2015年10月21日水曜日

真似できない髪型


 日露戦争の後に、女性の間で二百三高地髷という髪型が流行った。当時の写真を見ると、前髪が大きく張り出し、頭頂部に束ねた髪が高くそびえるスタイルだ。髪でつくった大きな鏡餅を頭に乗せているように見えるものもあり、正面から見ると、女性の顔よりも髪の量が圧倒的に多く見えたりする。

 前髪だけを少し高く結い上げ、頭頂部は盛り上げないパターンもあり、これは現在でも和服姿の女性で見かける。当時、洋装にも合うとして二百三高地髷は流行ったというが、大正・昭和を経て、和服に合う髪型として残ったものの、洋装に合う髪型としては残らなかった。洋装で着るものも当時とは大きく変化しているので、現代において大きな二百三高地の髪型にしたりすると、被り物をしていると見られたりして。

 男性の髪型で前髪を大きく盛り上げるのはリーゼントスタイルだ。こちらにも、庇のように髪が前方に張り出しているものから、オールバックに近いものまでバリエーションは多い。ロックンローラーの代名詞として現在でも残っているが、街中で見かけることはほとんどない。髪型を維持するためには手間がかかるので敬遠されたか。

 今年、前髪を盛り上げた髪型で目立っているのが北朝鮮の金正恩さんだ。最近も朝鮮労働党創建70周年を記念する軍事パレードを閲兵し、演説では「人民より大切な存在はない」「人民に感謝」などと「人民への愛」を強調したと報じられた。ニュース映像で見る金正恩さんの髪型は、前髪を盛り上げ、側頭部は刈り上げるというスタイル。

 もちろん、独裁者の金正恩さんが既成の髪型をまねたはずはない。そんなことをすれば、独裁者の威厳が傷つくだろうから、あの髪型は独自の主体思想によるヘアスタイルなのだろう。美醜は主観によるので判断は差し控えるが、一度見たら忘れられない強い印象を与える独自性がある。あの髪型が似合う人物はなかなかいないだろう。

 北朝鮮の独裁者の髪型だから今後、北朝鮮の若者が真似するかといえば、それは難しい。粛清が珍しくなく、人々に対する監視も厳しい国では、独裁者はただ仰ぎ見る存在でしかない。うっかり独裁者の真似をすると、独裁者の唯一性を損ねる行為とも受け取られかねない。パロディ行為と見なされたなら処罰が待っている。北朝鮮のような国では、独裁者の髪型をまねるのは恐れ多い行為だろう。

 独裁者は特別な存在であることが重要だ。独裁者が人々に恐れられなくなったら、終わりが近い。北朝鮮で金正恩さんの髪型をまねる若者が多くなれば、それはそれで面白い光景だが、独裁国家としてのタガが緩み始めた徴候だろう。あの髪型はオンリーワンである独裁者だからこそ、できるものだ。ただ、金正恩さんがウケ狙いであんな髪型にしたのに、髪型について誰も言わないとしたなら寂しいだろうな。独裁者は孤独でもある。

0 件のコメント:

コメントを投稿