2025年9月17日水曜日

停戦交渉の価値

 イスラエル軍は9月9日、カタールの首都ドーハを空爆した。滞在していたハマス指導部を狙ったもので、「カタールはテロリストに安全な隠れ家をあたえ、資金を提供してきた」とネタニヤフ首相は主張し、交戦国ではないカタールに対する空爆を正当化した。カタールの首相は「国家テロとしか解釈できない」と強く批判した。

 カタールにはハマスの政治部門が拠点を置いており、カタールはイスラエルとハマスの停戦交渉を仲介してきたのだが、交渉団のトップも狙われた空爆でハマスは態度を硬化させるだろうし、カタールも停戦交渉の仲介を停止するだろう。そうなることを承知でイスラエルが空爆を行ったのは、停戦交渉を見限ったからだ。

 イスラエルはガザを徹底的に破壊し、人々への食糧支援を妨害して大規模な飢餓状況を生じさせたと国際的に批判されているが、意に介さない。軍事組織としてのハマスをほぼ壊滅させたので、停戦交渉に応じて相手の要求を考慮する必要性は乏しく、停戦交渉を軽視していただろう。圧倒的に有利な状況なのだからハマスに対して微塵も譲歩するつもりがないとすれば、停戦交渉が進展しないのは想定通りだったか。

 戦況が膠着状態になって交戦国の継戦能力に影響が出始めたなら、停戦交渉の出番となる。だが、一方が圧倒的に有利な戦況での停戦交渉は五分五分の交渉ではなく、立場に差が出る。ハマスは停戦交渉を長引かせて時間稼ぎをしたかったのだろうが、イスラエルはハマスを軍事力で壊滅させるのは「今しかない」と見て、軍事力で決着をつけると決めた気配だ。圧倒的に「勝っている戦争」なら、停戦交渉の価値は低い。

 イスラエルのカタール空爆は国際法違反であり、主権国家に対する攻撃に反撃する権利がカタールにある。だが、中東において圧倒的な軍事力と情報網を有するイスラエルと交戦する選択肢はカタールにはない。米国もイスラエルの行動を抑制することができず、国連もイスラエルに対して無力な現在、イスラエルは軍事力で一気に支配地を拡大するとともに、周辺諸国の制空権も確保したので、いつでもどこでも空爆できよう。

 イスラエルは周辺諸国で敵対勢力の幹部を狙った暗殺も繰り返している。ハマス幹部を狙ったカタールでの攻撃は許されるとイスラエルは主張するが、それを認めると、どこの国でもハマス幹部が滞在しているならイスラエルは攻撃できることになる。例えば、日本に滞在しているハマス幹部も標的にできるという主張になり、空爆は困難だろうが、暗殺なら許されるとするだろう。

 サウジアラビアもエジプトもイスラエルの軍事行動を黙認し、イランもイスラエルの空爆に抗することができない状況で、イスラエルは中東において軍事的な覇者となった。ハマスもヒズボラも弱体化したが、イスラエルに殺された人々を記憶する各地の人々の恨みは残る。イスラエルの軍事力による中東支配が始まったが、次の世代の人々によるイスラエルに対する新たな抵抗活動のタネがまかれたのかもしれない。

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