2022年10月29日土曜日

個人独裁と主権在民

 中国で習近平氏が共産党の総書記を3期目も務めて続投することが決定し、党の最高指導部(7人の政治局常務委員)は側近で固められた。憲法よりも優先する党規約は改正されて、習近平氏の絶対的な地位と権威を明記した。習近平氏の個人独裁が中国共産党において制度化された(共産党が独裁する中国では、共産党を支配する人が国家を支配する)。

 同じように個人独裁を制度化したのがプーチン氏だ。ロシア連邦憲法は2020年に大幅に改正され、▽現職大統領の任期制限を撤廃▽国防・国家安全保障・内務・法務・外務などの大臣の任免は大統領が行う▽大統領に首相の解任権▽大統領に検察官の任免権限▽大統領は退任後も刑事責任や行政責任は免責ーなどとなり、プーチン大統領は強力な権力を手に入れると共に、2036年まで大統領を務めることが可能になった。

 共産党の独裁支配だったソ連の継承国であるロシアは、大統領制を導入し、議会制度などを整え、民主主義体制に移行した。だが、主権者である人々はプーチン氏を長期にわたって権力者の位置に選出し続け、ついにはプーチン氏の個人独裁体制が確立することを許した。主権者である人々が、主権をプーチン氏に委ねたとも、人々が主権を放棄したとも見える(プーチン氏が主権を強奪したのだが)。

 個人独裁は、都合よく改正した憲法や独裁政党の党規約の改正などにより制度的には正当化される。だが実際は、反対者などを厳しく抑えこみ、異論を排除することが必要となり、国家権力の暴力が自国民に対して行使されることで独裁体制は維持される。独裁する権力にとって、独裁していることが正統性の証となる(権力を維持するためには、手段を選ばすに独裁を続けるしかない)。

 ソ連が崩壊し、東欧諸国の社会主義政権が続々と倒れて、ロシアや中国が欧米に比べて弱体だった頃、世界は政治的には民主主義、経済的には資本主義に塗り替えられていくと見えた。だが、民主主義はロシアに根付かなかった。経済的にもロシアや中国では独裁権力による経済統制となった。

 個人独裁のロシアと中国に対して、民主主義国(自由選挙により政権交代が行われる国)の欧米諸国は厳しい目を向けている。だが、欧米における民主主義は、国内での激しい対立や分断が続いたり、ポピュリストとも目される人物に人気が集まったりと、理念としての民主主義が現実にはうまく機能しなくなっているとの懸念が出てきたりし、制度としての民主主義の再構築が必要になっている。

 プーチン氏も習近平氏も、人々からの支持が全くなければ個人独裁までたどり着けなかっただろう。なぜ人々は強い権力者を待望したり、好んだりするのか。強い権力者に人々がさまざまな思いを投影し、それが支持となるのかもしれない。個人独裁のロシアと中国が今後、世界にどのような影響を与えるのかは不明だが、権力者の任期を強く制限することが必要であることをロシアと中国の個人独裁は示している。

2022年10月26日水曜日

函館周辺はバス旅の宝庫

 通勤や通学などに利用される路線バスだが、路線バスを乗り継いで長距離旅行したり、都市内や近郊などを小旅行したりするテレビ番組が増えた。公共交通機関として人々に身近な路線バスが、非日常としての旅行の手段にもなると周知させた功績は大きいが、いざ路線バスで旅行しようとすると、路線図や時刻表を手に行動予定を事前に決めることになる。

 テレビ番組のようにタレントが行き当たりばったりで行動すると、路線によっては乗り継ぎバスの待ち時間が長すぎたりするので、食事や観光、日帰り入浴などを組み合わせて旅行のルートを事前に決めるのがいい。ただし、運行予定時刻よりも遅れるのが路線バスの常だが、ほぼ時刻表通りに来ることもあるので、時間に余裕を持たせつつ時刻表に基づいて移動スケジュールは立てたほうがいい。

