2022年9月28日水曜日

利用される住民投票

 親ロシア派の武装勢力が占領するウクライナ東部のドネツクとルガンスクなどで、ロシアへの編入の賛否を問う住民投票が行われた。これは、ロシアが支配地域を併合するための儀式であり、「偽りの住民投票だ」と欧米各国は強く非難し、住民投票も併合も「決して認めない」とした。

 中国は微妙な反応を示した。欧米などのロシア非難には同調しない姿勢は堅持する一方、住民の意思を問う住民投票で地域の独立や他国への編入を決めることにも賛成できず、言葉を濁すしかない。ロシアのウクライナ占領地での住民投票を認めたなら、ウイグルやチベットなどにおける住民投票を求める声を否定できず、整合性が取れなくなる。

 中国はロシアと欧米の対立激化を眺め、言葉ではロシアを支援するが、欧米との経済関係に影響が及ばないように慎重に立ち位置を見定めてきた。トランプ政権以来の米国との対立が経済面から政治面まで広がり、欧州でも中国との関係を見直す動きが現れて中国は、言葉では欧米に対して強硬姿勢を維持するが、具体的な行動には強硬な姿勢は現れない。

 9月に習近平国家主席とプーチン大統領は会談し、結束していく姿勢を強調したと報じられた。ロシア産の天然ガスや石炭などの中国への供給拡大などで一致し、中ロ間の貿易額を24年に2000億ドルに引き上げる目標を確認したという。ロシアの行き場のない天然ガスなどを中国は買い叩いて購入し、一部は欧州に再輸出していると見られるなど、欧米の対ロシア経済制裁を中国はうまく活用している。

 ウクライナ東部などでの住民投票を欧米が「偽り」と非難するのは、投票が公正に行われたのか確認できないからだ。クリミア半島のロシアへの編入に賛成が9割以上だったという2014年の住民投票をG7は、正当性がないと認めていない。また、ウクライナ憲法では領土変更には国民投票を要することになっていることも、クリミアにおける住民投票の合法性を疑わせている。

 独立国家内の住民が独自に地域の独立を達成したのが、国連の暫定統治下にあったコソボだ。2008年にコソボ議会が独立を宣言し、米やEU諸国などが国家承認した。当時、プーチン大統領は「米欧が独立を承認したコソボとクリミアは全く同じ状況にある」とし、米欧が後押しした2008年のコソボ独立を引き合いに出してクリミア編入を正当化した。

 コソボで多数派のアルバニア系と対立するセルビア系住民が2012年にコソボ政府を認めるかを問う住民投票を行い、99.74%が「認めない」と答えたが、欧米などは無視した。住民投票の結果は「葵の御紋」ではなく、各国はそれぞれに支持したり支持しなかったり様々だ。つまり、自国の政策に好都合な住民投票の結果は支持するが、不都合ならば無視する。

 だから例えば、スコットランドの独立について「どちらでもいい」と各国は中立を保ち、住民投票を見守るだけにとどめる。もし、中国のウイグルやチベットで独立の賛否を問う住民選挙が行われることがあれば、米ロをはじめ各国は活発に公式・非公式に介入するだろう。中国の弱体化が自国にとって有利か不利かを各国は真剣に考える。

2022年9月24日土曜日

つけ足し主義

  ロシアや中国は最近、民主主義や自由など欧米の価値観を受け入れることへの反発を隠さなくなった。ロシアや中国には独自の歴史的に培われた価値観があり、それを優先すべきであるとする。もちろん、そこには民主主義や自由など欧米の価値観を受け入れたなら、現在の政治体制が揺らぎ、独裁的な権力の維持が難しくなるという現実がある。

 日本は民主主義や自由など欧米の価値観を1945年以来、社会の基本として受け入れた。日本にも独自の歴史的に培われた価値観があるのだが、それと欧米の価値観は激しく反発し合うことはなく、かといって欧米の価値観ですっかり日本社会が塗り替えられたというわけでもなく、日本独自の価値観と欧米の価値観はうまく「棲み分け」ているように見える。

 日本と現在のロシアや中国を比べると、ロシアや中国の独自の価値観のほうが日本の独自の価値観より強固なように見える。だが、欧米の価値観を受け入れながら揺るがない日本の価値観のほうが強固であるかもしれない。あるいは、政治制度だけに欧米の価値観を入れ、そのほかは独自の価値観を維持した日本の歴史的な、ある種の成熟の成せることであったかもしれない。

