2021年8月28日土曜日

チャーリー・ワッツ

 チャーリー・ワッツがこの世から旅立った。1941年6月2日に生まれ、2021年8月24日に死去、享年80歳。1963年1月にローリング・ストーンズに加入し、約60年を現役ドラマーとして生きた。手元にある書籍や雑誌からチャーリー・ワッツの言葉を抜き出してみた。

 「初めてメンバーとしてプレイしたのは1963年、イーリング・クラブでだった。とはいえ、1962年にはミック、キース、ブライアンとすでに顔見知りだった。その頃、私はアレクシス・コーナーとシリル・デイヴィスのバンドの一員として、ウエスト・ロンドンにあるホットで汗臭くて狭苦しいクラブと、オックスフォード・ストリートにあるマーキー・クラブでプレイしていたのだ」

 「オルタモントはツアーの最終ステージだった。ヘリで到着し、外に出てみたら、手がつけられなくなった大観衆。ロック・フェスの始まりがウッド・ストックなら、終わらせたのは私たちだ。刺殺事件は見ていない。『ギミー・シェルター』の映像を見るまで気づかなかった。オルタモントで起きたことは、私たちの音楽のせいじゃない。私たちはまたしてもややこしい騒動に巻き込まれてしまったのだ」

 「リックス・ツアーのステージは、スティール・ホイールズのステージをさらに洗練させた感じで実に美しかった。よくミックのアパートメントでツアーの打ち合わせをしたものだ。ありがたいことに、私たちはテクノロジーを手にしている。だが観客とつなげるためには、常にテクノロジーと音楽を結びつけなくてはいけないんだ」

 「私たちは、自分たちが客席から見えないーー蟻みたいにしか見えないことを特に意識するようになった。実際、観客を盛り上げるために、ミックの姿をスクリーンに映し出さなければいけなくなったんだ。ショーの規模がこれだけ大きくなると、特別な助けが必要になってくる。花火やら、照明やら、舞台やら、ちょっとした『仕掛け』がね」

  ※以上は「ザ・ローリング・ストーンズ50」(2012年)から。

 「ある日ジェリー・マリガンの<Walking Shoes>を聴いて、ドラムのとりこになった(ドラマーはチコ・ハミルトン)。それ以来、サックスも他のどんな楽器も目に入らなくなってしまったんだ」

 「レコードを聴いた瞬間、『こんな風に叩きたい』と思った。今でもあの曲を聴くと、同じ思いが込み上げてくる。それほどの逸作だね」

 「セッションの仕事をしたことは一度もない。常にバンドがあった。一つ、または二つ。いや三つを掛け持ちしたこともあったな。ミュージシャンであるってことは、そういうことなんだよ。セッションからセッションを渡り歩こうが、同時に3バンドを掛け持ちしようが、様々な音楽的シチュエーションにおいてプレイできるのがミュージシャンだ」

 「バンドでプレイするってことに関しちゃ数だけはずいぶんとこなしてきた。どれも1〜2カ月単位だけどね。大抵リード・シンガーがメンバーのかみさんと駆け落ちしてずらかる。仕方なく僕は別のバンドに移る(笑)。さもなければ、バンドに人気が出てきて、わがまま放題になり消滅というお決まりのパターンさ」

 「この間もある奴に『まだ、やってるのか?』と尋ねられたので答えてやったよ。『ああ、まだやってるよ。カミさんが僕と別れずにいる唯一の理由もそれなんだ』とね」

 「今のペースのまま進めるのならローリング・ストーンズに終止符が打たれることはないだろう。このストーンズという何かは、大勢の人間に楽しみを与えるものらしいからね。キースもまだ夢中だ。残りの連中もだ」

 「楽しくなくちゃ。だって金はこれ以上欲しいとも思わない。一度100万ドル稼いでしまうと、それではまだ足りなくなる。5000万ドル稼いでもまだ足りない。金じゃないんだよ。気持ちの問題だ」

 「要は音楽なんだ。要は金だという人間も、そりゃ多くいるだろうが、ウサギとニンジンの関係さ。でもストーンズは金が動機だったってことは一度もない。このバンドはなんたってインスティテューションだからな(笑)。金は歯車の一つに過ぎないのさ。最後は上首尾に終わり、何かが僕たちの手元に残るんだろう。ま、せいぜい『何か』くらいは残って欲しいもんだね」

