1939年にドイツのヒトラーとソ連のスターリンは独ソ不可侵条約を締結したが、1941年6月にヒトラーは独ソ不可侵条約を一方的に破棄してソ連に侵攻し、独ソ戦が開始された。1941年4月には、ソ連は日本と日ソ中立条約を締結した。これは、相互に領土の保全と不侵略を約束し、締約国の一方が第三国から攻撃された場合は他方は中立を維持することを決めた条約だが、1944年5月にドイツが無条件降伏し、8月にソ連は日ソ中立条約を破棄し、対日宣戦布告を行い、満州などで進撃を開始した。
不可侵条約は世界情勢の変化に影響を受け、各国の力関係が変化するとともに条約の価値が変動し、時には一方的に破棄されることもあり、締約国の長期的な安全保障には限定的な効力しか持たないことを歴史は示す。2国間の相互防衛条約も国際関係の影響を受け、破棄される。例えば、米国と台湾が1954年に締結した米華相互防衛条約は、1979年の米中国交正常化によりアメリカは台湾を国家とみなさなくなり、1980年に米華相互防衛条約は破棄された。
2国間の相互防衛条約ではなく多国間の防衛条約なら、世界情勢の変化によって1〜2国が離脱しても集団防衛体制は保たれるかもしれない。現在、世界にはNATO(北大西洋条約機構)のほか、米・豪・NZのANZUS(太平洋安全保障条約)などがあり、ロシアには集団安全保障条約機構(CSTO。旧ソ連諸国が加盟)がある。中国は軍事同盟ではなく多国間の対話の枠組みを重視している。
NATOは1949年に設立され、現在の加盟国は32。「北大西洋条約に基づき、加盟国の集団防衛を含め、加盟国の自由及び安全保障を政治面・軍事面での保障を目的とする」組織で、政治的には「民主主義の価値を推進し、加盟国が防衛・安全保障上の課題の解決のために議論・協力し、長期的な信頼を構築して紛争を防ぐ」、軍事的には「外交的努力が敗れた際には、危機管理のための軍事的オペレーションを遂行する」(外務省HP)。
北大西洋条約の第4条は「締約国は、領土保全、政治的独立又は安全が脅かされていると認めたときは、いつでも協議する」、第5条は「欧州又は北米における一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす。締約国は、武力攻撃が行われたときは、国連憲章の認める個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するために必要と認める行動(兵力の使用を含む)を個別的に及び共同して直ちにとることにより、攻撃を受けた締約国を援助する」とする。
トランプ大統領はデンマーク自治領グリーンランドの領有に向け、軍の活用を含む様々な選択肢を検討しているとする。グリーンランドに米軍が侵攻して占領すれば、NATO加盟国に対する攻撃であり、締約国は集団的自衛権を行使し、必要な行動をとらなければならない。だが、米国はNATO加盟国であり、軍事的行動の前段階の協議において米軍の行動を正当化し、NATOとしての軍事行動を阻止するだろう。
脅しをかければ国際協調を重視する諸国はやがて従うとトランプ氏は学んだ気配があり、脅しを連発する。グリーンランドを武力で占領しても、すぐに資源開発が可能になるわけではなく、住民やEU諸国の反発を考慮すれば占領にかかるコストは大きい。強く脅してディールを米国有利にし、NATO諸国の防衛費を大幅に増やさせることが狙いかとも判断できるが、グリーンランド領有を本当にトランプ氏は夢見ているのかもしれず、世界の混沌は増すばかりだ。
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