 外国からの価値や制度の導入について、日本は積み重ね主義、つけ足し主義だと加藤周一氏は論じた(「日本文化の特殊と普遍」=渡辺守章氏との対談、1980年。『加藤周一対話集①』所収)。関連する個所を以下引用する。

 ・日本で「能・狂言と初期の歌舞伎があるところに18世紀ころから人形劇が出てくる。ところが演じられる場所は移るにしても人形劇によって能・狂言が駆逐されることはない。前からあるものに新しいものをつけ足していくわけです。歌舞伎でも近松のころの浄瑠璃とは違った形の忠臣蔵などが加わってくる。さらに時代が下ると新劇まででて来て、いまや能もあれば人形劇もある、歌舞伎もやっていれば、新劇や前衛演劇もやっているという事態になった」

 ・「どんどん足していって、何にも消えない、一度できたものはね」

 ・「こういうことは、いろんな芸術のジャンルでも見られる。つけ足し主義、積み重ね主義であって、決して入れ替え主義じゃないが、もっと根本的には、価値の体系が入れ替わらないということだ。前の価値体系に新しい価値が加わって、価値が重層的になるだけだ。

 ・日本にも大きな制度上の断絶はあった。たとえば明治維新とか1945年。しかしそのたびに、新しい価値体系によって支えられた新しい制度が、古い価値体系によって支えられた古い制度に入れ替わったというんじゃない。制度は変わるかもしれないが、価値は重なっていくことがある。

 ・このことは、外国からの価値や制度の導入を容易にする。新しい制度を入れるときに同時に新しい価値も入れると、古いものとの間に対決が起こって、どちらかを拒否せざるを得なくなる。ヨーロッパがそうだ。つけ足し主義で、足りないところを外から入れると平和裡に導入が行われる。中国では近代化がどうして遅れたか。近代化すると、近代的な価値体系と制度が古いものと対決して血を流すようになるからだ」

 ・中国では近代的な価値体体系と制度が「いったん入ってくると徹底的に入ってきて、以前のものがずるずると生きのびることはない。中国型とヨーロッパ型が似ていて、日本型がその点では違う」

 日本が1945年以来、欧米の価値観を政治制度に受け入れたのは、明治以来、欧米の法体系、学問、文化などを積極的に受け入れて来たという下地があったからだろう。ロシアや中国には独力で近代化(欧米化)を実現できなかった過去があり、それが欧米の価値観を受け入れることへの反発につながっているのかもしれない。

2022年9月21日水曜日

国旗の意味

 米国の国旗である星条旗は、左上にある白星が州の数(現在は50)を示し、赤白13本の横帯は独立当初の13州を示す。人々は星条旗に向かって右手を胸に当て「忠誠の誓い」を唱えることが慣習となった。誓いの文言は「私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います」などと訳される。

 星条旗は米国の国家統合の理念を示すものであり、米国の人々の自由と正義の確保と分割せずに統一を保つこと、さらに共和国であることを人々が星条旗に向かって誓う。つまり、星条旗は米国の自由と正義と統一と共和国の象徴であり、単なる国家の象徴ではない。国家形成の理念は国により様々だが、何らかの理念を国旗で表現していることが多い。

 フランス国旗は青・白・赤の三色旗(トリコロール)で「自由・平等・博愛」を表し、イタリア国旗は緑・白・赤で「国土と自由、雪と正義や平等、愛国者の血と情熱や博愛」を表すとされる。ドイツ国旗は3色で横分割され、黒・赤・黄(金)は「勤勉・情熱・名誉」を表し、オランダ国旗も横三分割で、赤・白・青は「国民の勇気、神への信仰心、祖国への忠誠心」を表すとされる。

 ロシア国旗も横三分割で、白・青・赤は「高貴と率直と白ロシア人、名誉と純潔性と小ロシア人、愛と勇気と大ロシア人」を表す。ソ連時代には「鎌と槌の赤旗」が国旗だったが、ロシア連邦の成立で帝国時代の「白・青・赤」の三色旗が復活した。ちなみにソ連の国旗の鎌は労働者階級、槌は農民、赤旗は社会主義や共産主義を表すとされる。