 ※以上は「ROCK JET」誌(Vol.55=2014年。1992年のインタビューの再録)から。

2021年8月25日水曜日

ロックダウンの効果

  首都圏だけでなく全国で新規感染者が激増し、感染爆発が現実となった日本。政府の対策は、緊急事態宣言とまん延防止措置の適用地域の拡大と、人々に外出自粛を求めるなど以前からの対策を繰り返すだけだ。デルタ株は感染力が強いとされるが、デルタ株に最適な新たな対策を示すことができていない。

 以前と同じ対策ではダメだと、もっと厳しい対策を求める声が出始めた。政府の新型コロナウイルス分科会の尾身会長は、ロックダウンの法制化に向けた議論の必要性を公言し、全国知事会も、緊急事態宣言の発令で効果はもう見いだせないことは明白だとして政府に、ロックダウンのような徹底した人流抑制策の検討を求める緊急提言を公表した。マスメディアはロックダウンを求める人々の声を伝えるなど、ロックダウン容認へ加担した風情だ。

 人々の外出や行動を厳しく制限するロックダウンを政府が行うには法的根拠が必要だが、日本では、そんな強い権限を政府に与えることには抵抗が強いだろう(日本には政府が強力な権限を持って人々を統制し、15年戦争に突入して無条件降伏し、独立を失った歴史がある)。だが、政府は感染爆発に無力と見える状況で、新しい対策が求められるのでロックダウンが持ち出された。

 ロックダウンを実施した国は多い。それらの国ではロックダウンで①人々の外出を制限(国内外の旅行などの移動も制限)、②飲食店や小売店など商業施設の営業は禁止、③学校などは閉鎖、④イベントや集会は禁止、⑤感染者が多い地域は封鎖ーなどを行い、違反者には罰金を科す一方で休業補償を手厚くするなど「ムチとアメ」を使い分けた。

 日本は最近の緊急事態宣言で飲食店に対してだけ厳しい営業制限を科したが、飲食店以外の商業施設は営業を続け、学校は閉鎖せず、イベントなども人数制限など条件付きで開催されている。感染者数や死者数が欧米より少なかった日本だが、ワクチン接種も医療体制の整備強化も遅れ、感染力が強いとされるデルタ株の広がりに打つ手が乏しく、人々の外出増加に感染拡大の責任を転嫁して、ロックダウンをチラつかせている。

 ロックダウンに効果があるのなら、欧州諸国などでは感染拡大に歯止めがかかっていただろう。現実は、永遠にロックダウンを続けることはできず、ロックダウン解除後に新規感染者は増加し、最近はデルタ株もあってか日本をはるかに上回る感染者数と死者数になっている。欧州諸国以外にもロックダウンを行った国は多いので、世界の諸国を実例として詳しく検証することが日本でロックダウンを論じる時に役立とう。

 厳しいロックダウンで感染封じ込めに成功した典型は中国だろう(公式発表では累計の感染者数は9万4631人、死者4636人=8月23日現在=とされる)が、それは強権による独裁統治の「成果」であり、日本などの参考にはならない。ワクチン以外にCOVID-19抑制の現実的な方策が見当たらない現在、ロックダウンはワクチン接種が行き渡るまでの時間稼ぎの手段に過ぎないが、ロックダウンの法制化に要する時間を考えると、日本はワクチン接種の拡大に注力するほうが効率的だろう。

2021年8月21日土曜日

中国の法治

 法治ではなく人治だとされてきた中国で、政府は法による統治の形式を急速に整えている。といっても共産党が独裁する中国で、法は政府が決めて形式的な議会を経て成立するが、他に規定など政府が決めて施行する類の「命令」も多く、法治の実態は形式だけだ。そんな中国で、政府が人々を統制するため法を活用している。

 例えば、しつけなど家庭内の教育を充実させる法律を中国政府は提出、年内に成立するという。高齢者や幼い子供を大事にし、勤勉節約に努めるなどの道徳心と、規則正しい生活などの生活習慣とともに、中国共産党への愛党精神を家庭内教育で教え、党や国、社会主義を愛し、国家統一と民族団結を守る概念を教え込むと報じられた。