 列車を使った旅番組は以前から多かったが、路線バスを使って移動するという枠組みを認知させて、旅番組の新機軸を打ち出し、バス旅を周知させたテレビ番組。だが、列車なら車内にトイレがあることが多いが、路線バスにはトイレがないので、乗車して移動する時間は2時間程度が限度だろう。適当に乗り継いで、あちこちで観光したり食事したりするのがバス旅の魅力か。

 都市内に限定するバス旅なら1日乗車券を利用するのがいい。例えば、東京なら23区内の都営バスを1日に何回も乗車できる乗車券があり、休日などに「どこかに行きたい」と急に思い立った時に、予定を立てていなくとも自由に動き回ることができる。のんびりと眺める路線バスの車窓に映る風景は、旅先の風景だと思って熱心に眺めると意外な発見があったりする。

 長距離でも中距離でも市内に限ってもバス旅を楽しむことができるのが函館市だ。函館バスの路線網が市街地には密に張り巡らされていて、観光名所も含め各所に移動でき、食事や日帰り温泉(函館市内には日帰り温泉施設が多い)を楽しむことができる。市街地のバス移動には「市電・函館バス1日乗車券」が便利だ。市街地のバス路線に加え、函館市電の全線と函館山登山バスを利用することができる。

 函館バスの路線網は渡島半島をカバーしており、北は長万部、東は恵山御崎や鹿部、西は江差、南は松前に行くことができる。恵山御崎に行く路線バスは海岸沿いの道をくねくねと走り、太平洋の荒波と活火山である恵山の荒々しい風景を見せ、山中を走って川汲温泉経由で南茅部を経由して鹿部に行く路線では、間歇泉と柔らかい泉質の鹿部温泉を楽しむことができる。

 函館から長万部へ行く路線バスは駒ヶ岳を横目に見て国道5号戦を北上して噴火湾沿いを走り、江差に行く路線バスは鶉温泉を経由して日本海に至り、松前に行く路線バスは津軽海峡沿いに木古内や福島町(千代の富士ら2横綱の出身地)などを経由して春の桜で名高い松前城に至る。函館に接続する鉄道はJR函館本線といさりび鉄道(旧江差線)があるだけで鉄道旅のルートは少ないが、路線バスなら市街地を巡る細切れ移動から中長距離まで多彩な旅を組むことができる。

2022年10月22日土曜日

相手に非があるとの論法

 自分の行動が批判されたときに、自分の行動を正当化する手っ取り早い方法は、相手が先に何かを仕掛け、それに対応しただけだとして相手に非があると主張することである。相手が反論したなら対応は、①客観的に検証する、②頑に相手の非を主張し続けるーに分かれるが、自分が不利になる可能性があるので客観的な検証は歓迎されなかったりする。

 偶発的な争いなら双方が主張をぶつけ合って決着がつかないまま別れることもあるが、知り合い同士などでは禍根が残り、その禍根が新たな対立につながったりする。禍根が積み重なると相手の非を双方がいくらでも挙げることができるようになって、対立構造が続いていくことにもなる。こうした「相手に非がある」論法は国家も用いる。

 ウクライナ侵攻を始めたロシアのプーチン大統領はその理由を、第一にNATOの東方拡大がロシアの現実的な脅威になっている、第二に親ロシア派組織が占拠しているウクライナ東部でロシア系住民をウクライナ軍の攻撃から守るーなどとしている。西側諸国やウクライナ政府に非があるから、ロシアやロシア系住民を守るために軍事行動を始めたとする。

 侵攻直前の演説でプーチン氏は「西側諸国の無責任な政治家たちが我が国に対し、露骨に無遠慮に作り出している根源的な脅威」があるとし、「世界覇権を求める者たちは公然と平然と、何の根拠もなく私たちロシアを敵国と呼ぶ」、ウクライナに「私たちに敵対的な『反ロシア』が作られようとしている」「我が国にとっては、それは生死を分ける問題であり、民族としての歴史的な未来に関わる問題である」「NATO主要諸国は目的を達成するために、ウクライナの極右民族主義者やネオナチをあらゆる面で支援している」などの文言を並べて侵攻を正当化した。