 中国国旗は「五星紅旗」と呼ばれ、赤は共産主義や革命、大きな星は中国共産党、小さな4星は労働者、農民、知識人、愛国的資本家を表す。イギリス国旗は、イングランド・スコットランド・アイルランドそれぞれの十字架を組み合わせたもので連合王国であることを表す。バングラデシュ国旗は緑地に赤丸で、緑は国の活力と若さと国土、赤丸は太陽と独立のために流された血を象徴する。

 北欧のフィンランドの国旗は白地に青の十字架で、青は湖沼と澄んだ空、白は清らかな雪を象徴し、スウェーデン国旗は青地に黄の十字架で、青は湖、黄は黄金または輝く太陽を象徴し、ノルウェー国旗は赤字に白と青の十字架で、赤は情熱、青は海と国土を表すとされる。3国に共通するのは旧宗主国デンマークの国旗をベースにしていること。デンマーク国旗は赤字に白の十字架で、赤は祖国愛、白はキリスト教への信仰を表し、世界最古の国旗ともされる。

 日本国旗は、中央の赤丸が太陽、紅白の色がめでたさを表すとの解釈が多いようだが、公式な説明はない。日本の国家形成に理念があったなら、日の丸に何らかの意味が付与されていたのだろうが、明治維新に現代でも通用する普遍的な価値観(理念)は乏しく、国旗として法制化する時にも、何らかの理念を国旗で象徴させようとの試みはなかった。理念なき国家には理念なき国旗がふさわしい。

2022年9月17日土曜日

個別と全体の混同

 SNSには大量の書き込みが流れ続けている。発信者は企業や団体なども多くなったが、おそらく大半は個人によるものだろう。個人によって発信された書き込みは個人の見解を示すもので、個別の事例であり、社会の全体的な傾向を示すものではない。ある個人の見解を一般的な事例だと見なすのは適当ではないだろう。

 SNS上の個人の書き込みを社会の傾向や世論を現すものとして、引用して論じる文章が珍しくない。それらは自説を都合よく補強する材料としてSNS上の個人の書き込みを利用するのだが、報道機関の記事にもSNS上の個人の書き込みを引用して記事の趣旨を補強している例がある。以前なら人々に取材して個別の見解を拾ったが、取材の手間を省いてSNSを「活用」して記事を仕上げていると見える。

 ある個人の書き込みが社会全体の傾向を示すと判断するためには、その見解が社会の多数派であることや、少なくとも過半数をその見解が代表していることを示す必要がある。統計的な処理が欠かせないのだが、手間を省くために安易にSNS上の書き込みを引用するのだから、そんな手間をかけるはずもない。

 個別の見解と世論とされる見解は、一致することもあれば一致しないこともある。SNS上の書き込みを引用する場合には、個別の見解か世論を代表する見解かを区別する必要があるが、そこらを曖昧にすることでSNS上の書き込みの安易な引用は成立する。個別と全体をうっかり混同すると、歪んだ認識を持つことにつながりやすい。

 よく見かけるのは、中国や韓国などの反日的な雰囲気を紹介する文章や記事に、中国や韓国における反日的なSNS上のコメントを引用することだ。それらのコメントが一般的なものか少数なのかを読み手が判断することは困難で、反日的な雰囲気が中国や韓国の社会に蔓延しているなどと受け止めたりする。

 また、SNSに流れる大量の書き込みは、書き手の素性の判別が困難なことが多い。誰とも分からぬコメントに対して一生懸命に批判を返す書き込みも珍しくないが、SNSという空間だから可能になる現象だ。さらに、外国勢力が日本の世論の分断、混乱、不一致を拡大する目的で日本国内の個人を装っている可能性もあり、意図的に「ひどい」書き込みで荒らしている可能性がある。匿名性は武器になる。

 個人の見解の安易な活用は、テレビのニュース映像における街角の人々のコメントの利用にも見られる。それらのコメントも個人の見解であり、世論を示すものとは限らないが、ニュース映像に組み込まれると、社会の代表的な反応を取材したかのような印象を与える。放映前に編集作業が行われるので、視聴者が特定の方向に誘導される可能性も否定できない。個人の感想を紹介して、それが全体の傾向を現すものであると装うことは以前の通販番組などで使われた手法だが、現在は、個人の見解であると明記しなければならないと法規制された。