 法が成立した後に政府は家庭内教育の指針を策定し、小中学校や幼稚園、町内会組織が保護者に、どのように子に教えるべきかなどを助言するのだという。草案では、素行が悪い子の保護者に警察や裁判所が、家庭教育に関する指導を受けるよう強制できるとしていたが、それは見送られた。とはいえ、法に縛られない中国政府とその支持者たちは、人々の家庭での子の教育に干渉を強めるだろう。

 食品の浪費を禁じる法律も中国政府は制定した。飲食店は大量に食べ残した客からゴミ処理の費用を徴収できるようになり、大食いの番組の放送や動画の配信を禁じた。賞味期限切れが近い商品の管理を徹底するようスーパーに求め、食堂を持つ政府機関や学校などと出前サービスを行うネット企業には食品の無駄が生じないような対策を要求したという。

 中国では宴会などで主催者が、客が食べ切れないほど多めに料理を注文し、招かれた客は食べ残すのが礼儀だとされた(客が残さず食べると、料理の数が少なかったとして主催者のもてなし不足とみなされる)。その習慣にも中国政府は法で規制をかけた。中国政府の狙いは、大量に食料を輸入している米国との緊張が高まっていることから、食糧安全保障を意識したと報じられた。

 さらに中国政府は、小中学生向け学習塾の新規開業の認可をせず、既存の学習塾は非営利団体として登記させ、塾の費用は政府が基準額を示す規制を実施した。高騰する教育費負担を抑えて少子化対策につなげる狙いだと報じられているが、学習塾の新規上場を禁じるなど民間の教育産業には大打撃だ。また、宿題量の目安を小学3~6年生は1時間、中学生は1時間半を超えないようにするとした。

 中国政府が人々の生活の隅々まで統制しようとしているのは、宗教的な規範も道徳的な規範も弱い社会で法治を人々の統制に活用し始めたと見える。政府の過剰なまでの統制に対して人々は、従うか黙っているしかない。民主主義の国では「余計なお世話だ」と人々は反発するだろうが、独裁権力が圧倒的な中国で人々は、異議を申し立てることは身の危険を伴うので、従うか黙るしかない。

2021年8月18日水曜日

記憶の伝承

 日本では、1945年に日本が降伏した戦争が特別視される。8月になると毎年、その戦争の記憶を新たにしようとの記事や番組がマスメディアに多くなり、戦争の悲惨さなどが強調され、戦争経験者の「戦争はいやだ」「二度と戦争をしてはならない」などの言葉が入るのが定番の構成だ。

 悲惨な戦争を日本が繰り返さないために、その戦争の記憶を伝承しなければならないと記事や番組で強調されることも多い。76年前に敗戦で終わった戦争の記憶は、戦争を体験していない世代の増加とともに忘れられるものだろう。だから、記憶を伝承しなければならないとする。だが、記録なら文字や音声や映像などで世代を超えて伝えることは可能だろうが、記憶の伝承は簡単ではない。

 記憶は人間の脳に保管される情報だから、脳が活動を停止すると記憶は失われる。戦場での記憶や空襲下の記憶、軍隊内での記憶などは、断片的な当時の記憶に当時の視覚映像や音、感情などの記憶が混じり合ったものだろうから、言葉にできた記憶は記憶の全てではないだろう。言葉にできた記憶を後世が受け継いだとしても、戦争体験者が記憶とともに感じる「実感」を伝えることはできまい。

 記憶の伝承をマスメディアは主張するが、8月15日を過ぎると1945年に日本が降伏した戦争関係の記事や番組は消える。記憶の伝承が必要だとするならマスメディアは常に戦争の記事や番組を提供するべきだが、戦争関連の記事や番組は季節ネタの扱いだ。つまり、1945年に日本が降伏した戦争の記憶の伝承とは、おそらく「戦争はいやだ」「二度と戦争をしてはならない」などの言葉の伝承に尽きるのだろう。