 ミサイル発射を繰り返す北朝鮮は、米韓が軍事演習を行ったことや米軍が空母を日本海に展開したことなどへの対応だと主張した。北朝鮮軍は「朝鮮半島の軍事的緊張を激化させる敵のいかなる挑発も絶対に認めず、徹底的かつ圧倒的な軍事的対応措置を講じる」とし、警告の目的でミサイルを発射したのであり、緊張を高めたのは米韓日の側だとした。

 軍事が絡んで国家が「相手に非がある」論法を用いる時、そうした主張で説得しようとする対象は自国民だ。そうした主張に相手国が動かされることはないだろうが、相手に非があると説くことで自国民の感情を誘導し、政権への求心力を高めるとともに相手側への敵がい心を強める。戦時体制を構築することは国家権力にとって統治に都合がいい。

 個人でも国家でも「相手に非がある」論法は、話し合いなどによる和解よりも対立を続けることを優先するために用いられる。だから「やられたから、やり返す」「言われたから、言い返す」などの連鎖が続き、こうした連鎖の中では少しでも相手への配慮を見せることは禁じ手となる。「相手に非がある」論法を自ら修正することは、自己の正当性が揺らぐことでもある。

2022年10月19日水曜日

進化と雑種

  広島市で、特別天然記念物オオサンショウウオと中国原産の外来種チュウゴクオオサンショウウオの交雑個体が、今年5月に初めて見つかってから既に数十個体が確認されていると報じられた。交雑が進むと、日本固有のオオサンショウウオが絶滅するおそれがあると懸念され、同市は交雑個体を捕獲・隔離して飼育しているが、今後も交雑個体の確認は増えると見られている。

 同様の交雑個体は京都府や三重県などでも確認されているという。報道によると、オオサンショウウオは寿命が数十年と長く、飼育には広いスペースに加え餌代や水道代なども要する。交雑個体を隔離するのは日本固有のオオサンショウウオとの交配が進まないようにするためだが、三重県名張市での交雑個体の飼育数は約150匹になっていて、交雑個体を駆除できるように特定外来生物に指定するよう求める意見が出ているという。

 交雑とは「 遺伝子型の異なる生物の2個体間で交配すること。結果として生じる新個体を雑種という。異系統、異品種、異種、異属などの間で行われ、品種改良として人工的に利用される」(日本国語大辞典)で、雑種が交雑個体。外来動物との交雑個体は現在では排除や駆除の対象になり、特定外来生物に指定されると殺処分もある(人間ならば交雑個体は社会に受け入れられる?)。

 地球史における生命の歴史を考えると、全ての生命は太古から様々な遺伝子の交雑の結果で進化してきたのであり、「純粋」な生命は存在しない。交雑個体の概念は「純粋」な個体が存在するとの考えによって成立するものだ。その「純粋」とは、日本固有種のように特定の地域にのみ生息する生物種を遺伝子的に固定させて保護するための発想だ(血筋の純粋さという虚構を日本人は批判しにくいか?)。

 この「純粋」という考えを人間に適用したのが、アーリア人の卓越を主張してユダヤ人の大虐殺を行ったナチスだ。現在でも、白人の優越を主張する米国などの差別主義者らに「純粋」を重んじる思考は受け継がれている。現生人類はアフリカで誕生して世界に広がったとされ、「純粋」な人間は存在しない。差別主義者らの主張する「純粋」は近代〜現代を基準にした思い込みでしかない。

 外来種や交雑個体の殺処分を正当化する考えに欠如するのは、生命の尊重である。日本の固有種は保護されて細々と生き延び、大量の外来種や交雑個体が駆除・殺処分される状況は「日本の自然が守られて、よかったね」と喜ぶべきものではないだろう。皮肉にも、中国産のトキの繁殖が成功したとしても日本の固有種の復活ではないのだが、外来種の中国トキに対する批判は見えない。

