2022年3月30日水曜日

韓国で感染爆発

 韓国は2020年来、大量のPCR検査で感染者を見つけ出して隔離する対策で、人口あたりの感染者数を他国より少なくすることに成功したので「K防疫」と称して誇ってきた。だが、2月から新規感染者数の増加に歯止めがかからず、受検者が殺到してPCR検査体制が回らなくなり、医療機関の迅速抗原検査でも感染有無を判断できることにした。

 感染を抑止しないPCR検査を増やしたところで感染拡大は抑えられず、韓国は感染爆発にお手上げと見える。K防疫の「成功体験」は人々にも共有されているらしく、検査希望者が医療機関などに詰めかけ、医療機関も保健所も業務が停滞しているという。PCR検査を増やせば増やすほど感染者が見つかる状況になったなら、PCR検査を増やすことは医療体制への圧力となる(政府はPCR検査数を制限)。

 韓国の累計感染者数は3月24日に1080万人となり、1000万人を超えた。人口は約5178万人なので、21%の人々が感染した計算(=国民の5人に1人が感染した)。死者数も増えており、ソウル周辺では遺体が大量に滞留していると報じられた。葬儀場は増加する遺体の安置空間の不足で混乱が生じ、保健福祉省は葬儀場に遺体の安置空間の拡張を命じ、全国の火葬場には営業時間を延長するよう指示した。

 世界で累計感染者が最も多いのは米国で8100万人台、次いでインド4300万人台、ブラジル3000万人台、フランスと英国、ドイツが2千万人台、ロシアとトルコ、イタリア、韓国、スペインが1千万人台となる。韓国以外の国は以前から感染者が多かったが、韓国は 2022年になって一気に感染者が増え、ベスト10入りした。

 新規感染者が10万人台、20万人台から30万人台、40万人台と増え、62万人を超えた日もあった。K防疫では感染拡大に無力だと新規感染者数の数字が明確に示す状況で、韓国政府は厳しい行動制限ではなく制限緩和へと動いた。例えば、濃厚接触者の隔離措置を解除し、私的会合の人数を8人に緩和し、飲食店などのワクチンパスポート制度を取りやめ、ワクチン未接種者の会食への参加を容認し、飲食店の営業終了時間を延長した。

 これらの緩和は大統領選の投票日の前に行われ、飲食店など自営業者の歓心を狙ったなどの批判のほか、医療関係者から「政府が防疫を放棄した」とか、感染拡大を放置して「集団免疫の実験を行っている」などの厳しい声が上がっているという。さらに大統領選の前には大規模な集会が連日開かれていて、それが感染拡大を後押ししたとも見られている。

 各国ともオミクロン株の感染拡大は長く続いているから、韓国の感染爆発もしばらく続きそうだ。こうなりゃ、人口の何%が感染すると集団免疫が得られるのか、世界に先駆けて試すしかないか。集団免疫を獲得したアカツキには、かつて誇ったK防疫の代わりに「K集団免疫」を世界に向けてアピールする?(集団免疫を獲得するまでに死者数はどこまで跳ね上がるのかは誰も知らない)。

2022年3月26日土曜日

問題意識の拡散

 インターネット上には、何かの出来事や動きを取り上げて「なぜ、これをマスコミは報じないのか」とのマスコミ批判が珍しくない。マスコミが報じない理由は①その出来事や動きを知らない、②取材中、③事実確認ができない、④ニュース価値がないと判断、⑤取材して記事化したが他のニュースが優先されボツになった、⑥取材が阻まれたーなど様々だ。さらに、ニュース価値の判断がマスコミ批判をする人とマスコミで大きく異なっている可能性もある。

 ニュース価値の判断は問題意識によって異なる。例えば、与党の有力政治家の発言は政局などに影響を与える可能性があるからマスコミは丁寧に伝えるが、大半の人は無視するニュースだろう。関心を持たない出来事や動きのニュースに大半の人は反応しない。「なぜ、これを報じないのか」とのマスコミ批判は自分の問題意識を表しているだけか。

 価値観や蓄積された知識量、イデオロギーなどに影響されて関心を持つ対象が個人により異なるので、問題意識は様々。日本で世界で起きる多くの出来事や動きの中で、どういう出来事や動きに注目するかは、どういう問題意識を持つかで異なる。企業体であるマスコミもそれぞれの問題意識を有するので、報じるニュースに各社の「個性」が現れたりする。