2022年9月14日水曜日

人生はジグソーパズル

  ある友人は「人生はジグソーパズルだ」と主張する。「1日を生きると、その日のピースが出来あがる。毎日の様々な色をした膨大なピースが組み合わされて、大きな絵となる。その絵は、その人の人生が描かれた作品だ」とする。生きている間は毎日、ピースが加え続けられ、死とともに個人のジグソーパズルは完成すると言う。

 友人の説によると、ピースは正方形の形だが、色合いは人によって日によって多彩に変化し、同じものは2つとなく、大きさは人によって日によって異なり、大小の差は大きいという。何か大きな出来事があったり、印象に残る何かがあった日のピースは大きくなり、平穏な1日で、すぐに忘れられるような日のピースは小さい。

 何も起きず単調な毎日の繰り返しであっても、ピースは同じ色にはならない。天候は変化し、季節も変化するので人が見る風景は都会であっても毎日変化しており、日本や世界で様々な出来事が毎日報じられ、それらの情報を人は様々に受け取り、関心を持ったり記憶するので、その日のピースの色合いは変わってくる。

 完成したジグソーパズルは人によって多彩な形になる。全体が長方形や正方形など規則性がある形になることはほぼなく、ある部分は突き出し、ある部分はへこむなど人の数だけ形が変化する。大小様々なピースが連なり、外周は凸凹とした線の不規則なジグソーパズルが出来あがる。同じ形がないのは、同じ人生を送る人がいないためだ。

 生まれた日にその人の最初の1つのピースが出来あがり、その後は毎日、1つずつピースが加わる。ピースは正方形なので、形成されつつあるジグソーパズルのどこに加えられてもよいが、どこにピースが付け加えられるかは人によって日によって異なる。同じような色のピースでも接続する場所が異なれば絵の表現は変わってくる。

 「あの時に、ああすれば自分の人生は変わっていた」などと人は回顧して夢想するが、毎日のピースが加えられて形成され続けるジグソーパズルから過去のピースを取り外すことはできない。最初のピースが置かれて、完成形がどうなるか無限の可能性の中から人は毎日、1つずつピースを加えて、それぞれのジグソーパズルを完成させるのだ。

 最後の日のピースが加えられて完成する人生のジグソーパズル。「俺のジグソーパズルがどんなものか見てみたいな。上下左右にバランスが取れた人生ではなかったから、俺のジグソーパズルはきっと歪な形だ」と友人。「好きなことだけやって生きてきたように他人には見えるだろうけど、俺なりに筋を通して生きてきたんだから、色調は整っているはずだ」と言う。

2022年9月10日土曜日

人権侵害の実態

 新疆ウイグル自治区で中国当局が、ウイグル人らに対する多様かつ過酷な人権侵害を行っているとの情報は以前から流れていたが、外国人の立ち入りが厳しく規制されていることもあって実態は隠蔽されていた。外国からの批判に中国は激しく反発するが、「どこでも自由に見てください」とは決して言わなかった。それは、自由に見られては都合が悪い実態があるからだろう。

 アムネスティは昨年公表した報告書で、中国政府がウイグル族やカザフ族などイスラム教徒の少数民族に対し、集団拘束や監視、拷問をしていたと批判した。拘束されていた55人への聞き取り調査を基にした報告書によると、▽新彊ウイグル自治区全域に精巧な監視体制を敷いている、▽実態は強制収容所である巨大な「再教育」施設群がある(施設内では、組織的に虐待や暴力行為が行われ、収容された人は厳格に管理され、宗教色を排除した単一の中国人国家の考え方と共産党の理念を徹底的に植えつけられる)。

 ▽2017年から数十万人が強制収容所に入れられ、数十万人が刑務所に送られた、▽取り調べでは、鉄製の椅子に座らされて手足を拘束され、頭部にフードをかけられる、▽生体認証データや医療データを取られた後、強制収容所送りになる、▽収容所内での最初の数週間から数カ月間は、一切の私語は認められず、監房内では常に座位を強いられる。

 ▽拷問では、殴打、電気ショック、独居拘禁、食事・水・睡眠のはく奪、器具を使った拘束、極寒の部屋での隔離などが行われる(丸1年も手かせ足かせを付けられていた人、拷問を受けている人を見せつけられた人、仲間の目の前で椅子に拘束されたまま尿や便をもらすこと三日三晩の人などもいたという)。

