エンジン車の新車販売を段階的に規制し、2035年にはエンジン車販売を事実上禁止するEUの計画は、各国メーカーにEVへの転換を強制するものだった。CO2排出量削減という大義名分には反対できないことと、自動車市場に新たに大きな市場(EV)が生まれることが約束されたとして各社は相次いで野心的なEV投入の計画を華々しくアピールした。だがEVの普及は遅々として進まない。
CO2排出量削減へ向かってEUの人々が高い意識で行動し、EVへの乗り換えが順調に進むとの目論見ははずれ、各社は「EV一本足」の経営では危ういと判断し、EUの計画に対する修正圧力が高まった。ドイツの要求によりEUは、合成燃料を使うエンジン車の販売は継続的に認めると方向転換した(合成燃料は再生可能エネルギー由来の水素とCO2からつくられるものに限られる)。
さらにEUは、乗用車などのCO2排出量規制を緩和した。各年ごとに排出量を基準値以下に抑えなければ罰金を科すとのルールを修正し、27年までの3年間平均で基準を達成すれば罰金を科さず、猶予期間を与えるとした。生産なら政治力により強制的に変化させることができるが、自由な市場に変化を強制することは困難だということをEUは証明してみせた。
CO2排出量削減が地球環境のために早急に絶対必要ならば、こうした規制緩和は行われなかっただろう。だが、EVへの移行が遅く、各国の自動車メーカーの経営にも影響が出始めたという現実を前にしてEUは、規制緩和を求める自動車メーカーへの配慮を優先せざるを得なくなった。理想を掲げて政策を策定・推進するが現実に合わせて柔軟に修正するのは当然の判断とはいえ、理想が現実的ではなかったともいえる。
CO2排出量削減が地球環境のために急務だとするならEUは、域内で生産されている大排気量車に対する規制を強めるべきだった。大排気量エンジンはC02排出量が多いのだから、EVが増えるのを待つよりも大排気量車を減らすほうが実際にCO2排出量を減らすことができた。だがEUは域内で生産される大排気量車を野放しにしている。
世界の新車販売に占めるEVは22%(PHEV含む。2024年)と着実に増えているが、エンジン車と完全に置き換わるには相当の年月を要するだろう。EV普及が進まない要因として▽充電スタンドの不足▽航続距離の制約▽価格が高い-などが指摘されるが、どれも早急な解決は無理だ。米テスラは高級車として高価でも売れ行きを伸ばしたが、EVが高級車に偏るならば普及には限度がある。
EVがもっと広く普及するには、高級車ではなく大衆車が中心とならなければならないだろう。通勤や買い物など日常的な使用に支障がない近距離移動に狙いを絞ったEVが、ガソリン車と同程度の価格で販売されるようになれば普及に弾みがつこう。欧州市場で中国BYDのEVが低価格で販売を伸ばし、テスラを抜いたという。CO2排出量削減という理想の実現に貢献するのが中国製の低価格EVだという現実に、EUはとまどっているようだ。
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