 問題意識は、現実を価値で照合したときに生じる。例えば、環境は良好に保全されなければならないとするから環境汚染が問題として意識され、政治は金で左右されてはいけないと考えるから政治家や官僚の汚職が問題として意識される。そうした問題意識の集まりが価値観を形成し、イデオロギーなどにもつながり、世の中の出来事や動きの中から問題だとするものを選び出す。

 価値観やイデオロギーは鋭い問題意識を呼び起こす。そうした問題意識は取材対象を選ぶところから影響するだろうし、取材にも方向性を与え、時には取材の結果をまとめる時にも方向性を与えるかもしれない。取材者の問題意識が強い場合に、どこまで取材結果に影響を与えたのか、それを外部から知ることは簡単ではない。

 「なぜ、これをマスコミは報じないのか」との批判がマスコミを動かすこともある。最近の成功例は「人為的な地球温暖化論」だ。環境運動団体などが気候変動問題として拡散させ、CO2の排出削減という問題意識を世界規模でマスコミを動かして人々に共有させることに成功した。マスコミが報じる問題意識は人々に影響を与え、気候変動という問題意識を人々も持つようになった。

 組織的に特定の問題意識を世間で広めることは珍しい行為ではなく、強権国家では国家が人々の問題意識を誘導・強制し、民主的な国家では様々な団体や企業が特定の問題意識の拡散を試みる。団体や企業は、論理的な説得スタイルに人々の感情を揺さぶる情緒的なアピールを交え、人々に自発的に問題意識を持ったと思わせることを狙う。特定の問題意識を人々が共有すると、それが社会の価値観となって人々を束縛することもある。

2022年3月23日水曜日

愛国者と歴史

 ロシアで絶大な権力を掌握したプーチン大統領が決断してウクライナ侵攻が実行されたと見える。だが、その決断に合理性が希薄であるとの疑いが現れる一方、数日でウクライナを制圧できるとの期待に基づいて侵攻が実行されたとの解釈が広まり、今回のプーチン氏の決断の妥当性に疑問が出てきて、プーチン氏の精神状態を危ぶむ声さえ欧米で現れた。

 2020年の憲法改正でプーチン氏の2036年までの続投が可能になり、さらに大統領に強大な権力が付与されたというロシアの権力構造からして、プーチン氏が今回の侵攻の決定に大きな役割を担ったことは確実だ。そこにはロシア流の世界観が反映されるとともに、プーチン氏が考える合理性があったはずだ。

 その合理性は、第一に今回のウクライナ侵攻に伴うロシアのリスクは小さいとの判断、第二に短期間でウクライナを制圧できるとの判断、第三に欧米の反応は限定的との判断、第四にウクライナをロシアに「回収」することでロシア政権への評価が高まるとの期待ーなどの見込み違いに基づいていた。

 ロシアは2014年にウクライナの領土であるクリミア半島を武力で併合し、親ロシア派の武装勢力が実効支配するウクライナ東部において影響力を強めた。ウクライナ東部においてロシア系住民へのジェノサイドが起きているとロシアは主張し、今回のウクライナ侵攻を正当化する(欧米はロシアの主張を事実無根とする)が、おそらく理由は何でもよかった。何の理由であれロシアはウクライナに侵攻した。

 ソ連が解体して誕生したロシアは混乱が続き弱体化したが、原油などの輸出により経済を立て直すことができ、軍事力の大幅な衰退を回避しつつ、「大国」として振る舞うことができた。長期政権を維持し、今後も最高権力者の地位にとどまり続けることが可能になったプーチン氏にとっては、残るは愛国の英雄として歴史に名を残すことだ。今回のウクライナ侵攻は、プーチン氏の愛国者として歴史に名を残したいとの思いが影響した可能性がある。

 愛国者として歴史に名を残す人は、①侵略者に抵抗して撃退するか犠牲となって人々の抵抗心を高めた救国の英雄、②領土を拡大して大帝国をつくった指導者、③バラバラだった諸地域をまとめ国家を統一した指導者、④植民地で独立の機運を決定的に高めた活動家ーなどだ。ロシア国内に君臨するプーチン氏が愛国者として歴史に名を残すなら、ロシア「帝国」を復活させるしかない。

 ウクライナ東部を完全にロシアの支配下にできたなら、ウクライナを強く牽制でき、ウクライナのNATO参加も阻止することができ、おそらく欧米の経済制裁なども限定的だったかもしれない。ウクライナ全土の制圧をロシアが目指したのは合理的な判断に基づくものではなく、愛国者として歴史に名を残したいとのプーチン氏の野望が強く影響したとするならば、簡単にはロシアは軍を引かないだろう。