 ▽解放された後も少なくとも数カ月間は常に機器や人による監視を受ける(当局員に自宅に上がり込まれ、寝泊まりまでされて調べられた人もいる)、▽拘束後解放された人たちは移動の自由を厳しく制限される(至る所にある検問所の警官が街角を見回り、監視する)、▽イスラム教の宗教的・文化的慣習は過激主義的とみなされ、拘束の対象になる(イスラム教式のあいさつは許されず、コーラン、礼拝用マットなどの物品を所持することも事実上禁止)、▽モスクや墓跡などの宗教的・文化的遺産が自治区全域で取り壊された。

 こうした人権侵害は国連人権高等弁務官事務所が8月31日に初めて発表した報告書でも指摘された。報告書は「テロや過激派対策の名目で拷問や虐待など深刻な人権侵害が実施されている」とし、世界の企業に対して人権侵害を助長していないか再点検するよう求め、ウイグル族らの人々に対する人権侵害は「国際犯罪、特に人道に対する罪に当たる可能性がある」とした。

 中国は報告書の発表に反対を表明し、「反中国勢力が捏造した偽情報や虚偽に基づき、中国に非があることを前提にしている」「中国の法律や政策を歪曲し、誹謗中傷している」とした。だが中国の主張に説得力は希薄だ。それは中国が実態を隠しているとの疑惑が消えないからで、疑惑を晴らすには新疆ウイグル自治区において外国人の自由な検証を実現するしかない。それができない現状が中国の主張の信憑性を傷つけている。

2022年9月7日水曜日

カゼ薬で治す

  第七波に襲われた日本では連日、10万〜20万人台の新規感染者が出ていた。発熱外来を訪れる人は発熱が38度以上と高く、けん怠感を訴える人が多いと報じられた一方、感染者には軽症や無症状が多いともされ、陰性証明を取得する目的で検査を受けに行って陽性となって感染に気がつく人も珍しくないとか。

 感染者に占める軽症や無症状の人の割合は詳らかではないが、8割ぐらいとの推測がある(重症化や死亡者の割合は「高齢者は高く、若者は低い傾向」で、オミクロン株が流行の主体の2022年1〜2月には「重症化した人の割合は、50歳代以下で0.03%、60歳代以上で2.49%。死亡した人の割合は50歳代以下で0.01%、60歳代以上で1.99%」=厚労省サイト)。だが、第七波では連日、200〜300人台の死者数となっている。

 第七波の前の6月1日には日本の累計感染者数が約887万6千人、死者数は約30600人で死者の割合は0.0034%、7月1日には約935万5千人と約31300人で0.0033%だった。第七波が始まっていた8月1日には約1293万5千人と約32700人で0.0025%、同10日には約1490万2千人と約34300人で0.0023%、同20日には約1697万9千人と約36800人で0.0021%、同30日には約1879万7千人と約39600人で0.0021%。

 第七波が始まって死者数は大幅に増えたが、それ以上に新規感染者の増加数が大幅なので、累計感染者数に対する死者数の割合は低下している。とはいえ、絶対数としての死者数や重症者数が増えているので、医療体制にかかる負荷は増える一方だ。欧米の感染爆発を見て、日本でもいずれ感染爆発が起きると予想して医療体制の整備を急ぐこともできただろうに、厚労省の動きは鈍かった。

 ところで、仕事や海外旅行などで陰性証明を必要とする人はPCR検査などを受けるだろうが、陰性証明が必要ないなら無症状の人は検査を受けないだろう。軽症なら、感染を懸念する人は検査を受けるかもしれないが、「カゼか」と思った人は従来のカゼ対策で済ますかもしれない。PCR検査などを受けに出向かない人々は、新型コロナウイルスの感染者だったとしても感染者にはカウントされない。

 ちょっとノドが痛むとか、少しセキが出るとか、少し熱っぽいなどを感じた日が過去に何回もあったという友人はそのたびに市販のカゼ薬で対応したという。新型コロナウイルス感染を疑わなかったのかと聞くと友人は、「その疑いは頭の片隅にあったが、症状は重くなかったので、カゼ薬を呑んで様子を見ることにした」と言い、「カゼ薬で症状が治った」から「まあ、いいか」と済ました。