 「戦争はいやだ」「二度と戦争をしてはならない」などの言葉に異論は誰からも出ないだろう。だが、この言葉は戦争体験者の記憶と結び付けなくても、戦争を体験していない世代にも共感できるはずだ。1945年に日本が降伏した戦争を知らない世代も戦争のニュースは知っている。世界では常にどこかで戦争が起きており、大規模な破壊や人々の死傷、大量の難民流出などが起きている。

 マスメディアは、1945年に日本が降伏した戦争の記憶の伝承を人々に促すより、世界で起きている戦争の実態を積極的に伝えるほうが、現在の人々に戦争の悲惨さを実感させ、「戦争はいやだ」「戦争をしてはならない」と実感させることができよう。だが、マスメディアは世界で起きている多くの戦争を、日本人の戦争の記憶に合流させようとしない。

 日本人が体験した戦争は日本人にとっては特別な体験だ(どの国の人々にとっても直接に体験した戦争が特別だろう)。その記憶も記録も日本人が世代を超えて伝承していくことが大事だが、1945年に日本が降伏した戦争を特別視しすぎると、今の日本は平和で良かったねと世界で起きている戦争を軽視し、日本が平和であればいいとの1国平和主義に絡め取られかねない。

2021年8月14日土曜日

常に動いている

 帰省した友人一家と海を眺望できるレストランで会食した時に、友人の子供が穏やかな海を見渡して「静かで落ち着く。動いてるのは波ぐらいだ」と言ったので、実は地球は激しい運動を常に続けていると説明すると友人の子供はたいそう驚いていた。友人の子供に説明したのとほぼ同じ内容のブログを再録する。

  地球の自転の平均速度は約1670km/時(赤道上)というので、秒速にすると約460mになる。日本付近では地球の直径が赤道よりも短くなり、1日の長さは24時間と同じなので自転の速度は約1380キロ/時、秒速は約380mほどと赤道よりも遅くなる。

  地球は太陽の周りを公転しているが、その速度は約10万8000km/時とされ、秒速にすると約28km。自転しながら地球は太陽の周りを凄まじい速度で移動を続けているのだから、部屋の中でじっと座っている人も、太陽系の外から見ると、激しく動き続けていると見えるだろう。

  さらに太陽を含め太陽系も天の川銀河の中を周回している。その速度は諸説あるが、約86万4000km/時とすると秒速240kmになる。地球も太陽と一緒に想像を絶する速度で動いているのだが、宇宙は広大だ。太陽系は天の川銀河の中心から離れた端の方に位置するので、1回の周回に2億年以上かかるとされる。

  約240km/秒で移動する太陽の周りを、地球などの惑星は太陽の移動方向と垂直の方向に公転しながら、太陽とともに約240km/秒で移動する。地球など惑星の公転は、書籍などの図(平面)では太陽を中心にいくつもの円で描かれるが、その円は宇宙空間では引き延ばしたコイルバネのような螺旋運動で地球などは太陽を回っている。

  さらに、天の川銀河も動いている。どのように動いているのかは明確には判明していないが、250万光年ほど離れているアンドロメダ銀河と近づきつつあり、数十億年後に衝突するとされる。おそらくアンドロメダ銀河も天の川銀河も距離を縮めるように互いに動いているのだろう。

  他にも、膨張を続けているとされる宇宙では、宇宙空間そのものに動きがあり、その動きは宇宙の全ての物質に影響しているだろう。その動きがどのようなものかを知ることは簡単ではないだろうが、地球表面の、例えば、公園のベンチにじっと座っている人も宇宙空間の動き(膨張)の中にいる。

  地球は自転しつつ、太陽を中心に約28km/秒で螺旋を描きながら公転しつつ、天の川銀河の中を約240km/秒で移動しているが、天の川銀河もおそらく凄まじい速度で移動している。地球上の人々は、想像を絶するジェットコースーターに乗り続けている。

2021年8月11日水曜日

感染爆発に無力

  日本の累計感染者数は104万749人、累計死者数は1万5290人となった(8月9日現在。以下同)。7月29日に新規感染者が1万人/日を超えてから、ほぼ毎日、1万人/日超えが続いている。このペースが続くと1カ月で30万人以上増え、3カ月で90万人以上、半年では180万人以上増える計算になる。この感染爆発に医療体制は対応できず、各地で大量の自宅待機(療養)者が出るだろう。

