2025年11月15日土曜日

人民を冠する

  CNNによると、中国のコーヒーチェーン「人民珈琲館」は大半の店舗を、中国共産党を想起させる赤で装飾し、店頭に星を配置したりして、人民のためのコーヒーチェンであるとのイメージで訴求していた。だが、中国共産党の機関紙「人民日報」に、人民という言葉を使うのは不適切だと批判されて、コーヒーチェーンは謝罪し、名称変更すると発表した。

 人民日報は「マーケティングは創造的であってよいが、一線を越えてはならない」とし、人民という言葉は「公的性格と深い政治的含意を持つ。特定の社会的情緒と公共の利益を体現するものだ」と指摘、人民という言葉を「冒涜してはならず、誤用も許されない」とした。つまり、民間が人民という言葉を使うのはダメだと批判した。

 人民珈琲館の客層についての情報はCNNにはなく、党員の利用が多かったのか、非党員も多く利用していたのか、どのような人たちが利用していたのかは不明だ。人民という店名から、共産主義を信奉する同志が集う場と連想したくなるが、時代は大きく変わった。愛国意識を持つ人々が増えているから、国家色を演出し、熾烈なコーヒーチェーン間の競争を勝ち抜こうとしたのだろう。

 人民という言葉に目をつけたのは、資本主義的な発想だ。商標登録がなされていなかっただろう人民という言葉を「これ、ウケるんじゃないか」と採用した。商売に利用できるものは何でも利用するのは当然で、話題になって客が集まりそうな店舗にしつらえて客を呼ぶ。おそらく、このコーヒーチェーンは中国共産党の高官とつながりを持たなかったから人民日報に批判された(ただし、中国共産党の高官とつながりを持つと権力争いに巻き込まれる危険性がある)。

 人民という言葉は公的な言葉だと人民日報は主張したが、人民は和製漢語だとも言われる。明治時代に日本人が英語のpeopleを「人民」と訳し、それが中国に持ち込まれたという。中国で人民という言葉は古くから使われていたが、それは一般的な人々を指すもので政治的な見方は含まれていなかった。専制君主や貴族など特権階級に属さない人々を意味するpeople=人民という言葉の使用は日本由来だろう。

 人民という言葉は共産党や国家だけが使うことができ、民間は勝手に使うことはできない中国で、人民は支配する対象であり、自由に議論し、自由に行動し、時には特権階級を批判するような人々を人民とみなすことは許されない。共産党の独裁体制に従順に従う人々のみが人民であって、珈琲店で政治体制を議論するような人々が出現することは許されない。

 人民珈琲店が存続して、革命を含む社会変革を担うのは「我々人民だ」などという意識を持つ人々が集まるようになることは、絶対に防がなくてはならないのが現在の中国の体制だ。中国共産党だけが君臨し、人民は従順な羊の群れであればよいのであるから、政治的な意識を人々が持つことも制限しなければならないだろう。かくて人民珈琲店や人民酒場、人民映画館、人民飯店、人民コンビニなど人民を勝手に冠することは許されない。

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