 雑種がなぜ悪い? 交雑個体も自然界においては固有種などと同列に扱われるべき生命であろう。さらに、様々な遺伝子が混じり合うことにより様々な雑種(交雑個体)が誕生し、その繰り返しが生命の進化につながったことを想起するなら、過剰な現在の固有種の保護と外来種・交雑個体の駆除は再考を要する。特別天然記念物オオサンショウウオと、食用として人為的に持ち込まれた中国原産のチュウゴクオオサンショウウオの交雑個体はオオサンショウウオの進化の微小な1段階かもしれない。

2022年10月15日土曜日

駒ヶ岳という名称

 全国に駒ヶ岳という名称の山は多数ある。山の形が馬を連想させたので名付けられたのだろうが、各地で人々が同じような連想をしたのは、農耕や運搬などで馬が重要な役割を務め、身近な存在だったからだ。日常から馬が消えた現代人が山を見ても馬を連想しにくいだろうが、かつて馬が人々の大切なパートナーであった時代を想像することはできよう。

 北海道にも駒ヶ岳がある。渡島半島にある駒ヶ岳は標高1131mの活火山だ。七飯大沼国際観光コンベンション協会HPによると、▽かつては富士山のような円錐形の山容をしていたが、5万年から3万年前の大噴火により山頂部分が崩れ落ちた、▽1640年の大噴火により剣ヶ峰、砂原岳など複数の急峻な頂となだらかな裾野を合わせ持つ現在の姿になった、▽駒ヶ岳は見る位置によって様々な姿を見せ、四季折々の景色を趣の異なる姿で楽しむことができる。

 また、大沼国定公園情報発信システム運営協議会HPによると、▽駒ヶ岳はかつて富士山のような円錐形の1700mほどの火山だった、▽1640年(寛永17)の大噴火によって山頂部が崩壊し、火口原を取り巻く外輪山として主峰の剣ケ峯(1131m)、砂原岳(1113m)、隅田盛(892m)、稜線の駒ノ背(約900m)、馬ノ背(約850m)が形成された、▽1856年(安政3)の大噴火、1929年(昭4)の大噴火、1942年(昭17)に中噴火、1996年(平8)と1998年(平10)に小噴火を起こした。

 ▽駒ヶ岳は、くりかえし噴火した溶岩と火砕岩が交互に重なってできた円錐形火山(成層火山)、▽東方と南方山麓には、1640年の大噴火で火山体の一部が崩壊し、高速でくずれ落ちて堆積した(岩屑なだれ堆積物)。大小さまざまな丘が散在する「流れ山」地形を形成した、▽駒ヶ岳南麓の大沼や小沼は、この岩屑なだれが谷を埋め、河川をせき止めたりして成りたったもの、▽大沼や小沼の湖中に点在する大小の島々も、数度の大噴火の際の岩屑なだれがつくつた流れ山。大沼周辺一帯には多くの流れ山が分布している。

 噴火を繰り返す駒ヶ岳は、見る方向によって異なる山容となる。大沼公園など南側から見ると、平べったい台形で左上部に主峰の剣ケ峯が少し突き出ている。なだらかな山裾のラインが途中で途切れているように見え、かつての円錐型の姿を想像させる。東側や北側から見ると、山頂がえぐられたように見え、繰り返す噴火で形成された荒涼とした山肌が広がる。

 駒ヶ岳は函館山の山頂からも見える。その函館山は臥牛山とも呼ばれる。臥牛とは地面に腹をつけて座り込んだ牛のことで、全国の天満宮には臥牛像が祀られている。三方を海に囲まれた横長の函館山を牛が座り込んだ姿と連想したのは、牛が身近な存在であった人々だろう。

 円錐形でもなく突き出た山頂もない横長の山の形から馬や牛の姿を昔の人々は連想した。そうした山の形から犬や猫の寝そべる姿を連想しても不思議はないのだが、人間よりはるかに大きな山の形から、人間より小さな動物ではなく馬や牛などを思いか浮かべた人々。おそらく馬や牛に対する信頼がそこには含まれていただろう。

