金継ぎは、割れた陶磁器などをウルシを使って破片を接着して修復する日本独自の技術だ。ひびや割れなどを目立たないように修復するのではなく、修復した割れなどの部分を金粉や銀粉などで装飾し、新たな「味」や「景色」を付与する。元通りの姿に見せるのではなく、ひびや割れなどがあったことを強調するのは独自の発想だ。
ひびや割れがあったことを分からないように陶磁器などを修復することは可能で、おそらく世界各地で行われているだろう。そうした修復は、ひびや割れがあったことを隠し、やがて、ひびや割れがあったことは忘れられる。ひびや割れの存在は陶磁器などの完全性を損なうので忌むべきものとの意識が強い社会では、ひびや割れを強調する金継ぎの発想は生まれない。
ひびや割れは陶磁器などにだけ存在するのではなく、人間関係などでも発生する。家族間や友人間などなら時間とともに仲直りすることは珍しくないだろうが、激しい感情や利害などの対立が絡むと相手に対する批判が激化し、簡単には関係を修復できず、時には関係断絶に発展したりもする。ひびや割れはくっきりと見えるようになるのが人間関係か(ひびや割れが見えない人間関係もあり、誰かが我慢している)。
ひびや割れは国家間ではフツーに存在する。ロシアや中国など権威主義諸国と欧米など民主主義諸国の対立は長らく存在し、歴史的経緯から関係が緊張している諸国もあり、複雑な民族対立が国家間の対立となって現れる例もあり、資源や権益の奪い合いで対立している諸国もある。自国を最優先させるのが国家だから、さまざまな国家間の対立は常態である。
ひびや割れを新たに発生させることを厭わないのがトランプ大統領の米国だ。関税の一方的な引き上げで世界各国との関係にひびを入れ、グリーンランド領有を主張して欧州諸国との関係にひびを入れ、NATO加盟諸国には米国に頼るだけだったとして防衛費の大幅引き上げを要求し、ひび割れをNATOにも入れた。こうなると欧州諸国は、米国はもはや信頼できるパートナー国ではないと認識を新たにし、ひびや割れの存在は修復されない。
ひびや割れの存在を隠すことができなくなったNATO加盟諸国は、米国抜きでロシアに対峙することができない現実を前に、自主防衛に動かざるを得ない。だが、欧州諸国だけではウクライナ支援にも限界があり、ロシアの軍事的脅威に欧州諸国だけで立ち向かうことができるようになるには年月を要する。米国が欧州の平和への関与を弱め、NATOのひび割れは誰の目にも見えるようになった。
米国の次期大統領に民主党候補が当選したとしても、米国とEU諸国やNATOとの関係悪化(ひびや割れ)の痕跡は残る。それは、人々の記憶に残り、歴史にも記録され、なかったことにはできない。ここに金継ぎの発想を持ち込むと、厳しい対立があったことを認め、それを乗り越えて関係国が新たに堅固な協力関係を構築したと強調するしかない。だが、国家間や国際機関におけるひびや割れが作り出す新たな「味」や「景色」とは、互いに信用・信頼せずに構築する国家間関係や国際関係だろう。
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