米国の国際貿易裁判所は5月28日、国際緊急経済権限法を根拠にしたトランプ政権の相互関税や10%の一律関税などが、同法により大統領に与えられた権限を越えているとして差し止めを命じた。ホワイトハウスは「国家の緊急事態を適切に解決する方法を決めるのは、選挙で選ばれていない裁判官の役割ではない」とし、政権は上訴した。
翌29日、米連邦控訴裁判所は、差し止めを命じた下級審の判決を覆し、トランプ政権が発動した幅広い関税措置は維持できるとした。決着は最高裁まで持ち越されると見られるが、最高裁の9人の判事のうち6人が保守派(うち3人は1期目のトランプ大統領が指名していた)なので、トランプ政権に有利な判決がでる公算が大きい。司法が行政に迎合するのは権威主義国では珍しくないが、米国でも同様の社会に近づきつつある。
関税だけではない。トランプ政権は、不法移民の強制送還を始め、DEIを追究する政策を撤回し、政府職員の大幅な削減を実行し、ハーバード大などへの締め付けを強め、留学生の削減を始めるなど相次いで従来の路線・枠組みの変更を強行している。それらが法的な正当性を有しているのか定かではないが、いずれ最高裁が容認するとするならトランプ政権は独裁的な統治を民主主義国である米国で実現した。
中国やロシアなど権威主義国では民主主義や法の支配・人権など西欧由来の普遍的とされる価値観は軽んじられる。個人独裁の典型の北朝鮮では西欧由来の価値観は見向きもされない。民主主義国であっても、議会や司法に縛られることなく、政権が自由に権力を行使できると何が起きるかを米国のトランプ政権は世界に見せている。
ただし、米国では選挙により権力のあり方を決めるという原則は共有され、トランプ氏の3選出馬は不可能とされる。中国やロシアでは憲法を改正して習近平氏やプーチン氏の多選を可能にしたが、米国では現行憲法に規定された民主主義体制を覆そうとする動きは現れてはいない。自由選挙や法の支配などにより国家形成を行ってきた長い歴史があるから米国では、国の形の根本的な変更は容易ではないのだろう。
自由選挙だけが機能して、議会も司法も行政権力に従属するトランプ政権の米国では、異論は攻撃の対象になり、客観性や情報の真贋は無視され、選挙により権力を掌握した政権を制御することが困難になっている様相だ。分断と対立が先鋭化した結果が、選挙の勝者が権力を振り回すことになるのなら、自由選挙は権力を掌握した人々の独裁を許すこともありうる。
ヒトラーは自由選挙で権力を掌握し、やがて独裁体制を構築したように自由選挙は民主主義などの否定にも道を開く。このまま米国が「脱」民主主義に向かうとは思われないが、トランプ政権がやりたい放題に振る舞っている現状は、何ものにも縛られない自由を権力者に与えると、何が起きるのかを示している。分断と対立が、選挙の勝者による異論の排除に向かうとすれば民主主義は形骸化する。
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