かつての冷戦は米国とソ連による世界の分割支配体制であった。米国とソ連の対立は資本主義と社会主義の対立であるともされたが、資本主義側には繁栄した国が多かったのに比べ社会主義の側ではソ連をはじめとして経済的に停滞した国ばかりだった。だが、社会主義の影響は資本主義国にも及び、富裕層への課税を強化したり、労働法制の整備や労働者の権利確保などに努めなければならなかった(それが厚い中間層の形成につながった)。
やがて1991年のソ連の崩壊など社会主義の側で体制転換する国が相次ぎ、現実として社会主義による国家運営には限界があり、社会主義との優劣競争に資本主義が勝利したとの解釈が一般化した。社会主義側の「敗北」について加藤周一氏は次のように論じた(「20世紀と放送」内川芳美氏との対談、1997年=『加藤周一対話集⑤ー歴史の分岐点に立って』所収。適時修正あり)。
「市場原理ではない市場外の原理を社会主義的だとすれば、資本主義は社会主義的原理を導入しなければうまく行かない。社会主義的な計画経済は市場原理、競争原理を導入するものだ。純粋社会主義というものは成り立たないし、未来がない。また、純粋資本主義というものもない」
「実際に起こったことは、ソ連は資本主義的な原理をほとんど導入しなかった。資本主義側はヨーロッパでもアメリカやカナダでも社会主義的な要素を導入した。つまり市場原理に基づかない原理を導入した。資本主義が勝ったのではなく、資本主義と社会主義を合わせたものが勝った。資本主義側で合わせ、社会主義側で合わせなかったから、ソ連側が失敗して、アメリカ側というか資本主義側が成功した」
「社会主義が競争原理を導入しなければダメなのは、能率が下がるからだ。資本主義の側で社会主義的=市場外的原理を導入しないとうまくいかないのは、市場の勝敗は短期的だという性質があり、長期的なものは市場原理に任せると成り立たないからだ」
「長期的なもので典型的なものは、たとえば教育だ。学校にいる学生が本当に労働力になるのはだいぶ先の話になる。だから、短期的に今年の決算はと言われても、教育の効果は今年の決算ではゼロで、投資だけがあって利益はない。市場原理だけでは教育は成り立たない。教育というものは非常に長期的で、市場の短期的な計算と合わない」
「米国には多くの大学があるが、私的財団と政府が大学に膨大なカネを投資している。儲かるからではなく市場外の活動だ。純粋の市場原理でいけば、米国の大学の大部分はなくなってしまう。大学がなければ米国の工業力は落ちるから、経済的にも米国は持たない」「メトロポリタン・オペラは各種の財団によって支えられている。入場券だけで運営できる=市場原理だけで運営できるオペラは全世界にただの一つもない。政府がやるか財団がやるかしかない」。
ソ連の崩壊から中国は多くを学び、資本主義(市場主義)を散り入れて大幅な経済成長を達成した。同時に国内では富裕層が形成され、格差が大きく広がっているという。現在の米中の対立は、資本に従属する国家と、国家に従属する資本がせめぎ合っているように見える。
0 件のコメント:
コメントを投稿