目を見ろ 何にも言うな」があり、映画なら任侠の世界に生きる主人公が命のやり取りをするクライマックスの場面に向かう時に歌が流れ、相棒も黙って主人公の後に従ったりし、何も言わなくても2人は全てを了解・共有するという状況が描かれる。だが、何も言わなくても常に意思が通じるものではない。

 日本では言葉によらない意思伝達が尊ばれ、以心伝心(文字や言葉を使わずに心と心が通じ、意思が伝わること。もとは禅宗の語)が強調されて、言葉による説明などを面倒くさがったりする。以心伝心は日常にも現れ、長年連れ添った夫婦や長年の友人間でアレなどの指示語で会話したりできるのは、状況や経験などを共有しているからだ。だから、状況や経験などを共有していない関係では以心伝心は成立しない。

 日本人は言葉によるコミュニケーションをもっと行うべきだというのが加藤周一氏。言葉による意思疎通を軽視する上位にある人は下位にいる人に忖度としての以心伝心を要求したりするが、そうした以心伝心は世界では通用しないと言う。加藤氏の言葉を引用する(適時修正あり)。

 「日本で最高のコミュニケーションの理想は以心伝心でしょう。沈黙してもわかるというのが一番いいコミュニケーションである。そうでなければ高度に儀礼的になる」「儀礼的なものでなければ、沈黙の理解というか、禅宗の先生と弟子みたいなもので言葉はいらない。そのどちらかに分化して、その途中の言葉によるコミュニケーションというものがない。限界はあるけれど、その範囲で最大限の意思疎通を図るという伝統が比較的弱いのではないか」

 「異民族の接触の多いところでは以心伝心は通じない。一緒に育っていませんから以心伝心ではダメです。他方、単に儀礼的なだけでは本当の意思は疎通しない。あれは非常に丁寧なかたちのコミュニケーションの拒絶でしょう。異民族間のコミュニケーションは、どうしても言葉によらざるを得ない。異民族接触の多い社会では、とにかく筋道を通して相手を説得するということが強くなる」「日本の場合は、共同体内部で暮らしていますし、異民族との接触がない」(「20世紀と放送」内川芳美氏との対談、1997年=『加藤周一対話集⑤ー歴史の分岐点に立って』所収)。

 日本における言葉によるコミュニケーションの軽視は、言葉で相手を説得するという行為の軽視として現れ、不適切な発言を批判された人が「真意が伝わらなかった」などと、相手や周囲が自分の言葉を正しく理解しなかったという責任転嫁にすり替わったりする。

 言葉をつくして説得するという習慣が疎かな日本では、言葉の定義がなおざりで、欧米発の新しい概念が適切な日本語に翻訳されることが少なくなり、カタカナ語として増殖するようになった。意味がぼやけているカタカナ語が反乱する状況では正確な意思伝達には限界があり、以心伝心は危ういコミュニケーションとなる。

2025年1月18日土曜日

三権分立の機能

 米国で2024年の大統領選により共和党候補のトランプ氏が当選し、同時に行われた上院選では共和党が53議席になって過半数を制し、下院選でも共和党が220議席で過半数を制した(上院の定数は100、下院の定数は435)。行政府と立法府を共和党が制し、終身制の9人の最高裁判事はトランプ氏が前政権時に保守派判事3人を指名したことで保守派6人、リベラル派3人となり、人工妊娠中絶の権利を保障した判決を覆すなど保守的な判決を出し続けている。

 行政・立法・司法の三権に対して共和党の影響力が増大し、意のままに権力を振り回しそうなトランプ氏のイメージもあって、米国では三権分立が形骸化するようにも見える。ただ、議会で共和党が過半数を制したとはいえ、圧倒的な多数とはいえず、党議拘束がないこともあり、共和党の優位は限定的だ。最高裁も常にトランプ氏の方針や判断に従うかどうかも不明だ。

 ロシアや中国など三権分立の体制を構築してる権威主義国はあるが、実際には三権が互いに監視し、牽制することはなく、個人独裁の強化・正当化のための機関と化している。立法府は個人独裁のために便利な法律を次々と成立させ、司法は人々に対する過酷な抑圧を正当化するための判例を積み重ね、時には行政機関の脱法行為に黙ったり、正当化する。

 三権分立は近代国家の装いとして不可欠だから、権威主義国家も三権分立の制度を構築する。だが、互いに監視・牽制することがない三権は最高権力を支える制度となり、三権が一体化して独裁統治を強固にし、批判や反対する人々を抑圧する。三権分立が機能しないことで最高権力への監視が緩み、権力を握った個人や政党は「やりたい放題」が可能になる。

