トルコ、イラク、シリア、イランなどにまたがって生きる3000万人以上のクルド人は、独自の国を持たない最大の民族といわれる。各国では多数派が形成する政府に「支配される」立場で、しばしば抑圧の対象ともなってきた。独立を目指して武装闘争を行う党派もあるが、各国は厳しく封じ込めてきた。
どこかの国でクルドの分離独立が実現したなら、他の国でも連鎖反応を引き起こす恐れがあり、各国の分裂・再構成が始まる可能性は高い。クルド人の独立願望は地域の潜在的脅威とみなされてきたが、具体的に動き始めている。イラク北部のクルド自治政府が、分離独立の可否を問う住民投票を9月25日に行う。
賛成多数は確実とみられているが、反対の動きも強まっている。アラブ人が多数を占めるイラク議会は住民投票実施に反対する決議を採択し、イラク首相は「対話以外に選択肢はない」と中止を説得、イラク最高裁は違憲性の有無を判断するまで住民投票を停止するよう命令した。自治政府は住民投票を強行する姿勢だ。
周辺国も強く反対し、トルコはイラクとの国境近くで軍事演習を開始するなど威嚇を始めた。トルコは国内でクルド人の抑え込みを強化しているだけに、隣国イラクでクルドの分離独立の意思表明が公然となされると、政権への反発も加わって影響が大きくなる可能性がある。
ISとの戦闘でクルド人主体の勢力を支援してきた米国も、地域の安定を損なうと住民投票に反対し、イラク政府との対話をクルド自治政府に呼びかけている。IS掃討でクルド人主体の勢力は大きな役割を果たしたのだが、ISが弱体化した代わりにクルドが勢いづいたとあって、この地域への米国の関与は波風を立たせ続けている。
クルドが独立して国家を作ることができたとして、その国家がクルドの理想の国になる保証はない。クルドの中にも様々な対立がある。同一民族で国家を形成しても、民意を可能な限り反映させた政府を形成するためには民主主義(自由選挙)が必須で、自由選挙を行うならば様々な対立が露呈してくる。ただし、主権者意識を人々は強く持つことができる。
ユーゴスラビアという国家があった。南スラブ人という大きな民族の物語に統一の根拠と正当性を求めたのだが、社会主義の実験の失敗もあり、南スラブ人という大きな民族の物語の中で、セルビアやクロアチアなど様々な対立が先鋭化し、分裂に向かうしかなかった。民族という物語だけはで国家の求心力を保つことに限界がある。
クルドの国家形成は、欧州諸国による中東の植民地支配の残渣を浮かび上がらせ、各国の国境(欧州の植民地の境界)を書き直すことにつながる可能性がある。ただ、国家を形成する動機(民族であろうと理念であろうと)が正しければ結果も正しいものになるという保証は何もない。
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