2022年10月12日水曜日

信教の自由が盾

 20XX年、3団体に分裂していた広域指定暴力団◯△組の構成員の多くが参加して宗教法人「統一◯△教」が誕生した。◯△組を全国有数の組織にまとめ上げた四代目組長(故人)を教祖とあがめ、生前の言葉を編纂した「教え」を聖典とし、信者は「清く、正しく」生きることを掲げている。

 すでに、寺院を買い取って宗教法人の認可を得た地方が全国各地にあり、それらを統合するとともに、さらに各地で寺院を買い取って組織化し、全国的な布教を目指すという。信者は◯△組を離脱したことになっていて、各自は生業を持つとともに、「お天道様に恥じない生き方」をしなければならないそうだ。

 預貯金口座の開設ができなかったり、家や車や携帯電話の契約にも苦労するなど暴力団の構成員の権利は厳しく制約されているので、偽装離脱ではないかと疑う声もあがったが、「信教の自由を、元組員だからと奪うのか」と激しく反発され、表立っての批判の声は小さくなり、マスメディアも信教の自由には抵抗できず、統一◯△教に対する批判を控えるようになった。

 誕生から半年も過ぎると世間の関心は薄れ、統一◯△教は新興宗教の一つと認知された格好だ。実態は暴力団だろうと見る人は多いものの、「触らぬ神に祟りなし」ということで世間の関心は薄れ、マスメディアの報道も消えた。広域指定暴力団◯△組の構成員は減る一方だが、統一◯△教の信者は増え続けた。

 統一◯△教が再度、注目されたのは信者の「布教」活動の実態をリポートした雑誌の記事だった。みかじめ料を飲食店などに要求することは無くなったが信者たちは寄進を要求するようになり、宗教活動と称して資金を融通して多額のお布施を要求するヤミ金融、先祖の因縁や悪霊を払うという特別な物品の高額売りつけや高額な開運みくじなどの販売に加え、全国の寺院で墓地を拡大するとともに墓石などの販売も始めていた。

 批判が高まると統一◯△教は信教の自由を盾に反論した。指摘された活動は布教に伴うものであり、「熱心な信者による行き過ぎはあったかもしれないが、それはごく一部だ」として真面目に布教を行う信者が大半だと主張した。さらに、同様の活動は多くの既成宗教や新興宗教も行っていると指摘されると、行政は動かず、マスメディアの批判のトーンも穏やかになっていった。

 ーー信教の自由に対する批判と反社会的な行動に対する批判を混同することは間違いだが、反社会的な行動に対する批判を信教の自由に対する批判であると強弁するのも間違いである。そこの見極めが曖昧なら、統一◯△教のように宗教法人を隠れミノにしてシノギなどの経済活動を行ったり、布教と称して政治活動などを行ったりする人々は後を絶たないだろう。

2022年10月8日土曜日

ライトバード衛星

 ライトバード(LiteBIRD)は、2028年の打ち上げを目指している宇宙マイクロ波背景放射偏光観測衛星だ。月よりも遠い宇宙空間で全天精査を行い、原始重力波を検出することを計画する。もし原始重力波が検出できれば、宇宙が超高温・超高密度の火の玉状態から膨張したというビッグバン以前に、素粒子よりも小さかった宇宙が異常膨張したという「インフレーション」仮説が証明される(以下の説明はjaxaサイトなどを参照・引用した)。

 ・宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は宇宙のあらゆる方向から一様に地球に降り注いでいる電磁波。誕生から約38万年後の宇宙でやっと電磁波が自由に宇宙空間を伝わることができる(宇宙の晴れ上がり)ようになり、その頃の宇宙に満ちた電磁波が現在はCMBとして観測される。CMBの存在そのものが、ビッグバンの重要な証拠とされる。

 ・原始重力波とは、ビッグバンの前に起きたインフレーションの異常膨張で生じた重力波。重力波は超新星爆発などで生じた時空のゆがみが波として伝わる現象だが、インフレーションで生じた重量波は、天体の運動で生まれる普通の重力波と区別して原始重力波と呼ばれる。原始重力波の検出なくしてインフレーション仮説を証明することはできないとされる。

