2015年12月19日土曜日

トランプの暴言


 米大統領選へ共和党候補としての指名を争うドナルド・トランプ氏は暴言を繰り返すことで知られている。最近でも、米加州での銃乱射事件を受け、イスラム教徒が米国に入国することを全面的に禁止すべきだと主張して、米国内のみならず世界的な批判を浴びているが、トランプ氏は「人々は私の発言を好んでいる」と“反省”するポーズも示そうとしない。

 泡沫候補なら、注意を引くために過激な発言をしたり、当選より自己主張を重視して好き勝手な発言をすることはあるだろうが、トランプ氏はもう泡沫候補とはいえない。支持率でトップを独走しているので、共和党の大統領候補に指名される可能性も現実味を帯びてきた。共和党主流派は困惑し、トランプ排除を探っているとも伝えられ、ドタバタ劇が繰り広げられ始めたなら、本選の大統領選より面白いかもしれないな。

 一つの失言で評判を傷つけ、地位を失ったりする政治家は珍しくない。選挙ともなると、敵の失点は見方の得点だとばかり対立陣営が容赦なく追及して騒ぎをかき立て、失言した側は弁解したり釈明したり、さらには謝罪して発言を取り消したりして沈静化に懸命になるものだが、トランプ氏は暴言の波紋を楽しんでいるようにさえ見える。

 トランプ氏の一連の発言をメディアは、失言ではなく暴言と表現する。社会常識に反していたり、政治的に言ってはならないとされている見解などを言ってしまうことでは、トランプ氏の暴言は失言の範疇なのだが、つい本音が現れた失言としてではなく、政治的な主張として打ち出される。それでメディアは、非難を込めて暴言扱いするのだろう。

 しかし、トランプ氏の暴言は広い批判を招くが、支持率は上がるので人々に受け入れられているように見える。現段階の支持率は「いいね」ボタンを気軽に押すようなもので、投票時の真剣な政治的選択をどこまで現しているか不明だが、米でトランプ氏の暴言がマイナスに働いていないことは伝わって来る。

 経験が豊かな政治家ならトランプ氏のような暴言は発しない。政治的に正しいことしか言わないだろう。だが、政治的に正しいことが、現実問題に対する正解であるとは限らない。そこに暴言が入り込む余地がある。素人政治家であることがトランプ氏の最大の強みだと解釈するなら、その暴言を含めて、既成の政治手法や政治言語に反し、抗い続けて、暴言が入り込む余地を広げ続けることがトランプ氏にとって必要になる。

 候補者の言葉といえば8年ほど前には、オバマ氏の言葉に世界が酔った。理想を素晴しい演説で語り、9.11に続くアフガニスタンやイラクでの戦争に終止符を打って、米国のみならず世界を平和に導くのではないかと期待されたが……期待は裏切られた。オバマ氏は理想を謳ったが、トランプ氏は遠慮のない暴言を恥じない。米で既成の政治家への失望がいかに深いかということを、トランプ氏への高い支持率は示しているのかもしれない。

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