 友人が感染者だったかどうかは分からないが、ごく軽症の感染者であったとすればカゼ薬で対応することも可能だと示したことになる。市販のカゼ薬は、諸症状を緩和させるための解熱・鎮痛薬や抗ヒスタミン剤、鎮咳・去痰剤など複数の有効成分が配合されているが、カゼそのものを治す薬ではない。だが、諸症状をカゼ薬でやわらげ、治すことができるなら、新型コロナウイルスの初期症状か?と疑う人には市販のカゼ薬を服用する対応法もありそうだ(ただし、重症化する兆候があれば、すぐに医師に相談すること)。

2022年9月3日土曜日

噴き出るもの

 駅弁の「かにめし」で知られる長万部町に名物が一つ加わった。飯生神社の敷地内の松林の中で8月8日から、水が約30mの高さまで噴き出した。噴き出す勢いは衰えず、3週間以上も噴き出し続けている。噴き出したのは温泉だとみられたが、天然ガスが地下水とともに噴き出したとの見方もあった。見物人が連日集まってきているが、町は近くへの立ち入りを禁止し、火気厳禁だと注意喚起している。

 公表された検査機関の分析結果によると、「人体に影響を及ぼす有害物質は検出されておらず、低温泉水と推定される」(長万部町サイト。22日)。水温は21.5℃のナトリウム一塩化物・炭酸水素塩泉で、ヒ素が0.013mg/L検出されたが「温泉ではもっと高い値で検出されることが一般的で、人体に害となる数値ではない」とし、「食塩泉であることから、塩害(金属類が錆びる)の問題、また、鉄、マンガンが高いことから茶〜黒色の着色の問題が起こる可能性がある 」とした。

 分析結果に天然ガスについての記述はなかった。天然ガスの成分はメタン(CH4)が約9割を占め、ほかにエタン、プロパンなど複数の炭素化合物や窒素、二酸化炭素、硫化水素、硫黄酸化物などを含む。検査機関が分析したのは採水された噴出水なので、公表された分析結果には気体(ガス)に関する記述はない。付近で検出されたという可燃性ガスについては別の調査が必要だろう。

 30mもの高さまで水柱が噴き出し続けたことは、相当の圧力が地中に存在することを示す。マグマの上昇などの兆候は報じられていないので、可能性としては①地中に溜まり続けた天然ガスの圧力が高まり地下水とともに噴出した、②温泉水が地中で熱せられて沸騰した。水柱の噴出が続いているので、地中の圧力は継続しているとともに、何らかの圧力が供給され続けていることになる。

 地中で温泉水が沸騰して噴き出している実例がある。長万部町から噴火湾沿いに南東に車で1時間半くらい行ったところに鹿部町があり、間歇泉がある。大正13年に温泉を掘っている時に偶然発見されたという間歇泉は「自然の力だけで約100度Cの温泉を一定間隔で噴き上げ続け」「1回に噴き上がる量は500ℓほどで、約10〜15分ごとに約15m以上の高さまで噴き上が」る(間歇泉公園リーフレット)。

 噴き上がる仕組みは同リーフレットによると、①間歇泉の温泉は地面から26m下から湧き出ている。113度Cの温泉がゆっくりと上がってくるが、パイプの深さが26mもあるので、2.6気圧の水圧がかかり、沸騰しない、②100度Cを超える温泉が地表近くの水圧の低いところまで上がってくると、沸騰し始める。

 ③沸騰でできた気泡はパイプの中の水圧を下げるので、どんどん沸騰し、温泉の湧き出す量も増える。沸騰が激しく起こると、温泉が勢いよく、空高く噴き上がる、④しばらく噴き上がると、噴き出す勢いに湧き出す温泉の量が追いつかなくなり、水位が下がる。このとき、温泉の温度も100度C以下に冷やされ、パイプ上部に溜まるので沸騰は終わる。その後、また温泉がゆっくりと上がってきて沸騰し、噴き出すことが繰り返される。

 長万部町の水柱は噴き出し続けているので鹿部町の間歇泉とは異なるメカニズムによるものだろうが、自然の驚異的なパワーを見せつけることでは共通する。長万部町を含め噴火湾の地中に膨大な天然ガスが埋蔵されており、その開発が今回の水柱をきっかけに進んで、日本は天然ガスを自給できるようになりましたーというのは夢物語かな。