 ・CMBの偏光を観測することにより、ビッグバン以前の宇宙を探ることができる。原始重力波はインフレーションで生まれた後、晴れ上がりの時にも宇宙空間を満たしており、CMB偏光の分布に特殊な渦巻きパターンを刻印したと予想されているので、それを検出すれば、インフレーションが起きたことの証拠となる。

 ・原始重力波の検出に成功すればノーベル賞級の成果だとされ、各国が挑戦しているが、まだ検出に成功した研究チームはない。地上観測は行われているが、大気の影響による限界があり、全天観測が困難であるため、CMB偏光に特化した人工衛星による観測が必須と見られている。だが、欧米での観測計画は実現せず、日本のライトバード計画が唯一の2020年代に実現可能な衛星計画となった。

 ・インフレーションは一瞬(宇宙誕生後の1秒のマイナス36乗〜マイナス34乗という超短時間)の出来事で、素粒子よりも小さかった宇宙が異常膨張し、放出された熱エネルギーがビッグバンになったという。ビッグバン以後、宇宙の膨張とともに素粒子ができ、陽子や中性子、原子へと物質生成が進み、さらに星ができ、銀河や銀河団が形成され、やがて生物がつくられていった(インフレーションが起きる前の宇宙については、「ゆらぎ」があるだけの無だとの仮説がある)。

 宇宙は膨張を続けていることが観測されており、遡ると宇宙の全物質と全エネルギーなどが1点に集まっていて、ビッグバンという大爆発からずっと膨張を続けているというのが現在の宇宙論だ。この宇宙には始まりがあり、それが138億年前のインフレーションやビッグバンだとしたなら、空間や時間、運動なども宇宙誕生とともに誕生したことになる(存在という現象も誕生した)。

2022年10月5日水曜日

時代と世代と映画

 親から受け継いだ小さな工務店を社員50人の建設会社に成長させ、子息に社長の職を2年前に譲った友人は最近、「会社にはほとんど行かなくなった」と言う。子息が社長として成長し、「これからの時代は、あいつらが自由にやったほうがうまくいくだろう」と完全引退も視野に入れている。

 現役時代は仕事が最優先で、楽しみはカラオケと映画をたまに見ることぐらいだったという友人は、何の予定も入っていない毎日を持て余した。社長を退いた当初は、夫人の誘いもあって日本各地の観光地に旅行に出かけたそうだが、次第に出かけるのが億劫と感じるようになり、娘夫婦や友達を誘って旅行に出かける夫人を見送って、家にいることが増えた。

 映画を観に毎日出かけることができるようになったが、友人は「観たい映画がかかっていない」と映画館に行くことはほとんどない。代わりに、以前に観た映画のDVDを次々に買っていたそうだが、それが200枚を超え、適当に積んであるだけなので夫人から「片づけなさい」と厳命されたそうだ。

 邦画も洋画も新作が毎月公開されているというのに、友人は「観たい映画がかかっていない」と言う。映画が好きなのに、興味をひく新作映画がないと感じる友人。観たい映画をDVDで観て友人は満足しているが、友人の映画体験は、過去の映画体験をなぞることで止まっているといえる。

 映画は時代を反映する。最近のCGを多用した荒唐無稽のストーリーの映画にも、例えば悪役の設定などに時代の価値観が反映する。映画に現れる時代に対して、距離感や違和感などを感じる人は、その映画を素直に楽しむことは難しいだろう。若い人なら旧作の映画の時代感に馴染めず、老いた人なら新作映画の時代感についていけなかったりする。

 旧作も新作も映画なら何でも観るという映画ファンはいるだろうが、映画が時代を反映するので世代によって楽しむことができる映画が異なるとすれば、時代は変化するので、世代によって好む映画は分かれる。友人が旧作映画のDVDを見て楽しむのは、世代の制約とみなすこともできそうだ。

