経済成長を促したり、社会保障の充実を進めたり、人々の生活レベルを上げたり、国防や治安維持に万全を期したり、裁判制度を機能させたり、教育環境を充実させたり、交通網などのインフラ整備を進めたり、主食などの供給体制を維持したり、諸外国と交渉したり、国際社会で自国の価値を高めたり、景勝地の環境を保護したり、選挙の公正な実施を支援したり-などと国家は多くの責務を担っている。
それらを常に同時に行うのが国家だが、状況によって優先順位は変化する。武装したギャング団が跋扈している国では治安維持が最優先されるだろうし、国内の農地が機能せず、輸入に食料を頼る国では食料供給の維持が最優先され、大地震や大規模な噴火などに見舞われた国では被災者の救護が最優先され、隣国などからの軍事的挑発が続く国では国防の優先順位が高まろう。
国家にとっての優先順位とは価値の優先順位でもある。平時が続き、現実的な防衛上の脅威が過少ならば国防の優先順位は下がり、経済政策などが重視されたりするが、近隣で戦争が始まったり、他国との相互防衛条約が機能しなくなる不安が高まったりすると国防の優先順位が上がる(国防の価値が上がる)。それがEU諸国の現在だ。
国家によって最優先する価値は異なるし、状況によっても最優先する価値は変化するものだが、変化しない場合もある。例えば、中国。今の中国にとって、常に最優先される価値とは、中国共産党の独裁体制を維持することだ。経済成長は中国共産党の独裁統治を正当化するために重要で、政治的・軍事的に国際社会で存在感を高めることは人々に誇りを持たせ、現在の体制の維持に役立つ。
中国では主権は中国共産党にあり、自由や民主主義、法の支配など西洋由来の価値が低く位置付けられているのは、個人が主権を共有することを防ぐためだ。自由も民主主義も法の支配も中国共産党の独裁体制に都合がいい範囲で容認される。共産党の独裁体制の維持が常に最優先の価値であるという中国は、外から見て分かりやすい国である。
国家にとっての価値の優先順位は国政選挙で政権党が変わったり、大統領が交代した場合に変わったりもする。その顕著な例が米国だ。トランプ氏は大統領令を連発して急激な政策転換を推し進めている。熟議やコンセンサスなどは影も見えず、国内の反対勢力は無力なように見え、諸外国は振り回されている。トランプ氏の行動は、米国において常に変わらない価値など存在しなかったと示している。
自由や民主主義、法の支配は普遍的な価値だと西欧・米国は主張し続けてきた。だが、権威主義国の勢力拡大とトランプ大統領の政治は、普遍的な価値だとの説得力を損なっている。日本は普遍的な価値を尊重する国だと自認するが、それらの価値が常に最優先されているわけではない。日本には独自の最優先する価値があるとの合意形成はなされず、状況に応じて最優先される価値は変化し続ける。日本は何かの価値観で形成された国家ではなく、自ずから「まとまった」要素が大きいからだろう。
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