2019年2月20日水曜日

壁の効用

 米トランプ大統領は、メキシコ国境の壁の建設資金を議会の承認を経ずに確保するため、国家非常事態を宣言した。予算の中から約81億ドルをかき集めて壁の建設を進めるという。国家予算の使い方は議会で決めるのが民主主義の原則の一つだが、非常事態だからとして政府の判断で予算の使い方を変更する。

 武力による侵攻を受けたり、大規模な災害や事故が発生したなら非常事態だとの認識は共有されやすいだろう。だが、「不法移民や違法薬物の流入を阻止するため」と主張しても、①国境の壁建設で抑制効果があるのか、②なぜ今なのか、③大統領の権限行使として正しいのか、などの疑念が出て、非常事態であるとの認識が政治性を帯びてしまった。

 壁は境界を示す。地図上に国境などがあっても、現実空間に遮蔽するものがなければ抽象的な境界でしかない。壁を構築することで、第一に、「こちら側」と「あちら側」を可視化する効果がある。第二に、境界での交通・流通を遮断・管理することが、より容易になる。第三に、「こちら側」への侵入を許さず拒否するという意思を明確化する。

 国境の壁は国家権力が構築するものだが、個人でも壁や柵を建てて自宅の敷地や農地などを囲う人は多い。所有権などを可視化するとともに、他人などの勝手な侵入を拒否することを示す。だが、壁や柵があっても、盗みなどの目的で入ってくる人を防ぐことはできない。

 壁は、その境界内に生きる人々の意識の開放性ではなく、閉じこもろうとする閉鎖性を示す。閉鎖的だから悪いというわけではないが、閉鎖性が周囲に対する不信感や警戒感、敵愾心などの現れであるなら、壁は「あちら側」からは拒絶の象徴に見えるだろう。

 壁を構築することで守られるものは何か。ベルリンの壁により東独は自国住民の西側への亡命を抑制した。イスラエルはヨルダン川西岸地区に高さ8mの分離壁を建設し、入植者を囲った。どちらも国際的には批判されたが、それぞれの国内では政府の治安維持「努力」の可視化であった。

 壁には物理的な壁のほかに、中国が構築しているというインターネットの国外との接続を制限(時には遮断)する壁もある。こちらも政府の治安維持のために効果があるとされる。見えないが存在する壁も国家だけではなく個人にもあって、何らかの行動に踏み切ることを阻害したりもする。

 トランプ氏が欲するメキシコ国境の壁の最大の課題は、不法移民や違法薬物の流入を抑制できるのか客観的な効用が明確でないことだが、トランプ氏は批判や異論などをはねつけ、主張を貫く。トランプ氏の心に構築されている壁は強固で、外部からの意見や助言などが入ることを拒んでいる。トランプ氏の心の壁はメキシコ国境の壁より機能しているようだ。

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