 アニメには興味がなく、お涙ちょうだいや恋愛ものにも興味がなく、突飛な状況設定に置かれた人々を描くだけのストーリー展開は好まず、荒唐無稽のCG多用の活劇には飽きたという友人は、「現実感があって、練られた脚本があって、役者の演技という芸の高さを見せてくれる作品がいい映画だ」という。観たい新作映画がないと言うのは当然だな。

2022年10月1日土曜日

新冷戦の姿

 ウクライナに侵攻したロシアだが、欧米から武器などの支援もあってかウクライナ軍の反撃が優勢となって、ロシア軍の劣勢が欧米メディアで報じられる。死傷者の増加で兵員が不足したのかロシアは部分動員令により30万人を徴兵して増員せざるを得ない事態に追い込まれた(実際には100万人を徴兵するとの見方もある)。

 30万人をウクライナ侵攻に投入できたとしても、ミサイルや長距離砲など遠距離からの攻撃が主体となった戦場で、兵員ばかり増やしても戦況の打開にはつながりにくいだろう。それでもロシアが兵員の増派に動くのは、ウクライナに侵攻したロシア軍の大きなダメージを修復するとともに、ウクライナ軍に対して反攻するためか。肉弾戦も辞さずとロシア軍が想定しているなら、悲惨な戦場になりそうだ。

 2月24日に砲撃や空襲などで始まったロシア軍のウクライナ侵攻の結末はまだ見えていない。ロシア軍もウクライナ軍も決定的な勝利を得られず、こう着状態になってダラダラと戦闘が続く可能性もあるが、もしロシア軍が盛り返して、ウクライナ東部から占領地を広げ、ウクライナ政府を瓦解させてウクライナ全体を併合したとすると、世界の光景はどうなるか。

 プーチン大統領は7月に、ウクライナ侵攻により「米国中心の世界秩序は根本的に壊れ、欧米は既に敗北した」と述べたという。当時のプーチン氏は勝利を確信し、ウクライナに対して「戦場でロシアに勝ちたければ試してみたらいい」と余裕を見せるとともに、「戦闘が長引くほど和平合意は困難になる」と戦闘では負けないと信じきっていたようだ。

 もしロシアがウクライナ侵攻で勝利してウクライナ政府を瓦解させたなら、欧米主導の世界秩序は揺らぎ始めるだろう。欧米は軍備支援と対ロ経済制裁などでウクライナを支えたが、その効果が限定的だったことが明らかになると、途上国の民主主義を嫌う強権的政府の多くは、すぐにロシアや中国に近づかないとしても、欧米との距離を保ち、自国の利益優先を剥き出して動くようになるだろう。

 かつての冷戦は米国とソ連による世界の分割支配だったが、そこにはイデオロギー対立という側面があった。ロシアが勝利したなら、ロシアと中国という権威主義国と欧米など民主主義国による世界の分割支配という新冷戦の構図がはっきりする。経済大国になった中国をロシアが資源面から支援するので、経済力でも欧米と中ロは互角になる(ウクライナ侵攻が終わった後に欧州はロシアの資源を限定的にしか買わないだろう)。

 冷戦と新冷戦の相違点は、第一に各国の経済体制が資本主義である、第二に国境を越す人や情報の移動が(制約はあるが)自由、第三に中ロの富裕層は欧米に資産を移している、第四に欧米などにおける中ロの情報戦が活発ーなどだ。類似点は①政治的に妥協が困難、②軍事力を常に誇示する、③中ロにおける政権の正統性が希薄(主権が独裁者にあるのだから、正統性はあると独裁者は主張するだろうが)ーなどだ。

 ただし、ロシアも中国も個人独裁の色彩が濃いので、プーチン氏や習近平氏が政治舞台から退出した後も独裁的な政治が続くかどうかは未知数だ。両国にも民主主義などの価値観を共有する人々が存在するので、集団指導体制に移行したなら、欧米との緊張緩和に動く可能性はある(プーチン氏も習近平氏も69歳。どちらかの国で個人独裁が終わって欧米と協調路線に転じれば、残った国は孤立する)。