 日本も三権分立の国だとされるが、内閣(行政)の力が強く、省庁のトップ(大臣)には国会議員が就任する(民間人の登用はごく少ない)。法律案の多くは省庁が原案を作成し、内閣法制局における審査などを経て、閣議決定が行われた後に議会に提出される。日本の議会は行政府が提出する法律案を審議し、その多くを成立させる承認機関の様相で、立法府が行政に従属しているのが実態だ。

 日本では司法の行政に対する監視・牽制機能が強く発揮されていないことは、警察などが絡む冤罪事件の多くの裁判が長期間続いたり、警察や検察の強引な捜査に対して厳しく批判する判決が少ないことなどで明らかだ。日本での三権分立は行政が圧倒的に優位な位置にある。議会で多数を獲得した政権与党は、首相や大臣のポストを握ることで行政を掌握し、内閣が最高裁判事を任命し、最高裁長官も内閣が指名するのだから司法に対する影響力を持つ。

 三権分立の互いに監視・牽制する機能を日本で活発に機能させるには、①現職の国会議員を省庁のトップに就けない、②省庁が原案を作成した法律案は内閣ではなく政党が提出する-などで行政と立法の分離を進め、最高裁長官の指名や判事の任命は議会に任せることなどが改革の出発点となるだろう。

2025年1月15日水曜日

都市と大規模火災

 強風や干ばつなど悪条件の中で、米ロサンゼルス近郊で発生した複数の山火事が広がった。高級住宅街を含む各地の住宅地に延焼し、1万棟以上が焼け、焼失面積は合わせて約160km2(12日現在)。避難命令の対象は最大18万人以上に及び、死者は24人だが、火災は鎮圧されておらず、連絡が取れない人も多いとされ、死者が増える可能性を地元当局は示唆している。

 バイデン大統領は「州の歴史で最悪の山火事だ」と述べ、山火事による損害額は1350億~1500億ドル(約21兆~約24兆円)に上るとの推計が出ており、米国で発生した山火事の損害額としては最悪となる可能性が高いと見られている。カリフォルニア州では毎年、山火事が多く発生しているが、今回は住宅地にまで延焼が広がる大規模な山火事だった。

 日本では山火事による大規模な都市火災は少ないが、 失火による都市火災は全国各地であり、それにも増して多いのが地震による大規模な都市火災だ。強い地震により複数カ所で出火し、地震直後だから消火活動は限定されるので燃え広がり、1区画が全焼したり、さらに広く燃え広がることもあった。

 1923年の関東大震災では、「かまどや七輪から同時多発的に火災が発生し、水道が断水したため最新の装備も役に立たず、強風によって火災は延焼し、消防能力を超えた」(内閣府HP)ため、「多くの火災が発生し、人的被害の多くは火災によるものであった(火災による死者は約9万2000人)」「焼失家屋は21万2353棟」(総務省HP) 。陸軍被服廠の跡地では火災旋風の影響で約3万8000人が亡くなった。

 1995年の阪神大震災では死者6434人、負傷者4万3792人、住家の全半壊63万9686棟、水道断水は約130万戸、ガス供給停止は約86万戸、停電は約260万戸などの被害を出した。地震後に285件の火災が同時多発し、「古い木造家屋が密集している地域などで大規模火災へと延焼拡大」(内閣府HP)し、全焼家屋6965棟などの大きな被害を出した。

 死者の4分の3は、家屋の倒壊や家具などの転倒による圧迫死で、焼死は約1割とされる。だが、神戸市では大規模火災へと延焼拡大したので、家屋の倒壊などで身動きができない人を、家族や地域住人が助け出そうとしても人力では助け出すことができず、延焼拡大の犠牲になった人が多いとの指摘もあり、死因の特定は難しく、焼死者数はもっと多いかもしれない。

 消防体制の能力には限りがあり、山火事でも都市火災でも大規模になると対応は後手後手になる。山火事でも地震後の都市火災でも火災現場に近づくことが簡単ではなかったり、強風下では延焼速度や方向が変化したりするので、消火活動は制約される。地震などによる停電や断水などに備えることはできるが、大規模な火災には備えることはできず、火災が迫る中で人間にできるのは逃げることだけだ。火災だけではない。津波にも集中豪雨にも土砂災害にも人間にできることは逃げることだけだ。

