2014年6月18日水曜日

分裂も選択肢


 イラクで急速に勢力を拡大するイスラム過激派組織の略称は、日本のメディアでは「ISIS」と「ISIL」の二通りに分かれる。ISISは「イラク・シリア・イスラム国(Islamic State of Iraq and Syria)」のことで、ISILは「イラク・レバントのイスラム国(Islamic State of Iraq and the Levant)」。

 レバントとは「東部地中海沿岸地方の歴史的な名称。厳密な定義はないが、広義にはギリシャ、トルコ、シリア、キプロス、レバノン、イスラエル、エジプトを含む地域。現代ではやや狭く、シリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル(およびパレスチナ自治区)を含む地域を指すことが多い」(ウィキペディアから)。

 イラクとシリアにカリフ(イスラム社会の最高指導者に率いられた)国家を建設することを目指すというISISは、イラクで2006年にISIとして結成、自爆テロ事件などを繰り返し、シリア内戦に参戦して戦闘経験を重ね、最近はイラクのスンニ派地域で活動を活発化させ、制圧地域を広げている。独自の資金源を持ち、国外からの戦士や制圧地の刑務所から解放された囚人らも加わっているという。一方で、ISISが“強く”なりすぎると、過激組織間の離反が想定され、戦闘が複雑化するともいう。

 このISISの勢力拡大で最も懸念されているのが、イラクが実質的に分裂することだ。人口の6割を占めるシーア派主導の現在の政府に対して、2割のスンニ派が多く住む地域がISISに制圧され、激しい宗派対立へとエスカレートするようなことになれば、統一国家としてのイラクの国づくりは破綻する。さらに2割のクルドは、油田があるキルクークを確保して、独立色を強める可能性がある。

 こんなイラクが分裂することは悪いことなのだろうか。分裂させずに無理に一つの国家にまとめ続けようとすることにこそ、無理があるのではないか。多民族や、宗教・利害を異にする人々が穏やかに共存・共生するのが望ましいのだろうが、現実に殺し合いが続くなら、国家が分裂することも選択肢の一つである。だが、欧米は旧植民地での国家分裂は認めない。

 そもそも今のイラクの国境線は、イラクに住む人々が自分で引いたものではない。この地域は歴史的に様々な帝国が入れ替わり支配し、現在はイラク王国として独立した時の国境線を引き継いでいるが、それも当時の英仏の意向を反映したものでしかない。住んでいた人々の意向を尊重したものとは言い難く、現在の形で1国として形成されなければならない必然性は希薄だった。

 だが、国境線の引き直しは、旧植民地の境界を引き継いで独立した世界中の国に大きな影響を与える。民族や宗教の分布に関係なく引かれた境界線が多いからだ。イラクでみると、クルドが独立すると、トルコやシリア、イランなどに住むクルドにも影響を与えようし、イラク内のシーア派が独立するとイランとの宗教的一体感が高まろう。ISISの支配地が独立するなら、シリアは解体することになる。

 旧植民地の境界が維持されることは、イラクのように石油利権に関与し続けることができるので欧米には好都合だろう。しかし、旧植民地の境界を引き継いだ独立国は、1国としてまとまるべき建国の理念も必然性も示すことはできず、権力を握った人々は、他の民族、他の宗教・宗派などを抑圧することで権力を維持する例が珍しくない。国内で殺し合いが繰り返され続けるのなら、分裂して、それぞれが国づくりを試みるのは現実的な選択肢だ。

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