マイケル・チミノ監督の「天国の門」に、列をなして進む移民に向かって、馬に乗った先住の男らが「戻れ」「引き返せ」「ここにお前らの土地はない」などと呼びかけるが、疲れ切った様子の移民はそのまま歩みを進めるシーンがあった。この映画は、牧場主らが移民などの入植者を排除しようとしたジョンソン郡戦争にヒントを得て構想されたという。
先に移住した人々が後から移住してくる人々を迷惑がり、規制するが、国境を抜けて移住してくる人々は一向に減らず、排除しようという動きが現在でも米国では顕著になっている。欧州諸国でも、政治的な混乱が長引く中東諸国やアフリカ諸国から難民・移民が陸路や地中海経由などで殺到する動きが続き、難民・移民の流入規制を掲げる政党への支持が各国で増えている。
米国ではメキシコ国境からの不法入国者は年間200万人を超えるようになり、バイデン政権の4年間では700万人とも800万人ともされる。南部諸州から移民をバスで送り込まれたニューヨーク市ではシェルターに収容しきれず、路上生活を余儀なくされた移民の状況が報じられた。移民が建国した米国で、不法移民の急増に人々が不満を持って、受け入れか規制かで社会の分断を招いているのは皮肉な光景だ。
欧州では、ドイツが2015年に100万人以上を受け入れ、その後も難民審査の申請者は年間20万人以上といわれ、現政権は不法移民の流入制限や送還などを強化せざるを得なくなった。送還対象の約30万人がドイツに在留しているとされ、かなりの不法残留者もいると推測されている。旧植民地からの移民を受け入れてきたフランスでは、60歳以下の人口の約3割が移民を起源としているという。
イタリアには地中海を渡って10万〜20万人の難民・移民が押し寄せ続けており、海上で死亡したり行方不明になる人も多いという。イギリスではドーバー海峡を渡って難民申請をしようとする人が年間3万人以上に達し、難民認定を待っている人は10万人を超えるとされる。2023年にEU域内で難民申請者は100万人を突破した。
貧しく政治的混乱が続く国々から、豊かで人権が保障される先進国に人々が移動するのは理解できる行動だ。スマホの普及などで先進国の状況が、貧しく政治的混乱が続く国々の人々に知られるようになり、難民・移民の送り出しがビジネス化したこともあって、国境に関係なく人々が移動する。一方、受け入れ国で難民・移民は文化摩擦や社会的混乱、経済的負担などをもたらし、時には犯罪の当事者が移民・難民だったりして、受け入れ国の人々に不安感や忌避感が高まり社会に緊張をもたらす。
欧米における難民・移民の大量流入は、日本では現実感を持って受け止められてはいない気配だ。1千人/年を超えるボートピープルの到着に大騒ぎした日本で、年間に数十万人、あるいは百万人を超す難民・移民が押し寄せる状況になったなら、大混乱となり、難民・移民の流入規制を掲げる政党が現れ、支持を拡大するだろう。難民・移民を受け入れるべきだと強く主張するメディアも政党もないのだから、一気に「反難民・移民」に傾く。
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