植民地支配していたインドで英国は1853年に鉄道を開業、これはアジアで初めてだった(日本の鉄道開業は1872年)。広大な国土面積と世界1の人口を有するインドは全土に鉄道網を張り巡らせ、その総延長は6万2000km以上で、日本の倍以上の規模だ。大量の列車を走らせ、大量の人々の移動を支えているが、列車からの転落など事故も多いという。
インドには主要都市を専用軌道で結ぶ高速鉄道計画があり、2017年にムンバイとアーメダバードを結ぶ約500kmの高速鉄道の起工式が開催された。日本の新幹線方式で建設され、2023年中に全線開業することになっていたが、用地買収の遅れや細々とした設計変更(インド側からの要望が相次ぐ)などで開業は遅れている。
ムンバイとアーメダバード間の高速鉄道建設に日本政府は大盤振る舞いした。総事業費は約9800億ルピー(約1.8兆円)とされ、そのうち8割は円借款で賄われる(金利は年0.1%、償還期間は50年・15年の据置期間を含む、調達条件はタイド)。だが、総事業費は計画を上回ることが確実視され、インドは将来的に車両を日本からの輸入から国内生産に切り替えることを想定していると見られている。
新幹線の輸出が日本で政治的な課題とされたため、新幹線の建設費用を日本側で用意し、技術協力も運転手養成なども官民あげて協力する態勢が取られた。経済案件ならばインドの高速鉄道建設に協力することで日本が得ることのできる利益はどれほどか厳しく検討されただろうが、政治案件となったので、日本が建設費用の大半を用意して、新幹線輸出の実績を実現することが目的となった。
償還期間は50年だが、数十年後にはインドがGDP規模で日本を抜いている可能性があり、この高速建設に関わる円借款はインドにとって非常に軽い負担だろう。何やら、日本からインドへの貢物のようにも見えるが、交渉上手のインドだから、日本に感謝することよりインド側の勝利であると自負するだろう。また、50年後には技術力などでもインドに逆転され、日本がインドから最新の高速鉄道の車両を輸入する状況になっている可能性もある(先進国から入手した最新技術を我が物にし、自力開発を発展させた中国にインドも続くだろう)。
来日したインドのモディ首相に日本側は、JR東日本が開発中の次世代新幹線車両「E10系」導入を提案した。当初は「E5系」の採用が想定されていたが、開業の遅れでE10系が候補に浮上した。E10系は最高営業運転速度320km/hを目指して開発されている車両だ。E10系のノーズは長いが、これはトンネル突入時の圧力波を抑え、騒音を軽減するためだ。人口が多いインドで使うなら、ノーズを短くして乗車定員を少しでも増やすほうが適切だろうが、ムンバイ近くの河口にインド初の海底トンネルが設定されている。長さ21kmというからE10系が適している。
世界1の人口だけでなく経済力や国際的影響力をさらに高めるだろうインドとの関係を良好に保つことは重要だが、政治案件としての側面が目立つ新幹線の輸出に過大な期待をかけるべきではないだろう。交渉上手で独自の外交を展開するインドと、「貢物」抜きで交渉し、信頼し合う外交関係の構築ができているのか試されている。
0 件のコメント:
コメントを投稿