2025年6月7日土曜日

並ぶ人たち

 日本各地で備蓄米を買うために行列する人々の様子がニュースで報じられている。開店の1時間以上前から行列に並ぶ人たちもいて、コメの争奪戦は日常化した。数量が限られる店舗では備蓄米を入手できない人もいたそうで、手に入らないとなると願望がますます刺激されたりし、「次こそは」と頑張って早くから行列に並ぶようになるのかな。

 商品棚からコメが消えた様子ばかりが報じられ、「早く買っておかないと、なくなってしまう」と浮き足だった人々が殺到して行列し、順に備蓄米を手にする。その様子は“絵になる”ので各社のカメラクルーが群がり、テレビや新聞などで報じられ、それを見た人々が、手に入るなら「買っておこうか」と新たに行列に加わるとなるなら、行列は絶えそうにない。

 52年前の1973年にも店舗の前に人々は行列をつくった。当時、大阪の千里ニュータウンで「オイルショックでトイレットペーパーがなくなるらしい」との噂が広がり、スーパーに人々が殺到してトイレットペーパーが売り切れ、それが全国に伝わった。生活必需品が手に入らないかもしれないとの不安に突き動かされた人々が行列をつくる光景は何度も繰り返されている。

 コメは日本人の主食であり、供給不足は政治問題となる。敗戦後の1946年には、東京各地で人々が「配給の組織を正して早く公平に食わせろ」「元気で働けるだけ食わせろ」などと要求した(NHK)。皇居前広場で行われた飯米獲得人民大会(食糧メーデー)には25万人が参加し、「国体はゴジされたぞ 朕はタラフク食ってるぞ ナンジ人民飢えて死ね」のプラカードが掲げられた。

 主食の欠乏に対する人々の怒りが暴動につながった例は世界では珍しくない。18世紀のフランス革命は、秋の収穫が激減して凶作に見舞われて食糧不足が深刻となったことが引き金になったとされ、2008年には穀物の価格が世界的に高騰し、エジプトなどアフリカ諸国や東南アジア諸国、南アジア諸国、南米諸国など主要穀物を輸入に頼る途上国で政府への抗議デモや暴動が頻発した。

 政府が減反政策を事実上続けてコメ不足を招いた日本で、主食の供給不足が問題化したのだが、人々は怒りを表さず、おとなしく行列に並び、やっと手に入れたコメを手にして、嬉しそうに報道のインタビューに応じている光景がテレビなどに現れる。コメが入手できなくなっても怒りが爆発する気配は希薄で、切迫感がないのは、コメがなくても代わりに食べる食料品が豊富にあるからだろう。

 おとなしく行列に並ぶ人々が示すのは、「食い物をよこせ」などの暴動は現代の飽食の日本では起こらないだろうということだ。腹を空かせた人々の怒りが政府打倒に発展することもなく、コメを奪い合うこともなく、おとなしく行列に並ぶ。人々が怒りを表してこそ政府も政治家も官僚も本気で構造改革をせざるを得なくなるのだが、既成の秩序におとなしく人々が従うことは、既成の秩序の延命を助けるだけだ。

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