 東京25万2169人、神奈川9万8921人、埼玉6万7299人、千葉5万7398人の1都3県で47万人を超え、全国の45.5%とほぼ半分を占める。ここに大阪12万3519人、愛知5万6947人を加えると65万人を超え、同62.8%と全国の3分の2になる。さらに兵庫4万7501人、北海道4万7075人、福岡4万5048人、沖縄2万9080人を加えると82万人を超え、同79.0%(これら都道府県が累計感染者数の上位10)。

 人口密度が高く、職場や学校、商業施設、娯楽施設、歓楽街など密になる状況が多い都市部で感染爆発が起きていると見えるが、過疎地とされる地方でも徐々に感染が増え、累計感染者数は島根810人を除いて全県で1千人を超えた(1万人以上は前記10都道府県と京都、茨城、広島、静岡、宮城、岐阜)。感染者数が多い都市部からの移動増加が全国的な感染増加を招いたと類推できる。

 状況が変わったなら、それに対応した新しい対策が必要だ。だが、COVID-19についてはまだ確実な情報が少ないためか、今回の感染爆発に政府は新しい対策を打ち出すことはできす、感染爆発に無力だとも見える。政府は従来の対策を繰り返し、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の適用地域を拡大しただけだ(緊急事態宣言とまん延防止等重措置に効果があったならば、感染爆発は抑え込めていただろう)。

 自粛要請にも関わらず都市部で人々の外出が増え、特に酒を提供する飲食店での会食が感染拡大の主要因だと政府や都道府県は規制を強めてきたが、感染は拡大を続ける。酒を伴う飲食店でクラスターが発生することは政治家や厚労省職員などの宴会の実例で明らかだが、酒や飲食店を狙い撃ちにするだけでは感染拡大を防ぐことができないと今回の感染爆発は示している。

 従来の対策だけでは効果が見えないことで政府関係からは、人々の気の緩みに責任転嫁したり、もっと厳しい行動制限へ向けての法整備を主張する声も聞こえてくる。だが、人々に対する厳しい行動制限を可能にする権限を無能な政府が手にしたなら、人々の行動を無闇に制限するだけで、効果は上がらず、感染拡大は続くとの予測もできる。

 今回の感染拡大は、政府の権限に問題があるのではなく政府の機能に問題があると認めるなら、政府の動き方は変わらざるを得まい。だが政府にはデルタ株という感染拡大の責任を転嫁できる対象がある。デルタ株に対する新しい対策を政府は提示できていないが、感染爆発はデルタ株によると政府は主張し、それをマスメディアは検証しない。こんな状況が続くなら、感染爆発は続く。

2021年8月7日土曜日

ジェンダー・ドーピング

 近年、性別は先天的に決まっているとの概念が揺さぶられ、個人が決める(=性別を変更する)ことを社会的に許容する動きが欧米から世界に広がりつつある。「男らしく」「女らしく」など性別による価値観や宗教的制約が根強い社会はなお多いが、欧米主導の価値観の影響力も強力だ。

 精神疾患の一つとして扱われる性同一性障害など性別と自己意識の不一致に苦しむ人がいるのだから、個人が自分の性別の決定権を持つのは、個人の尊厳と自由を重視する社会では当然かもしれない。とはいえ、誰かの性別の変更は周囲に困惑や混乱をもたらすだろうし、性別による様々な区別は社会に存在するのだから混乱や対立を招く。

 初めてトランスジェンダーの選手が五輪に参加し、各国メディアの注目を集めた。東京五輪の重量挙げ女子87kg超クラスにトランスジェンダーのNZ選手(43歳)が出場した(敗退)。同選手は10代から20代前半はNZで男子種目に出場し、35歳の時にトランスジェンダーを公表、2013年に性別適合手術を受けた後は女子種目に出場していたという。

 男性の選手として競技大会に出場していた人が、女性になって女子種目に参加することには公平性が損なわれるとの批判がある。第一に、性別は変えても筋肉や運動能力は男性のままだから他の女子選手より有利、第二に、一般に男性のほうが体格が良いので他の女子選手が不利、第3に、一般に男性のほうが持久力があるので他の女子選手は不利ーなどだ。

