EUのフォンデアライエン欧州委員長はは3月10日、欧州が原子力発電を縮小してきたのは「戦略的に誤りだった」と明言した。原発由来の電力は「1990年には3分の1だったが、現在では15%程度に過ぎない」「信頼性が高く、低炭素の電源を欧州が放棄したのは戦略的な誤りだった」とし、今後は再生可能エネルギーとともに次世代原発の小型モジュール炉(SMR)導入を推進すると表明した。
脱炭素や脱原発など「崇高」な理念先行の政策をEUは掲げ、産業界や人々に強制してきた。だが、ウクライナ侵攻したロシアに天然ガスや原油の供給を頼っていた欧州は、脱ロシアに動いて中東からの天然ガス供給を増やしたものの、イスラエル・米国のイラン攻撃による緊張で中東に依存する脆弱性が明らかになり、自前のエネルギーを確保することが必要だとEUは、やっと現実に根差した政策へと転換した。
EUは自動車政策でも方向転換した。2035年にガソリン車の販売を禁止し、EV以外は認めないとしていた。だが、EVの普及は遅く、売れるのは中国製EVが多いとあって、やっと消費者の意向を尊重する姿勢に転じ、35年以降も条件付きとしたもののガソリン車販売を容認した。脱炭素という「崇高」な理念先行の政策は、期待通りに動かない現実に阻まれ、修正・方向転換を余儀なくされている。
ガソリンエンジン車は終わりで、EV一択の時代になると理解した世界の自動車メーカーはEVの新車開発に懸命になり、次々と新車を市場投入したが、好調に売れたのは米テスラ車と中国車。巨額の開発費用の回収は期待できず、世界の自動車メーカーは巨額の赤字を相次いで計上せざるを得なくなった。EVへの転換を自動車メーカーに強制するというEUの「崇高」だが現実離れし、結果として間違った政策のツケを世界の自動車メーカーが払うことになった。
かつて欧州諸国は世界各地で植民地支配し、産物や資源を持ち去る一方、自国産品の市場にする自国有利の自由貿易で富を蓄え、近年では改革開放後の中国を市場として利益を上げたが、競争力を高めた中国産品の輸出攻勢にEU市場が席巻されるようになった。そこで、中国などアジア勢に産業競争力で劣るという現実をようやく直視したEUは新たに産業促進法を準備している。
これはEU域内での鉄鋼やアルミニウム、セメントなどに加えて太陽光パネル、風力タービン、電解装置、EVなどの製造を支援するものだが、補助金の支給や政府調達などの対象にEU域内での生産品を優遇するなど保護主義に動く。安価で競争力が高い中国製品にEU市場でも太刀打ちできないので、EU域内市場を囲い込むとの意思表示だ。中国企業のEU域内への工場進出の増加も期待しているようだ。
EUはEUが有利になる規制を打ち出し、それを「崇高」な理念で飾り、普遍的だと正当化し、世界標準へと格上げして各国にも強制する。新たな規制や自由貿易などがEUに有利な時は「崇高」な理念を主張し、EUに不利な状況になると一転して現実的なEU の利益追求に転じる。変わり身の速さは状況の変化に応じてEU各国の利益を第一とする当然の行動だろうが、「崇高」な理念の軽さが可視化される。米トランプ政権は「崇高」な理念など無視し、自国の利益を憚りなく追求するが、正直さではEUより上かもしれない。
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