2025年1月11日土曜日

昭和歌謡の人気

 海外での人気を受けて日本国内でもJ-POPやシティ・ポップに対する再認識が行われ、当時の曲や歌手に対する評価が高まった。その流れの中にあるのか定かではないが、J-POPとしてくくられる以前の昭和歌謡に対する再評価も目立ち、テレビ番組で昭和歌謡を取り上げる企画が珍しくなくなった。

 J-POPは、洋楽の影響が大きい1980年代の日本の大衆音楽を指す言葉で、FMの「J-WAVE」が使用したのが最初だという。今ではJ-POPは広く使われ、日本のポップスの代名詞ともなった。デジタル辞書では「日本人が作詞・作曲したポピュラーミュージック。邦楽」と大雑把な解説で、J-POP以前の昭和歌謡も洋楽の影響を受けているので含むことができそうだが、J-POPと昭和歌謡は洗練さなどで感覚的に区別される。

 昭和歌謡とJ-POPとシティ・ポップの区分けは曖昧だ。全てに属するとみなされる曲や歌手もあれば、演歌などは昭和歌謡のみに属するとみなされる。ベンチャーズやビートルズ、ローリング・ストーンズなどの影響を受けて多くのバンドが現れた GS(グループ・サウンズ)は、元祖J-POPともいえそうだが、昭和歌謡に属するとみなされるようだ。

 昭和は1926年から1989年(昭和64年)までと長い。1920年代には「出船の港」「アラビヤの歌」「東京行進曲」「洒落男」「道頓堀行進曲」などが流行り、1930年代には「酋長の娘」「すみれの花咲く頃」「酒は涙か溜息か」「丘を越えて」「サムライニッポン」「影を慕いて」「サーカスの唄」「東京音頭」「ダイナ」「旅笠道中」「うちの女房にゃ髭がある」「別れのブルース」など多くのヒット曲があるが、それらは懐メロ扱いで、昭和歌謡を扱うテレビ番組で取り上げられることはない。

 1950年代や1960年代のヒット曲や歌手が取り上げられることも少なく、中心となるのは1970年代のヒット曲や歌手と、1980年代のJ-POPやシティ・ポップとはみなされないヒット曲や歌手、それにJ-POPとシティ・ポップだ。テレビで歌番組が多く放映されていたので当時の映像が多く、使いやすいことも、1970年代〜1980年代のヒット曲や歌手が番組構成で中心となる理由だろう。

 昭和歌謡の時代は芸能プロが主導して作詞家や作曲者に曲をつくらせ、歌手にあてがっていた。ヒット曲も人気歌手も芸能プロによって「つくられる」時代だったが、J-POPとシティ・ポップでは自作自演が増えた。作詞家や作曲者が商品としての曲を作っていた時代から、アーチストと歌手らが呼ばれる時代に変わり、曲は自己表現の作品とみなされるようになった。

  J-POP全盛の中で昭和歌謡が見直されているのは、アーチストの作品が増殖し、ダラダラとした作文のような歌詞があったり、自分の心情が特別に価値あるもののように歌い上げる曲が増える一方、芸能プロが関わるグループなどはキレキレのダンスを見せることに比重が傾き、口パクが蔓延して歌唱が軽視されているからだ。カラオケでは昭和歌謡がよく歌われているというから、歌を歌い、歌を聞くことの魅力を昭和歌謡が持っていると見直された。

2025年1月8日水曜日

垂れ流すマスコミ

 米国のトランプ次期大統領は選挙中に、「エルサルバドルからの移民は『肥溜めのような国から来た』、メキシコからの移民は『犯罪や麻薬を持ち込む』『米国の血を汚している』」とか、報道機関関係者が銃撃されたとしても「気にしない」とか、共和党内の反トランプ派議員は「銃を向けられたらいい」など問題発言を連発した。

 当選後にもトランプ氏は、「カナダがアメリカの51番目の州になる」とか、パナマ運河の「支配権を取り戻す」とか、「アメリカにはグリーンランドの所有と管理が絶対に必要だ」など問題発言に歯止めがかかっていない。問題発言が出るたびにマスメディアは詳しく報じ、結果的にトランプ氏の発言を広く周知する役目を担っている。

 米国の次期大統領に決まった人物の発言だからニュースバリューがあり、多くの人が関心を持つだろうとの判断は間違いとはいえない。だが、問題発言が熟慮された政策ではなく、思いつきを垂れ流しているのが実態だったとすると、マスメディアはトランプ氏の発言を伝えたことでは正確に報道していたが、その発言内容についての検証は希薄で、結果としてトランプ氏の一方的な発言を広めることに貢献している。

