『鞍馬天狗のおじさんは 聞書アラカン一代』は竹中労氏の傑作であるとともに、ルポルタージュ(ノンフィクション)の傑作でもある。初版は1976年に白川書院から刊行され、後に徳間文庫、ちくま文庫に入った。
文庫版では、初版巻頭にあったグラビアページ(16P)にちりばめられたアラカン映画のスチル写真が本文中に分散して配置されるとともにサイズが小さくなり、カットされた写真も多い。アラカン映画を見た読者が減りつつある時代の変化を考えると、イメージを具体化しやすいスチル写真を掲載する必要性は増している。
最近では七つ森書館から2016年に再刊された(書名は『鞍馬天狗のおじさんは 聞書・嵐寛寿郎一代』に変更)。四六判で初版より一回り小さいが、巻頭にグラビアページを設け、アラカン映画のスチル写真を見やすく復活させた。
七つ森書館版の解説で佐高信氏は「この本は稀代の名著である」と書き出し、アラカンの「声音まで聞こえてくるような語り口」で、「私が少年の頃、胸躍らせて見たアラカンは、とてつもなく反骨の人だった」「共に無頼の竹中とアラカンが“合体”したとも言える絶品の快作」とする。
アラカンの声音まで聞こえてくるような語り口とは、例えば、「芸術関係おへん、人を娯しませたらそれでええ。河原コジキ、結構やないか」「人々を娯しませてきたことは、まぎれもないんダ。ワテは映画俳優になったことを一度も後悔したことおへん」。
「ゼニもほしかった芸者遊びもしたかった、マキノに入ったんそれだけやおへん。バンツマほどの役者になりたいと、志を立てたんダ」「人間の運命どこでどう変るやら、見当もつきまへんな、カツドウシャシンたった一年半で、おのれがスターになっていたゆうことに、東京へ出てみてはじめて気がつきました」。
「戦争からこのかた、エライさんのゆうこと信用せんことにした。愛国心も怪しいものや、きれいなウソあきまへんな。嘘つかんのは景色だけや」「満州には、不思議な人がようけおりましたな。とくに『満映』、大杉栄を殺した甘粕大尉が理事長ダ。日活残党の根岸寛一はん・マキノ光雄はん、それに内田吐夢監督・シナリオライターの八木保太郎といった人たちが、その下で働いておりました」。
……と本人の語りを主に、アラカン本人や映画関係者との対談と竹中氏の地の文を織り交ぜ、アラカンの半生記と黎明期から戦後に至る日本映画の軌跡を、各社の盛衰や映画関係者の言動などをたどりつつ描いた。マキノ雅弘氏は「これは荒々しい本や、無遠慮な本や、ほんまのことばかり書いてある本や。読みながら不覚にも涙がこぼれてきた、声を立てて笑うほどおかしゅうて、急に悲しくなってくる本や」と語っている。
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