2022年3月19日土曜日

民主主義と個人の自由

 ロシアの主権は今、プーチン氏にあるように見える。ロシア国内ではプーチン大統領に批判的な独立系メディアへの締め付けが強まるなど情報統制が強化され、政権内ではプーチン氏に反対意見を言ったり諌めたりすることができる人々がどれだけ存在するのか不明だ。政権内からプーチン氏に批判的な人々が排除され、プーチン氏に逆らわない人々だけが残ったと欧米メディアは報じる。

 ロシアでは、大統領も議会も自由な選挙によって民意を反映して選ばれているはずなのに、なぜプーチン氏という1人が主権を握って独裁していると見えるのか。考えられる制度的な問題は、①大統領職に強大すぎる権力を持たせている、②大統領職に対する議会や司法の牽制力が弱体、③議会や司法に対する大統領職の影響力が強いーなど権力相互の監視機能が弱いことだ。

 ロシア連邦憲法は2020年に大幅な改正が行われ、▽現職大統領の任期制限を撤廃▽国防・国家安全保障・内務・法務・外務などの大臣の任免は大統領が行う▽大統領に首相の解任権▽大統領に検察官の任免権限▽大統領は退任後も刑事責任や行政責任は免責ーのほか、▽国際法に対する憲法の優先▽領土の割譲を目的とする活動を禁止▽愛国主義や保守主義などの価値観を強化▽在外同胞の権利保護・憲法と矛盾する国際機関の決定の不履行・内政不干渉などを新たに規定ーなどと変更された(当時の大統領はプーチン氏)。

 この改正により大統領職の権限は強化され、プーチン大統領は強力な権力を手に入れると共に、プーチン氏は2036年まで大統領を務めることが可能になった。1人の人間が強力な権限を持つ最高権力者の座に居座り続けることが確実なら、周囲の人間がおとなしく、ただ従うばかりになることは当然かもしれない。

 ロシア連邦議会は2院制だが、連邦院(上院)の議員は連邦を構成する各地の行政府などの代表で構成され、国家院(下院。定数450)の議員だけが政党比例代表制の選挙で選出される。2021年の下院選挙では、プーチン政権の与党「統一ロシア」が改選前より10議席減らしたが324議席を獲得、憲法改正に必要な3分の2以上を維持した。こんな議会にプーチン大統領に対する監視や抑制など期待できない。

 自由選挙で選出された大統領や議会が一体化すると、どんな法律でも成立させることができようし、思いのままの憲法改正も可能となり、法治国家の体裁も装うことができる。民主主義に必要不可欠な自由選挙が、権威主義体制の構築を助け、独裁者の出現を許す。自由選挙だけでは民主主義が機能しないことがあるとすれば、民主主義を機能させるために必要な何かが他にある。

 現在のロシアに欠けているものは、個人の自由だ。体制に従順な人々の自由は確保されていようが、体制に批判的で時には抗議行動する人々の自由が損なわれている。そうした人々の自由を違法とすることはロシアのような体制では簡単だろうが、自由になろうとする自由は法によっても失わせることはできない。政府も間違えることがあり、政府の間違いを修正できるのは人々だけだ。自由を求める人々がどれだけ存在するのかが民主主義を機能させるカギなのかもしれない。

2022年3月16日水曜日

各社がいっせいに値上げ

  米国の2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の上昇率が7.9%と約40年ぶりの高い水準となった。CPIの上昇率が6%を超えるのは5カ月連続で1月は7.5%だったのでインフレの勢いは衰えておらず、ロシアのウクライナ侵攻もあって原油価格や小麦価格などが高騰しており、インフレはさらに加速する可能性が指摘されている。

 日本でもガソリンなどの値上がりに加え、公共料金や食品類、首都高の通行料金などの値上げが相次いでいる。食品を見ると、製パン各社は食パンや菓子パンなどを値上げし、即席麺メーカーは袋麺やカップ麺などの値上げを続々発表するなど小麦価格の高騰の影響が大きいが、原油高による物流経費や包装など資材価格の上昇も加わって調味料やマヨネーズ、加工肉など多くの食品で値上げが広がる。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、利用客が減少した鉄道各社は値上げを検討し始めた。JR東は新幹線や特急のグリーン席料金などを最大で約3割値上げしたほか、JR東とJR西は在来線で定期券運賃の値上げを検討していると報じられた。私鉄各社も値上げを検討しているといわれる中、政府は鉄道の運賃・料金制度を見直す方針を表明したので全面的な値上げの可能性も出てきた。

