2025年4月5日土曜日

民族と宗教

 2018年にイスラエルで成立したユダヤ人国家法は、▽イスラエルはユダヤ人にとって歴史的な母国である▽民族自決権はユダヤ人の独占的権利である▽エルサレムはイスラエル国家の首都である▽ヘブライ語のみが公用語である▽亡命ユダヤ人を集め、ユダヤ人入植地の拡大を政府が奨励して促進する▽ディアスポラにおけるイスラエルとユダヤ人との関係強化に取り組む-などを明記した。

 この法律について中東調査会は、今回の法案では「イスラエル国内に居住するユダヤ人と離散したユダヤ人の表記が共に『the Jewish People』」とあり、「離散したユダヤ人は世代交代を繰り返しながら世界各地に住んでおり国籍、言語、身体的特徴の点で異なる」、イスラエルに住むユダヤ人と今もディアスポラにあるユダヤ人が法案中で同義に扱われているのは「政府がユダヤ人=ユダヤ教徒との認識を持っていることを意味する」と解説した。

 続けて、民族が宗教的な面から強調されていくことで「イスラエル社会においてユダヤ教徒でありながら、慣習や教義から外れる者はユダヤ人なのか」「パレスチナ人でありながらユダヤ教徒に改宗した者はユダヤ人なのかという問題が政治の場で大きな議論へと発展していく可能性も生まれる」とした。

 民族意識を刺激して国内の統制を進めるのは強権政治国の常套手段だ。漢民族の他に50以上の民族が暮らす中国は、人工的に中華民族を形成させ、中華民族との意識の定着を進める。国内が特定の民族意識で固められると、「我々」と「その他」の峻別が行われ、排外主義がはびこり、敵対したり対立する他民族(=他国)を敵視・蔑視する風潮が珍しくなくなる。

 民族の定義は「言語・文化を共有する人間の集団」「言語・人種・文化・生活慣習・歴史的運命を共有し、同族意識を持つ人々の集団」とか、「人種的・地域的起源が同一(または同一であると信じ)で、言語・宗教などの文化的伝統と、歴史的な運命を共有する人間の集団」「言語・宗教・風土・歴史・生活習慣などが共通する社会集団。同族意識を持つ」など宗教を加える解釈もある。

 神道やヒンズー教など特定の民族だけが信仰する宗教があるので、宗教を民族の要素に含める定義も成立しそうだが、神道を信仰する外国人は日本民族になるのか-という疑問が出てくる。ユダヤ教を信仰する人はユダヤ民族であるとイスラエルは宣言したが、これは欧米など世界各地のユダヤ人に向けて「我々」意識を高めてもらおうとの政治的なメッセージだ。

 民族意識は限定された人々に共有されるが、何らかの宗教の信者であるとの意識は民族を超えて共有される(例えば、仏教・キリスト教・イスラム教)。ユダヤ教を信じる人々をユダヤ民族とするなら、仏教民族とかキリスト民族とかイスラム民族も誕生しそうだが、仏教・キリスト教・イスラム教は特定の国家に属してはいない。イスラエルがユダヤ民族を強調するのは、中華民族と同様に人工的に民族意識を高め、統治に利用するためだろう。

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