 トランプ氏の交渉手法は商業取引の駆け引きの延長上にあり、最初に過大な要求を突きつけて脅し、相手の譲歩を引き出して利を得るスタイルだとされる。政治的な交渉や外交交渉では相手のメンツを尊重し、感情的になりすぎず礼儀正しく振る舞いつつ落としどころを探ったりするが、トランプ氏の一連の発言は政治的・外交的には礼を失している。

 そうした振る舞いが許されるのがトランプ氏だ。トランプ氏は「型破り」だとすでに容認されているから、マスメディアもトランプ氏の問題発言を面白がって報じているように見える。だが、マスメディアがトランプ氏の問題発言を次々と伝え続けると、やがて人々はトランプ氏の問題発言が社会的に容認された主張であるかのように受け止めるだろう。

 マスメディアは、トランプ氏の発言が事実であると確認した上で報じているのだから事実を伝えているのだが、その事実とはトランプ氏が発言したというだけだ。発言内容を伝えた責任をマスメディアは負わない。これは、マスメディアがトランプ氏の広報媒体と化していることを示す。実現性が不明なトランプ氏の一方的な主張をマスメディアは垂れ流し、それがトランプ氏の影響力を高めている。

 例えば、芸能ジャーナリズムはタレント事務所やタレントの広報媒体となって「共栄」している構図だ。芸能ジャーナリズムは人気タレントの記事を発信することでファンを楽しませる。トランプ氏の発言を垂れ流すマスメディアは、トランプ氏のファンを楽しませ、何を言い出すか分からないトランプ氏が、何を行うか分からない人物だというイメージを拡散することに協力している。

2025年1月1日水曜日

生命のリレー

  世界で昨年、数万人以上の人間が殺された地域はウクライナとイスラエル周辺だ。戦火が止む気配は希薄で、今年も多数の人間が殺されることになりそうだ。昨年も世界各地で事故や災害などで多くの人間が死亡し、今年も同様に多くの人間が事故や災害で死亡するだろう。1人の人間の死は太古から数十億年にわたり繋がれてきた1つの生命の消滅である。

 地球で初めての生命は約38億年前に海の中で誕生し、やがてバクテリアが現れ、光合成を行って酸素を出すようになり、20億〜25億年前には大気中に酸素が蓄積して増えた。約4億年前に植物が海から陸にあがり、昆虫や両生類が続いた。約3億年前に爬虫類、約2億年前に恐竜や哺乳類が現れ、約500万年前に人類の祖先が登場した-と考えられている。

 生きている人間は、単細胞生物から植物や魚類、様々な動物など形態を変えながら続いてきた生命のリレーの中にいる。人間は人間の両親から生まれ、植物は植物から、動物は動物から、バクテリアはバクテリアからと子孫をつないで行くように様々な生命体に分かれている今では、生命のリレーを実感することはないだろうが、人類が登場するまでに膨大な時間がかかっている。

 約500万年前の人類の祖先と現在の人間が異なるように、地球上に現れた過去の植物や動物と現在の植物や動物は異なる。それぞれに独自の進化を続けた結果として現在の植物や動物、そして人間がある。地球上にある膨大な生命は多彩な外観をし、様々な生き方をしているが、それらは系統樹によって生命の流れの中にいることが示される。

 約38億年前に誕生した生命の一つの遺伝子が受け継がれながら進化し、海から陸へと生息環境を変えて更に進化を繰り返し、やがて1人の人間となった。1人の人間の存在は貴重であり、理不尽に生命が奪われてはならないはずだが、人類の歴史を振り返ると、世界各地で殺しあってきた。人権の尊重という概念を人間が持つようになった18世紀以降も人間は殺しあい、今も殺しあっている。

 生命史を振り返ると、魚類や昆虫、両生類、爬虫類、哺乳類などは他の生命を捕食することで生命をつないできた。そうした捕食は生命のリレーには欠かせないものであるのだが、ウクライナやイスラエル周辺で行われている大量の殺害はロシアやイスラエルの国家権力の決定により行われているもので、死傷者を増やすことを容認しており、それは生命のリレーと無関係だ。

 膨大に存在する様々な生命には増殖するものがあり、衰退し、絶滅するものがある。80億人以上へと増えた人類が衰退するとすれば、各国が核兵器を大量使用する第3次大戦が起きた場合だろう。おそらく大量に核兵器が世界で使用されたとしても、生命史が絶たれることはないだろうが、人類の歴史は激変する。人間の生命のリレーに対する最大の脅威が国家の存在であると見なされるようになるかもしれない。