2019年6月22日土曜日

五族共和の現在

 中華民族の概念を最初に提起したのは梁啓超で、1902年のことだった(1901年に中国民族の概念を造語していた)。その後、孫文は五族共和(漢、満、蒙、蔵、回による共和)を掲げつつ、中華民族の形成を訴えた(『中国の民族問題』加々美光行著=岩波現代文庫)。

 同書からの引用を続けるーー本来「中国=中華」概念は歴史的には「天下=世界」概念と同義であり、明確に「国」概念と区別されてきた。梁啓超と孫文はその「中国=中華」を「民族」概念と結びつけて「中国民族=中華民族」という新概念を造語したうえ、これをヨーロッパ発祥の近代「国民国家」の担い手となり得る「国民」概念に匹敵するものと見なしたのである。

 この結果、「天下=世界」概念であり続けた「中国=中華」が史上初めて同時に「国家」概念へと組み替えられた。その際、「中国」の観念に含まれる「世界」観念としての意味については自覚的な議論がなされず、「中国」概念から取り除かれることもなかった。こうして現在の中国人の潜在意識の中で「中国」の観念が、「国家」観念と「世界」観念とが融合混在した「世界国家」の観念として働く結果になったのであるーー。

 習近平党総書記が提唱する「中国の夢」とは「中華民族の偉大な復興の実現」だという。習氏は「2つの100年」(共産党創立100年=21年、中華人民共和国建国100年=49年)に向け、中華民族の偉大な復興の実現を推進するとする。復興が意味するものは察するに、国力の増大と国際的な影響力(支配力)の拡大などであるらしい。

 習氏の言う中華民族は五族に限らない。中国共産党は中華民族を「漢族と55の少数民族」から成るとするので、現代中国の領土に住む全ての民族が融合混在したものだろうが、それは中国国民と同義である。わざわざ中華民族を強調するのは、民族間の対立を覆い隠し、中国共産党の支配下で仲良く暮らしているとのイメージを振りまくためだろう。

 偉大な復興を目指すという中華民族だが、例えば、チベットやウイグルにおける過酷な抑圧状況が、厳しい報道統制にも関わらず国際的に知られるようになった。中国共産党の支配に従わない民族や人々に対する過酷な抑圧は以前から行われ続けていることでもあり、中華民族の形成とは、中国共産党の支配に従う民族や人々だけで中国という国家が形成されることであろう。

 漢民族は中国の人口の9割以上を占める。中華民族の形成は、漢民族に他の民族が吸収されることでも実現する。満と漢の民族対立は伝わってこないし、蒙と漢との民族対立もほとんど伝えられないが、蔵や回と漢の対立は根深い。中国という世界に蔵や回が含まれると中国共産党は認識しているだろうから、漢に従わぬ蔵や回に対する「同化」の強制は過酷になる。

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