 IOC(国際オリンピック委員会)は2015年、トランスジェンダー選手が女子の競技に参加することについてガイドラインを策定し、男性ホルモンのテストステロンの値が12か月間にわたって一定以下であれば認めるとし、トランスジェンダー選手の参加を容認した。男性ホルモン値が基準以下であれば「女性選手」になることができると認めたわけだが、不公平感を一蹴できる説得力がどれほどあるのか不明だ。

 今回はトランスジェンダー選手が早々に敗退したため、トランスジェンダー選手の参加は大会のトピックの一つとして終わったが、参加が今後は徐々に増えることが予想される。競技者の中にも性同一性障害に苦しむ人がいるだろうから、そうした人の競技参加は容認されるべきかもしれないが、男性として鍛えてきた人が女性として女子種目に参加することが増えれば、五輪でメダルを取る人も増えよう。

 そうした状況を積極的に利用する国がやがて現れそうだ。選手の健康に害があるドーピングを選手に強制して五輪でメダル獲得を増やそうとする国は現在も存在する疑いがあるのだから、メダルに届きそうにない男性選手を女性選手に変えてメダル獲得数を増やす国はきっと現れる。国内ではトランスジェンダーを排除する強権支配の国のトランスジェンダー選手が、国際大会で活躍するという奇妙な光景がいつか見られるかもしれない。

2021年8月4日水曜日

世界でも繰り返す波

 世界の累計感染者数は1億9819万人で、累計死者数は422万人だ(8月2日現在。以下同)。累計感染者数が多いのは米国3497万人、インド3165万人、ブラジル1991万人で、この3国だけが1千万人を超えており、3国で世界の43.7%を占める。次いで多いのがロシアとフランスで620万人、英国590万人、トルコ572万人、アルゼンチン492万人、コロンビア478万人、スペイン444万人、イタリア435万人、ドイツ377万人などとなる。

 世界各地で感染拡大の波は繰り返している。大規模なワクチン接種により感染拡大を抑制できるとの期待があったが、若者らワクチン未摂取者の間で感染が拡大していると各国で報じられ、さらにワクチン摂取者は感染しても無症状が多いので感染源になるとの懸念も指摘されている。

 米国では新規感染者数が8万人/日になり、感染拡大が鮮明になっている。このままでは30万人/日になるとの予測もあるそうで、再び人々にマスク着用を呼びかける州や企業が増えているという。一方、共和党が強い州ではマスク着用やワクチン接種の義務化に消極的だと伝えられ、感染拡大対策が政治問題化しており、全米規模で感染を抑制できる見通しはぼやけている。

 インドでは4〜5月の40万人前後/日の感染爆発は収まったが、それでも4万人/日ほどの新規感染者が出ている。その感染爆発はデルタ株によるものとされるが、デルタ株は世界に広まり、120カ国以上で確認されたとWHO。感染力が従来株より強いとされ、さらに感染拡大が続き、数週間で2億人以上が感染するとWHOは予測する。

 ブラジルでも新規感染者は多かった6月より減っているが、それでも3万〜4万人/日ほど出ている。ワクチン接種が遅れ、冬が到来した状況は厳しいが、ボルソナロ大統領はじめ中央政府は感染対策の推進に否定的で、いわば放置状態が続いている。死者数は55.6万人と米国61.3万人に次いで世界で2番目に多い(インドは42.4万人)。

 ワクチン接種が進む英国で新規感染者は1月に5万人台/日だったが、その後、1万人/日を下回り、規制解除へと動いた。6月半ばから再び増加し始め、7月中旬にまた5万人/日を超えたものの最近は2万〜3万人/日。死者や重症者が増えていないことから規制解除を見直さないと政府は主張する。ただ感染者が増えて濃厚接触者として自己隔離を求められる人も増えて食品や日用品などの流通に影響が出ているという。

 昨年1月の感染確認以来、世界は緊急事態として感染拡大抑止を最優先させてきたが、COVID-19の終息のメドは立たない。ワクチン接種には重症化を抑制したり感染率を低下させる効果はありそうだと見えてきたが、変異を繰り返すウイルスは手強く、マスクを着用せずに会話や飲食を楽しむことができる日がいつになるのか見通しはつかない。