2016年8月13日土曜日
悪い奴らは殺すという政治
乱暴な社会実験がフィリピンで進行中だ。麻薬や犯罪を撲滅することを目指すドゥテルテ大統領が、密売人らを警察が摘発する時に殺害を容認(訴追免除)し、殺害した警官には報奨金を払い、民間人であっても密売人を殺害したなら報奨金を払うと約束したから、民間の自警団も密売人の殺害を始めている。
「効果」ははっきり現れた。ドゥテルテ大統領が就任して1カ月余りで麻薬絡みの容疑者402人を射殺したとフィリピン警察は発表、自警団による射殺なども加えると800人以上が殺害されたという。就任前の半年間で警官に射殺された容疑者は約100人だったというから、大幅な増加だ。また、薬物中毒者ら約57万人が当局に出頭し、リハビリ施設に送られるという(そんな大量の人数を収容できる施設があるのかは不明)。
報奨金の額は報じられていないが、高額なら、西部劇の賞金稼ぎのように密売人を捜して次から次にと殺す連中(自警団?)が現れそうでもある。人が多い都市部で生活する麻薬の密売人の存在を突き止めることは、西部劇のように荒野を探しまわることより容易だろう。犯罪を憎む警官なら、この機会に「悪」を一掃しようと奮起するかもしれない。報奨金で収入も増えるしね。
麻薬の密売人らに対象を限定したとはいえ、殺人を合法化したフィリピンの社会で今後、何が起きるのか、乱暴な社会実験だが、興味深い。麻薬の密売人が消え失せ、中毒者が大幅に減少し、犯罪件数も減少、リハビリを経て社会復帰した元中毒者らが仕事に励むようになり、安定した社会になったフィリピンは着実な経済成長軌道に乗りました……となれば理想的だろう。
だが、映画や小説と違って社会には「終わり」がないから、殺人を合法化したことによる歪みは社会にいつか現れる。厳しい取り締まりで抑えつけている体制は、抑えつけを続けるしかなく、厳しい抑えつけが少しでも緩めば反動が生じるが、ドゥテルテ大統領には任期がある。ドゥテルテ氏が大統領でなくなれば、裁判を経ずに殺害された人々の家族・親族などの恨みが噴出する可能性もある。
さらには、麻薬販売で生きていた連中が自衛のために強力に武装して、例えば、過激主義を掲げて武装闘争を正当化したり、ゲリラ闘争組織と連携したりすることは、ドゥテルテ大統領の任期中にも起きる可能性がある。歴史を振り返れば、政治的な武装闘争組織が麻薬を資金源にしていたことは珍しくなく、島嶼国フィリピンには各地に武装闘争組織がある。
今回の乱暴な社会実験には、密売人ら犯罪者を片っ端から殺害すれば麻薬を根絶できるのかという根本的な疑問のほかにも、▽殺害された人々は本当に密売人なのか(殺害の妥当性について個別に検証はなされているのか)▽自警団の正体は何か(仲間を売る犯罪者が紛れ込んでいないか)▽誤認殺害が判明したなら誰が責任を負うのか……など疑問点が放置されたままだ。
警官が裁判官をかねたように、現場で容疑者を死刑にするという光景が現実となったフィリピン。法の支配が損なわれ、「悪人」は殺害して排除するという社会で何が起きるのか……という貴重な社会実験は、自由選挙で選出された民主主義国の大統領なら、強権を発動して人権を軽視することが許されるのかという社会実験でもある。民主主義が実現したなら社会は善くなると期待しがちだが、民主主義の実現が全ての「解」ではない。
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