2025年7月23日水曜日

クマとクレーマー

  北海道南部の福島町で新聞配達員の男性を殺害したヒグマが駆除された。駆除されたヒグマは体重218kg、体長2m8cmで、年齢は推定8~9歳。このヒグマは男性を約100m離れた草むらの中まで引きずっていたが、4年前に同町内で女性を殺害したクマのDNAとも一致した。人間を襲うことを学習したクマは、麻酔銃で眠らせて山奥に放したとしても人里に戻ってくる可能性が高いだろう。

 クマが駆除される前、町民は怯えて外出を控え、子供の徒歩での通学は止め、店舗の営業終了時間が繰り上げられ、昆布干しなど屋外での作業にも影響が出て、民宿にはキャンセルが相次いだと報じられた。人を殺害するクマが町内に出没するという現実に町民は無力だった一方、同町役場に「クマを殺すな」などの抗議電話が相次ぎ、その大半が町外からのものと見られるという。

 クマの出没情報は全国で相次ぎ、負傷する人が増えている。2023年には秋田県美郷町の店舗にクマが侵入し、捕獲されて駆除されたが、「駆除するな」などの抗議電話が町役場に増え、電話に出た担当者に「クマを殺すならお前も死んでしまえ」などの感情的な言葉があったという。秋田県知事は「これは業務妨害だ」とした。その多くが県外からの電話だったという。

 北海道ではヒグマ、本州ではツキノワグマの出没が珍しくなくなったが、おそらく都会に住む人にはクマに対する恐怖は現実的なものではなく、「クマちゃん、可哀想だよ」程度の気持ちと、動物愛護が無条件で最優先するとの思い込みなどから義憤を感じて電話したのかもしれない。中には「もともとクマが生息する土地だろう」などの言葉があったというが、そうした言葉は地方に対する歪んだ優越感を示す。

 都会のある地区に、無差別に人を殺傷した容疑者が凶器を持ったまま逃げ込んだとなると、そこの住民は怯えるだろう。「クマちゃん、可哀想だよ」などと抗議電話をかけた人は凶悪犯がどこに潜んでいるのか分からないという状況に直面して、やっと日常に潜む恐怖を現実に感じることができるだろう。都会に住む人も想像力を働かせれば、クマ出没に怯える地方の人々のことを理解できるはずだが、抗議電話をかける人にはそんな想像力もなくなっているようだ。

 こうした電話をかける人はクレーマーの一種だ。総務省は4月に、「行政相談においても、業務の範囲を超える要求や、社会通念上明らかに程度を越える手段・態様による要求への応対が看過できない問題となって」いるとした。電話による「業務の範囲や程度を明らかに超える苦情相談」が継続した場合、「不当な要求や著しい迷惑行為を伴う要求には対応できないことを伝えた上で、応対を打ち切る(電話を切る)」と明確化した。また、電話及び来訪による相談については「相談内容の正確な把握・記録のため、原則として録音をする」ことを明記した。

 行政機関は商業施設とは異なり、住民サービスは責務であり、「客」を選別することはできず、丁寧な応対が求められる。だが、限度を超えた要求・主張に限ってカスハラとしての対応が許容されるようになったのだから、「クマちゃん、可哀想だよ」などの抗議電話はクレーマー扱いしておけばいい。ただし、相手の姓名、電話番号などは記録して今後の対策の資料にすることは必要だ。

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