世界経済は実物経済(実体経済)と金融経済(マネー経済)に大別される。実物経済とはモノやサービスの取引などで構成され、製造業やサービス業、農林水産業などが主体となる。金融経済は貨幣や金融商品などへの投資が主体で、金融業や機関投資家、投資ファンドなどが主体だ。
人類の歴史において、経済活動というと実物経済が主体だったのだが、20世紀後半に金融経済が急膨張した。つまり、モノやサービスを売り買いして利益を得るよりも、マネーを動かして利益を得る活動のほうが大規模になり、世界経済の構造が変質した。
世界中で実物経済に従事している人の数は圧倒的に金融経済よりも多いが、経済規模では金融経済が実物経済を数倍上回るといわれる。モノやサービスの売買が増えなければ実物経済の成長は停滞するが、世界にはマネーが溢れているのだから金融経済の膨張は続いている。
米トランプ大統領は就任演説で、米国から雇用が流出し、工場が閉鎖され、労働者が顧みられなくなったことを指摘し、製造業をアメリカに取り戻すと決意を語った。「米国製品を買い、米国人を雇う」がルールだと宣言し、米国の実物経済の活性化を重視する姿勢を明確にした。
米国でも実物経済に従事して生活する人の数が圧倒的に多いだろうから、より多くの票を選挙で獲得するために、実物経済の活性化を打ち出すのは合理的な戦略だろう。レイオフや工場閉鎖などが資本の論理として活発に行われる米国だから、実物経済を重視する姿勢はアピールポイントになったかもしれない。
だがトランプ大統領は、金融経済の膨張も一因である格差拡大の是正については触れず、米国企業が世界各地で溜め込んでいる莫大な資金を活用することにも触れず、世界の租税回避地を利用した課税逃れへの対策にも触れず、金融経済に関する言及はなかった。
実物経済で米国は世界1の大国だが、金融経済においても圧倒的な世界1の国だろう。テレビや車を製造して売るよりも、投資のほうが遥かに巨額の富を得ることができると米国は経済構造を変えてきた。金融経済の優位はそのままに、実物経済でも活性化に成功したならば米国は世界で「独り勝ち」となる。
新政権にはゴールドマンサックス関係者など金融界から加わっており、米国優位の金融経済は温存され、再分配の推進などは考慮の対象外だろう。大富豪でもあるトランプ大統領の労働者重視とは選挙対策であるとともに、実物経済の「敗者」に寄せる哀れみを示しているのかもしれない。
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