 物価が上がらないデフレが続いていた日本では、輸入に頼る食料や原材料などの国際価格の上昇を内容量を減らすステルス値上げなどで企業はしのいできたが、今回のエネルギーや食料などの国際価格の高騰には抗することができず、各社いっせいに続々と値上げに動く。これまで値上げしたかったが、できなかった各社が横並びで値上げを始めたと見える。

 これまで値上げが難しかったのは、代替商品が多数ある中で値上げしたなら売れ行き低下が懸念されたからだ。非正規雇用などで低収入の人が増え、日本全体で可処分所得が増えないので日本全体の購買力も低迷したままで、外食産業などサービス業でも低価格指向にせざるを得ず、賃金も商品やサービス価格も上がらない状態が続いた。

 そこへ値上げラッシュが始まった。非正規雇用も含め賃金引き上げが広く行われなければ、生活必需品への支出の割合が増えて他へは回らなくなり、購買力は低下する一方で消費の低迷に拍車がかかろう。個人消費は日本のGDPの半分強を占める。個人消費を刺激して増加させることが日本のGDP増加には不可欠だが、個人消費を増加させるための有効な経済政策は乏しかった。

 家電や半導体などは日本の有力な輸出品ではなくなり、自動車メーカーなどは世界で現地生産体制を整え、日本の経済政策の重点は「輸出立国から内需立国へ」転換すべきだった。だが、過度の円高警戒に見られるように時代の変化や経済構造の変化に政策が対応していない。今回の値上げラッシュは人々を直撃する。人々の不満が高まって政策を転換させるか、人々がさらに貧しくなることに甘んじるのか、大きな転換点を迎えた。

2022年3月12日土曜日

同じ民族でも殺し合う

 スラブ人とは民族ではなく、スラブ語系の言語を話す人々とされ、多くの民族で構成されるというのが学問的な定義だ。だが、東ヨーロッパでの1500年以上にわたる分散・移動の中で次第に共通する民族意識が形成され、現在ではヨーロッパで最大の民族とされる(スラブ人でありウクライナ人であるなどと二重の民族意識を人々は持つ)。

 スラブ人は大別して東スラブ(ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人)・西スラブ( ポーランド人、チェコ人、スロバキア人など)・南スラブ( (セルビア人、クロアチア人、スロベニア人、モンテネグロ人、マケドニア人、ブルガリア人など)に分かれる。移動して定住した土地での先住民族との混交などで様々な集団が形成されて、やがて、それぞれの民族意識に発展したのだろう。

 スラブ人でも東スラブ人でもあるロシアのプーチン大統領は2021年に論文で「ロシア人とウクライナ人は一つの民族」とし、演説では「ウクライナは、歴史・文化・精神世界で切り離せないロシアの一部だ」と強調したという。スラブ人or東スラブ人という同民族意識を強調していたことから、今回の侵攻に「同じ民族で殺し合うなんて」「兄弟民族で殺し合うなんて」などの反応が日本で現れた。

 だが、同じ民族で殺し合うのは歴史的に珍しいことではない。冷戦終了後のユーゴスラビアの解体過程では南スラブ人同士が殺し合った。南スラブ人という意識より、クロアチア人とかセルビア人などの意識が高ぶりすぎた結果だ。ロシア人がロシア人を大規模に殺したのがスターリン時代のソ連における大粛清で、死者は推定1千万人ともされる。朝鮮戦争では朝鮮民族同士が殺し合い、中国の文化大革命では中国人の死者は推定2千万人とも、それ以上ともされる。

 同一民族でも兄弟民族でも、利害の対立が先鋭化すると殺し合ってきたのが人類だ。日本でも、日本人という意識の共有が定着する以前は、奈良・平安などの昔から戦国時代、さらに明治維新まで日本に住む人々が互いに殺し合った歴史がある。たとえ民族意識を共有していても殺し合うのが人類だと理解するなら、今回のロシアの行動を民族意識で解釈する必要はなくなろう。

 日本のような異民族の侵入が少ない社会では、そこに生きる人々が民族意識を育むことは自然なことかもしれないが、様々な異民族の侵入が繰り返されたり、多くの民族が混じって生きる社会では支配民族を中心に新たな民族意識が形成されたりもする。中国は、人為的に新たに中華民族という意識を形成させて社会をまとめようとしている。

 形成されて出来上がるものが民族意識だとすると、希薄になったり解体する民族意識もあるだろう。例えば、今回のロシアの侵攻に抗うウクライナ人には、同じスラブ人or東スラブ人という意識は希薄になり、やがてロシア人とは別の民族であるとの意識をウクライナ人は強く持つだろう。民族意識は人々の抵抗によっても育まれる。

2022年3月9日水曜日

クサビを打つ

  中国は南シナ海のほとんどを自国領だと主張し、方々に点在する岩礁などを埋め立てて人工島を造成し、空軍や海軍の軍事展開の拠点とした。東シナ海においても台湾侵攻を視野に海軍の展開能力を高めるための訓練を繰り返し、西太平洋にも進出するようになり、日本領の尖閣諸島周辺では中国海警局が定期パトロールを行うようになった。

 歴史的に中国の軍事力の主力は陸軍で、海軍は強力ではなかった。中国の歴代の王朝を苦しめたのは北方などからの陸づたいの侵入であり、現存するだけでも6000km以上とも8000km以上ともいう万里の長城は、いかに中国人が陸からの侵攻に対する強い警戒心と恐怖心を持っていたかを示している(万里の長城の総延長を中国政府は21196kmとする)。

 経済成長した中国が海軍を強化し、海洋進出を積極化させているのは、第一に台湾を武力制圧する準備、第二に米国のアジアにおける海軍力への対応ーだろう。だが、ロシアの弱体化によって陸路における現実的な脅威が軽減したことが大きい。ロシアから陸路で侵攻される可能性が縮小したことで、中国は海軍力の強化を積極的に進めることができた。

 中国は海側(東南)を向いては米国と対立し、陸側(北西)を向いてはロシアと対峙している。腹背で敵と対峙する事態は避けなければならない中国で、ソ連からロシアに変わってもロシアに対する警戒心は薄らいではいないだろうが、ロシアの経済的な弱体化でその現実的な脅威は減退した。陸側に対する警戒心を低下させることができたので中国は、海への進出に重点を移した。

 中国の海洋進出に対して米国をはじめ各国には具体的な抑制策がない。米国は艦艇を南シナ海などで航行させているが、それは中国の更なる海軍力の増強を促すだけだろう。中国が海洋進出に注力するのは、陸側からの脅威が減少したためだと判断するなら、中露の間にクサビを打ち込み、中国とロシアを離間させることが有効だと見えてくる。

 ウクライナに侵攻したロシアに対する警戒心を中国が高め、過去のソ連の軍事力に対する警戒感を想起したなら、中国は陸軍の強化に重点を移すだろう。海軍力の増強も続けるだろうが、ロシアとの長い国境線の守りを強化することが最優先になったなら、海洋進出はペースダウンするかもしれない。

 問題は、どういうクサビを、どうやって打ち込むかだ。中国もロシアも米国と対立しているので連帯しているように見えるが、敵(米国)を共有しているだけだ。つまり、中国かロシアのどちらかが米国と友好的になれば、残されたほうは孤立する。ウクライナを占領できてもロシアは、その後の占領統治が簡単ではなく、欧米などの経済制裁のためにロシア経済は時間と共に弱体化するだろう。中国とロシアの離間を図る絶好の機会がやって来る。

2022年3月5日土曜日

来世という仮説

 天国や地獄が本当に存在するのか、死後に神の審判が本当にあるのか、その答えは誰も知らない。生きている人間には死後の世界を知ることは不可能であり、来世や神の裁きが存在するとも存在しないとも判断できない。存在が不確かなものを存在すると主張するのは、信じるという行為になる。何を信じるかは個人の自由であり、天国や地獄、神の裁き、仏の救済から幽霊やUFOなど信じる対象は広い。

 天国や地獄、神の裁きなどが存在するとする宗教がある。それらの存在を、神の言葉を聞いたという預言者や開祖が主張し、それを信者は信じる。だが、いくら熱心に信じようと、それらの存在が客観的に実証されるわけではない。客観的に実証できないからこそ、信じるという行為が価値を持つというのが宗教の仕組みだ。

 神や天国、地獄、神の裁きなどが存在するという主張は仮説であり、おそらく人間が永遠に当否を判断できない仮説であろう。宗教はそれぞれ独自の世界観を有し、その世界観の中で信者は「善き」生き方を求められるが、その世界観も仮説である。絶対の真理を主張し、膨大な理論構築を行ってきた宗教もあるが、それは膨大な仮説の集積でしかない。

 宗教と比べて科学は真理の集積であるとされる。だが、科学的な真理とは、観測される現象を合理的に説明できる仮説が共有されたもの。共有されない仮説は世界には膨大に存在するのであるから、科学も宗教と同様に仮説に満ちている(科学的な仮説とは研究者の論文であり、厳しく検証されて否定されたり、検証もされずに無視されるものは仮説でしかない)。

 宗教や科学のほかにも仮説は世界にあふれている。例えば、マルクス主義や新自由主義など様々な思想は仮説であり、評論家や政治家、メディアの政治・経済・社会・国際情勢などに関する先行きの見通しや予想も仮説であり、個人がSNSなどで発信する様々な主観による主張も仮説である。

 仮説に惑わされないためには、「そういう考えもある」という見方を常に心がけ、距離を取ることが有効だ。とりあえず否定も肯定も留保し、仮説を仮説として理解する。うっかり何かの仮説を真実だと受け入れると、天国や地獄の存在を信じることと同様に判断力が制約され、その仮説に反する情報を簡単に拒否したりする。

 科学を持ち出して自説を正当化する政治家や評論家らは多いが、「そういう考えもある」と見れば、世の中にあふれる仮説に振り回される可能性は低くなる。「そういう考えもある」との見方は、客観的な見方に通じる。だが、客観的な見方を行う人はそう多くはないのが現実世界だ。仮説も、信じるという行為に支えられているのだろう。

2022年3月2日水曜日

ワクチンで大儲け

 新型コロナウイルスのワクチンの世界における累計接種回数は約107億回(2月27日)という。最も多いのは中国で31.1億回、次いでインド17.7億回、米国5.4億回となり、この3国で世界全体の半数を上回る。日本は2.2億回で累計接種回数ではブラジル3.9億回、インドネシア3.4億回に続いて世界で6番目に多い(人口が多い国で接種回数は多くなる)。

 中国では2種類の国産ワクチンなどが使用され、インドでは英企業の技術提供を受けて開発されたワクチンなどが使われ、米国ではファイザー、モデルナ、アストラゼネカなどが使われている。今回の世界的パンデミックは巨大なワクチン接種市場を新たに創出し、各社に巨利をもたらした。

 2021年に最も売れた薬になったと報じられたファイザー社の新型コロナウイルスワクチン。その売上高は368億ドル(約4.2兆円)で、同社の21年の売上高は前年比95%増の812億ドルと倍増した。利益は2.4倍の219億ドルと巨額だ。感染拡大が続いているので、新型コロナウイルス関連の医薬品の売上高は22年に540億ドル(約6.2兆円)を見込んでいるそうだ。

 モデルナも好調で、21年12月期決算は売上高が前期比23倍の184億ドルと大幅な増加となった。うち96%がワクチン売上高という。このワクチンのおかげでモデルナは上場以来初めて通期で黒字化したというから、パンデミック特需の恩恵がくっきり現れた。22年は7%増の190億ドルを見込む。

 欧州諸国などでは厳しい規制を次々に撤廃し、パンデミック以前の日常に復帰する動きが相次いでいるが、それはワクチン接種で重症化を抑制できるとの判断に支えられている。つまり、厳しい規制の撤廃が世界的に広がったとしても、ワクチン需要は減らず、むしろ定期的な接種などでワクチン需要が拡大する可能性もあり、各社の売上高は少なくても22年は順調に拡大しそうだ。

 このワクチン特需の特徴は、第一に買い手が各国政府であるから代金回収の不安が皆無であることだ。第二に各国が争奪戦を始めたので値崩れがなかっただろうこと、第三に感染を防ぐ効果が限定的なので穏やかな感染拡大が続き、ワクチン需要も持続することだ。各社が各国に同一価格で販売しているのか詳らかではないが、値切る国には「嫌なら、よそへ売るよ」と強気の商売をしているだろうな。

 このパンデミックで各国政府は人々の生活を支え、経済を支えるために巨額の財政支出をしたが、ワクチン確保のためにも巨額の財政支出をしただろう。それが各社の大幅な売上や利益の増加となって現れた。各社は十分な利益を得たのだが、世界にはワクチン接種が進まず、1回のワクチン接種者が人口の10%以下の国が多数存在する。健康も生命も金次第という状況が現在も世界で続いていることをコロナワクチンは示している。